オートマグ
オレの相棒は【オートマグ】。昔の刑事映画で主人公が使っていた銃の後期モデルだ。
弾数は最大で八発。でも実際には七発撃つと故障率が一気に跳ね上がる。だからオレは六発だけコイツには弾を込める。
メンテしないとすぐに故障する困ったヤツで、【オートジャム】なんて不名誉な別名もある。(弾がジャム、詰まったりして次の弾が出なくなる)。だが、コイツがオレは気に入っている。何故なら……。
◆◆◆
「全員片付いたか?」
護衛のリーダー格の男が確認を取る。
直ぐに三人が反応した。もう一人を探すとそこに足音が一つ。
「遅いぞ」
「あぁ、悪いね」
「何だお前――!」
現れた目の前に仲間ではない男、イタチがこちらに銃口を向けていた。
イタチがオートマグの引き金を引く。響く轟音。リーダー格の男の眉間が撃ち抜かれ脳漿をぶちまけた。
「この野郎ッッ」
「ボス、早くこちらに」
「ぶっ殺せ!!」
即座に三人の護衛が銃口をイタチに向けると乱射してくる。冷静に反撃に転じる辺りは流石といった所だろう。
「おっとと、やば」
イタチが作業用の分厚いテーブルに身を隠す。
相手の銃弾は九ミリの様だ。
パパーン。パパッ。
好き放題に弾をこちらに撃ち込んで来る。弾丸はビスビスッとテーブルにめり込むが貫通はしない。
基本的には銃撃戦に於いて集団相手に一人で戦うのはNGだ。
まず手数で負けるし、囲まれたらアウト。
相手が強いならお手上げ。こんな所だ。
ただし、イタチには勝算があった。相手が九ミリの自動拳銃でこちらはオートマグ。
不意にイタチが頭を上げる。即座に護衛達が銃弾を浴びせようと乱射。
「さってと、反撃しないとねぇ」
イタチがテーブルから飛び出す。そして素早くオートマグの引き金を引く。
「あがっ!」
まず一人、心臓辺りを撃ち抜いた。
他の護衛は慌ててテーブルに身を隠す。そしてそれこそがイタチの勝算だった。
イタチは迷わずに突っ込みながらオートマグの引き金を引く。
護衛達の誤算はイタチの事を見た目で甘く見た事と、使う銃がオートマグだった事だ。
イタチの銃弾もテーブルで止まると思い込んでいたのだ。弾丸が自分達を撃ち抜くまでは。
「あがぁ」
「うぇ……」
テーブルを貫通したオートマグの弾丸は【三〇カービン弾】。元来は小銃、つまりはライフル用の弾丸である。
ライフルの弾としては威力が小さいものの、拳銃弾の中では破壊力と貫通力は抜群に高い。
「あと一人っ」
イタチが残った標的を探す。
「クソッ。何だアイツは」
腹ボテは恐怖した。
車まで何とかたどり着いたが、車は全てパンクしていて使い物にならない。ここには自分とフォールンの製造者しかいない。
どうする? 死にたくないどうしたら?
やがて銃声が止む。そして人影がこちらに。
護衛の一人だ。だが足取りがおかしい。その表情は虚ろで、今にも死にそうだ。
腹ボテが気付いた時には責任者が撃ち抜かれていた。既にイタチが裏側から回り込み、側面にいた。
「腹ボテのオッサン、諦めな」
「何だ貴様。私を誰だと……」
といいかけた瞬間、右手をオートマグの銃弾が撃ち抜いていた。まるで時代遅れのホラー映画のように手が吹き飛ぶ。実感がない。
「あぁぁッっ」
「ハイハイ、黙ってろよ」
「クロイヌが雇った殺し屋だな、か、金なら払う。見逃してくれ」
「見苦しいぜ、アンタも幹部なら覚悟を……!」
瞬間的にイタチがその場を飛び退く。直後に車が三台とも爆発した。
「くっ」
素早く身を施設の扉に隠し周囲を確認するが、誰もいない。
もう確認するまでもない。何者かは知らないが、自分以外に誰かいた。そして施設の奥も爆発。
小規模な物だが、設備を粉々にするには十分だ。
「ちぇ、ギャラでるかなこれ……」
イタチは思わずぼやく。ようやく昇る朝日がやけに目に染みた。