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イタチは笑う  作者: 足利義光
第二話
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第二話 いつもの光景

「ハハッ、コイツびびってやがるぜ」

「もう勘弁してくれ。金なら出すから……」

「金だぁ? バカかアンタ? 俺たち金より大事なモノがあるんだよ」


 一人の中年を一〇人程のいかにもな不良集団が囲んでいる。全く嫌になる光景だが、この街の……塔の街のスラムではよくある話だ。


「イタチさん、あんなのに関わらない方がいいですって。」


 ザコAことコータが通り過ぎようとオレにしきりに言ってくる。まぁ、確かにあの中年に義理も何も無いんだが、あぁいうのは無性に腹が立つ。

 

「おいおいオッサン、……泣いてやがるぜ」

「もう、やめてください、お願いします」

「ん〜〜あれぇ、何かおかしくねぇか」

「これじゃ俺たちが悪者みたいじゃね。傷付くよなぁ」

「めいよきそんだよな、めいよきそん」

「じゃとりま、ボコって金貰って店に火でも付けようぜ♪」



 決めた。調子に乗ってるバカには軽くお仕置きだな。って事で、だ。


「コータ、逝ってこい」


 と奴らに向かって不意に押し出す。


「うぇ? ととっ」


 完全に不意を突いたのでコータは勢いよく前に押し出されていく。

 それで狙いバッチリに奴等の一人にぶつかる。


「っ〜〜てぇ」

「何だテメェ!!」


 あ、オレヤバイかも。

 即座に状況を理解したコータはそう思うや否や一気に逃げる。


「待てコラァ!」

「なめてんじゃねぇぜ!」


 奴等も狙い通りにコータを追いかける。

 その隙にオレは中年のオッサンに手を差し出して起こしてやる。


「おい、アンタ。大丈夫か?」

「は、はい、それよりお友達が……」

「あー心配ないよ。すぐに終らせてくるからさ」

「は、はぁ……」


 それから約五分後。


「はぁ、はぁ、もうダメだっ」


 コータは路地裏まで逃げてへたり込む。


「クソッ、ゼェ、ぜぇ」「見つけたぜぇ」


 そこに連中も息を切らせて追い付いて来た。


「よくも舐めたマネしてくれたな」


 連中は肩で息をしつつ、苛立ちを露にする。

 それを見たコータは、ため息をしつつ、幾度もかぶりを振った。


「……はぁ、情けねぇ」

「あ? 何だと」

「……俺もこの間までこんなんだったと思うと恥ずかしくなる。死にたくなるぜ」

「テメェ、マジに死にてぇらしいなぁ」


 不良Aがコータに持っていたバットを振りかぶろうとした時、頭にベチャッと何かぶつかる音。

 それはドロリと嫌な感触を不良Aに与えた。…………生卵だ。


「おい、オレも混ぜろよ兄ちゃん」

「……テメェか?今のはよ」

「イタチさん、ようやくッスか?」

「あん? 仲間か」

「二人でやれると思ってんだ? あんたら」

「あ、違う。あの人だけだ」


 コータがオレを指差す。いや、まぁそうなんだけどね。


「やっちまぇ!」


 てなワケで、

 掛け声と共に不良集団がオレに向かって来た。 とりあえず、得物を確認。リーダー格のバット、ナイフが二人で、メリケンサックが一人。後は素手と。

 不意にオレはグラリとその場で倒れ込むような動作を見せた。

 不良少年達は一瞬バカにするような表情を浮かべたが、すぐにそれは驚愕に変わった。

 オレは一気に間合いを詰めると、左肩を突きだしタックルを一番近くにいた奴に浴びせる。そのまま体を反転させつつ右の裏拳を一人の顔面に入れ、更に左でボディブローを鳩尾に叩き込む。殆ど秒殺で一人が吹き飛ばされ、もう一人が口から泡を吹きつつその場に倒れ込む。


「おい、……どうした? かかってこないのか?」


 オレは残りの連中を挑発する。連中は戦意を喪失しているのか、唖然としている。ま、こっちは躊躇う事はない。

 そっからは一方的な展開になった。

 オレは一人一人を確実に倒していく。

 で、八人目のアゴを右の掌底で打ち抜き、九人目は左手で胸ぐらを掴むと引き寄せてカウンター気味に頭突きを顔面に喰らわせて、後は左肘でアゴをかちあげた。うー痛そう。


「さて、後一人」

「く、来るな、来るなぁ」


 最後のヤツは余程ビビったのか、バットの先が小刻みに震えている。

 少々可哀想になったが遠慮は無用だ。オレは軽く飛び上がるとそのまま右のフライングラリアットを喰らわせてやった。


「あがッ」


 勿論、まだ終わらない。倒れた奴のバットを蹴り飛ばすと引き起こし、言ってやる。


「覚えとけ、武器を持つ奴は殺されても文句は言えないってな」


 そう言うと右膝を勢いよく肋骨に叩き込む。

 バキバキッと骨折した感触。あまりの痛さに気絶したのか、口から泡を吹きつつ、脱力してそのまま崩れ落ちた。


「失せな」


 わざと二人は気絶させずに置いた。バカどもを運ぶのが面倒だからだ。これで少しは考え直すなら、まぁ上出来。駄目ならどっかで野垂れ死ぬだけだ。

 気が付くと、コータが何だか妙な目でこっちを見ていやがる。ったく、なンだってンだ?


「イ、イタチさん、マジでつえぇ」

「…………さっさと行くぞ。まだ買い物がある」

「は、ハイッ」


 コータはオレに改めてビックリしたらしい。歩きながらしきりにあれこれと技について聞いてくる。


「やっぱ師匠がいいからなんスよね?」

「ん〜、きちんと習った事はねぇかな」

「マジですか」

「それより急いで買い出ししないとヤバイ。オーナーに殴られる。これマジな」

「はぁ……、あ待ってくださいよ」

「そういや、さっきのオッチャンの店はお肉屋さんらしいぞ。でよ、今度買い物したらお安くしてくれるだろうか?」

「……知らないッスよ」


 何でこの人たまに小物になるんだろ、と。コータは本心で思った。

 

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