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局長の懸念

 アデルたちがフランコビル南でスティルマン議員を拘束してから、10日後――。

「クインシー君から報告が来たよ。スティルマン議員は無事、司法当局に引き渡されたそうだ」

「そうですか、良かった」

 出張から戻って来たパディントン局長から顛末を聞かされ、アデルは笑顔を作って応じた。

「これでまた、捜査局とうちとのパイプが太くなるってわけですね」

「うむ、そうだな。イタリア君にとっても、探偵と言うものの実情をしっかり見る、いい機会になっただろう。

 そうそう毎回毎回、銃撃戦やら大捕物やらに巻き込まれる稼業だと思ってもらっては困るからな」

「ええ、そうですね」

「……ネイサン」

 と、局長がとん、とアデルの肩に手を置く。

「君は何か、私に隠していることがあるんじゃあないか?」

「い、……え、何も」

 アデルはどうにか平静を装い、局長にそう返した。

「そうか。……ふむ、イタリア君が言っていたことと違うな」

「えっ!?」

 局長の言葉に、アデルの平静はいとも簡単に崩れる。

「いや、そのっ、局長にはご心配をかけまいと考えてですね」「ほう」

 途端に、局長はニヤッと笑った。

「やはり何か隠している、と言うことだね?」

「……あっ」

 局長にカマをかけられたことに気付き、アデルはがっくりと、その場にへたり込んだ。


 アデルからF資金にまつわる「調査結果」を聞き、局長はうなった。

「ふーむ……」

「あ、あの、局長。その……」

 弁解しかけたアデルに、局長は再度、ニヤッと笑って返す。

「君がこっそり宝探しをしていたと言うことに関しては、不問にしておいてやろう。発見したものを独り占めしたと言うのならともかく、何も手に入らなかったと言うことであればね。骨折り損した君にわざわざ追い打ちをかけるのは、私の趣味じゃあ無い。

 私が気にしているのは、エミル嬢の反応だ。一体その日記の何が『あの』彼女を、そうまで心身寒からしめたのか? それが気になるんだ」

 局長はアデルが持って帰ってきていた日記を手に取り、ぺらぺらとページをめくる。

「日記の登場人物は、書いた本人のセオドア・S・スティルマン。彼の先生であったフィッシャー氏。そしてヴェルヌなる武器密売人と、地下組織を率いるシャタリーヌ、か。

 ネイサン、以前にも別の事件――リゴーニ地下工場摘発の際に、エミル嬢が『シャタリーヌ』と呼ばれていたと聞いた覚えがあるが、間違い無いかね?」

「あっ、……そうか、そう言えば聞き覚えがあるなー、と思ってました」

 間の抜けた回答をしたアデルに、局長はやれやれと言いたげに、肩をすくめて見せた。

「君は自分が扱った事件を覚えていないのかね? まあいい、とにかくそのシャタリーヌと言う人物とエミル嬢には、何らかの接点があると見て間違い無いだろう。

 ここからの話は秘密にしておいてほしいのだが、ネイサン。私は密かに、そのシャタリーヌなる人物について調査してみようと思う。

 今のところ、エミル嬢は自分が抱えている秘密を打ち明ける勇気が無さそうだ。だから我々が知れる範囲まで調べ上げ、彼女が打ち明けやすくできる状況を作ってやろうと思う。

 彼女にとって、その秘密は彼女自身を苦しめ続ける根源でしか無いと、私にはそう思えてならないからね」

「分かりました。エミルにはその件、隠しておきます」

「頼んだよ、アデル。

 くれぐれもカマをかけられて、引っかかったりはしないように」

「……承知してます」




 局長のオフィスを後にし、廊下に出たところで、アデルはエミルとすれ違った。

「あ、エミル」

「……なに?」

 いつものように冷たい態度を見せるエミルに、アデルは優しく、そして明るい声でこう切り出した。

「グレースからいい情報を仕入れたんだ。近所にうまいコーヒーショップができたってさ」

「それが?」

「一緒に飲みに行こうって話だよ。パンケーキも出るらしいんだけどさ、うまいらしいぜ?

 な、俺がおごってやるからさ、一緒にどうよ?」

「……」

 エミルはそのまま背を向け、歩き去る。

 が――去り際に、いつものように淡々とした、しかしどこか嬉しそうな声で、こう返してきた。

「明日、あんたもあたしも休みでしょ? 朝10時、このビルの前でね」

「……おう」

 エミルがその場から消えた後、アデルは自分がいつの間にかヘラヘラと、締まりの無い笑みを浮かべていたことに気付き、慌てて表情を引き締めた。

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