ツンデレババア
短編は初めて書きます。出来ればで良いので今後のために感想にてアドバイスや改善点の御指摘をお願いします。
昼休みの教室。
俺はその時が来るのを、今か今かと待ちわびていた。
――来たっ!
自分の席の机の上に不自然に置かれた、紙で作られた箱に、どこかから戻ってきたババアの手が伸びる。ババアの手、と言っても見た目は若い少女の手ではあるのだが……。
それが普通の箱であるなら、開いたとしても何の問題もないだろう。だが、その箱は俺が仕掛けを施しておいた、所謂びっくり箱だ。
しかし、バネにより開けた瞬間に蛙の人形が飛び出してくるようねものではない。何より、俺にはそれを作ることも、用意することさえ出来なかった。
では、何が入っているのか。それは――
「はぁ、またか……」
ゲコッゲコッ。
ババアの口から呆れの言葉が飛び出して来る原因となったもの。それは箱から飛び出してきた物体、いや、生物。そう、本物の蛙だ。
湿った皮膚の表面が、妖しく蛍光灯の光を反射している。
蛙は窓際の少女の机に危なげなく着地し、これから起こるであろう出来事を察知したのか、窓から外へ逃げ出した。
そして俺も逃げ出そうと、足音を忍ばせるようにして、後ろの扉から教室を出ようとした。
したのだが……。
「逃げてもいいわよ? た・だ・し、帰りは覚悟しときなさい」
「は、はいっ! 分かりましたです!!」
いつも通りいとも簡単に見つかり、いつも通りなのに慣れないババアの冷たい声音に、これまた、いつも通り変な敬語で素早く答えるハメになったのであった。
「まぁ、流石に終わって直ぐに出たら、捕まらずに済むだろう」
俺は帰りの会の時に、帰る準備をし、帰りの挨拶が終えると同時に教室を急いで抜け出していた。
「……一雨きそうだな。うっわぁ、傘持ってきてねぇー」
「そうねぇ、私持ってきてるから入ってもいいわよ?」
「え? いいのか? ありが……と、う??」
ただの独り言に答えたのは、開き切った鉄製の校門を背もたれにするかのような姿勢でいる少女――否、ババアだ。
「ファッ!? な、なぜに!?」
「あなたの教室での場所と私の教室での場所を考えれば、分かるのではないかしら?」
「……なるほど、ババア席の方が下駄箱に近かったな」
「そういうことよ」
俺が逃げ出すことを予測していたのだろう、俺と同じように先に帰る用意を済ませていたに違いない。
「いつまでもここに突っ立ってないで、ほら、帰るわよ。歩きながら話しましょ」
「そうだな」
「あの箱の件も、ね?」
「うっ……」
学校の敷地を出ると、空からポツポツと雨が落ちてきた。
「降ってきたわね」
ババアは傘の留め具を外すし、開きながら呟いた。
「……は、入らないの? 濡れるわよ??」
「じゃ、遠慮なく」
女の子用の傘は、そこまで大きくなく俺が入ると、密着しないと濡れてしまう程度の大きさだった。
ババアと言えども女の子であることには限りない。
そのため少しばかり脈が早くなっているかもしれない。顔も赤く……。
ちらりと、横目でババアを見ると、ババアも耳が赤くなり頬が朱に染まっているような気がしなくもない。
「あのさ、箱の件だけど……」
急に話しかけられ、ドキッとした。
「ん?」
「今回はいいや」
……次に持ち越しでしょうか。普段そんな事言わないから余計に怖いのですが。
「ううん、多分考えているような理由じゃなくてね」
「お前、エスパーだったのか……」
「私達、何年一緒にいると思っているのよ」
ババアとは幼稚園に入る前から、家族ぐるみで親交がある。腐れ縁というやつだ。
そして中学三年の今まで小学校からずっと同じクラスになり続けている。
それにしても考えていることが表情に出ているのだろうか、俺は……。
「それでね、私、実は今日が――」
突然雨脚が強くなるのを感じた。
それに伴い、地面と傘を叩きつける音が、より激しくなった。
「学校に来るの、最後なの」
は? え? 今なんて言った?
そう口にしようとした、だが驚きのあまり声が出なかった。
「だから、最後ぐらい許してあげようかな、って」
「そ、そんな! そんなこと言ってなかったじゃないか!!」
漸く、鈍器で殴られたような衝撃から立ち直り、そう言った。
自分のことながら、咄嗟に口から出た言葉の強く非難するような口調に驚く。
「うん、だって誰にも言ってなかったもの」
「な、なん――」
なんで?
と言おうとした
「そうこうしてる内に家に着いたね」
ババアに遮られ、言葉を言い切ることはなかった。
「じゃあ、お別れだね。また、会えるといいねっ!」
ババアに会ってから、今までに見たこともないような一番の笑顔で家に入っていった。
「なんで、そんなに笑ってられるんだよ……」
矛先をなくした言葉を無理やり繋げるように、分厚い暗雲と激しい雨の中で女の子用の傘を差しながら、そうこぼした。
~ ~ ~
――翌日
来てない、か……。
俺の視線の先には空席となった、窓際にある元ババアの机と椅子があった。
そして1時間目の授業が終了してもババアは姿を現すことはなかった。
やはり、もう……。
次の授業の準備をしようと机の中に手を突っ込む。
すると、覚えのない形状をしたものがあった。
何かと思い、取り出してみると――
「か、蛙っ!?」
中から出てきた物が予想外すぎて、声に出してしまった。しかも、大きく。
教室中から疑問の目を向けられ、俺の手の上に乗っている、それを見ると、クスクスと皆笑った。
「な、なんだよ……。置物かよぉ」
恥ずかしさを誤魔化すように言うと同時に、一つの分からないことが出来た。
一体誰が……。
「あっ、おはよう!」
「うん、おはよー!」
んん?? この声は……?
「ババア! お前、昨日っ」
「あら? 本当に信じてたの??」
人を小馬鹿にしたような笑い方をするババアは続けた。
「しかも、その蛙……」
「ぷっ……ふふふ。さっきそれ持って、大きな声出してびっくりしてたよ! 面白かったぁ」
腹を抱えて笑いつつ、そういったのは、先ほど、おはようとババアに挨拶した子だ。
「引っかかったのね。私は驚かなかったけど」
「くっ……」
「因みに今日は、アレルギーの薬を貰いに病院に行ってたのよ」
不敵に笑い、席に座るババアの向こうには、昨日が嘘のように思える青空が広がっていた。
「いい天気ね。あら……昨日の蛙?」
――ゲコッ。
ババアが見つめる窓には、白い腹を見せる蛙がいた。
その蛙は、夏の日差しが暑かったのか窓から離れた。その離れた先には、もう1匹蛙がいた。
「番なのかしら?? ……お幸せにね」
ババアは二人の蛙が木の陰へと跳ねていく光景を見て、微笑んでいた。
……くそぉ、覚えてろよ……。
良いようにやられた俺は、ババアに一泡吹かせるべく、次なる計画を練っていくのである。
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この作品の他にも二つの作品を連載中です!
……ファンタジーものですがね。
異界の地にて俺は覚醒する。
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チート魔法と僕だけの《剣》
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