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Civil war "eve"

 アメリカ合衆国最大の内戦、南北戦争。

 勃発の直接の原因は、それまで合衆国の富裕層における「常識」であった奴隷制に対する意見の相違に起因するのだが、そもそも何故、戦わねばならぬほどに意見を違えることとなったのか? それは北部地域と南部地域の産業構造が分化し、それぞれの地域に住む人民の意識が変化していたことが、最も大きな原因とされている。

 プランテーションに代表される大規模農業を続けるべく、依然として「安価な」労働力を要する南部。工業化の進行により、安価でなくとも「質の高い」労働力を欲する北部。需要の質が異なる以上、意見が食い違うのは必然である。

 やがて妥協できないほどに両陣営は対立を深め、その結果、南部はアメリカ連合国として合衆国から分離。そして西暦1861年、戦争が勃発した。


 無論、一国が分裂することなど、愛国心の強い者たち、諸外国からの干渉に対し警戒を怠らぬ者たちにとっては、何としてでも避けるべき事態に他ならない。

 意見対立が激化する以前から、政治家や大実業家、その他国内における権力者たちの多くは様々な議論、様々な法整備、様々な運動を繰り返し、その結果に至らぬよう尽力を重ねていた。

 それは元々から政治的、社会的な力が強かった北部の人間だけに留まらない。南部の人間においても――元々抱いていた主義・主張の下で――東奔西走ならぬ、南奔北走を続けていた者は少なからず存在していたのである。




 1860年12月、T州。

「あの共和党の猿(Ape)めがッ!」

 新聞の政治欄から顔を上げるなり、彼は苛立たしげに怒鳴り、新聞を引きちぎった。

「何が『こんな提案に同意するくらいなら私は死を選ぶだろう』だ、キレイゴトばかり吐きおって!」

「せ、先生」

 彼の背後には、顔を蒼くして立ちすくむ、いかにも神経の細そうな若い男が立っていた。

「このままでは、我が社の経営が……」「お前だけの問題じゃない!」

 いかにも偉そうなスーツを着たその中年の男は、若者に向かって怒鳴り散らした。

「わしの後援はいずれも奴隷無しじゃ立ちいかんのだ! このままあいつらの主張が一方的に通されてみろ、わしの政治生命も、お前らの会社もみんな終わりだ!

 かくなる上は、お前たちにも覚悟をしてもらわねばならん」

「か、覚悟、でございますか?」

 驚く若者に、彼は続けてこう言い渡した。

「そうだ。それもあの猿のように、ただおべっかを立て並べ、口先だけの決意表明なんぞをしてもらうのでは無い。

 わしは形として、目に見えるものとして、覚悟を見せてほしいのだ」

「とっ、……と、申しますと」

「これはまだ私見だが、こうまで南部連中の意見が棒に振られている以上、南部は早晩、北部と袂を分かつことになるだろう」

「た、袂を? それはつまり、……まさか」

「おかしな話では無い。元々イングランド人やらスコットランド人、スペイン人、オランダ人、フランス人やらがごちゃごちゃと集まってできた寄せ集めの国だ。それがまたバラバラになるだけのことだ。

 とは言え、いずれはまた一つになるであろうことも、目に見えておる。でなければイングランドやらロシアやらの帝国共がいざ攻め込んできた時、どうしようもなくなるからな。

 問題はその後だ――我が国がもう一度一つになったその時、我が国はどんな意見を持っているか、だ」

「つまり……?」

「北部の意見だけが残っているか。それとも南部が意見を通し切っているか。わしは後者であることを求める。

 だからこそ、まずはカネだ。何を置いても潤沢な資金が無ければ、何も成し得ぬ。だからこそカネをありったけ、わしのところに集めるのだ。

 そして残る二つは」

 男は窓に向かい、若者に背を向けつつ、こう続けた。

「兵士と武器だ。猿や彼奴ら率いる共和党がどうしてもキレイゴトで議会を埋めたい、アメリカを満たしたいと言うのならば、わしは現物と実力を以って、現実を見せてくれる。

 とにかく早急に、大規模にかき集めろ。そしてその力を駆使し、北部の連中をアメリカ大陸から駆逐してやるのだ!」

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