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イタチは笑う  作者: 足利義光
第九話
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工場

 どの位、ハンヴィーに乗せられたのだろうか。一応、最初は頭の中で時間を数えていたが、秒数が二千を越えた辺りで数えるのに飽きた。

 アンダーの広さは塔の街全体と比例するが、車を使うことはほぼ無い。車を持ってるような奴はそもそもアンダーに落とされたり、自分からは来ないだろうしな。なのにわざわざアンダーで車を使うのは、自分の【力の誇示】と単純に目的地がかなり遠いんだろうさ。

 それよりも気になるのはノンことジェミニの話し声だ。どうでもいいことをペラペラと話しかけて来るので、こちらの集中力が続かなくなっている。

 ま、ヤツのコトだから意図的にやってるのかもしれない。それよりさっきから微かに匂いがするのが気になった。いや、まさかな。



「さて、そろそろ到着するよ。イタチ」


 そうジェミニが言うとアイマスクを外された。すると、視界を奪われていたから突然の光に思わず目が眩んだ。光が見えるだと?


「ここは?」


 オレの目に飛び込んだのはアンダーの風景では無かった。抜けるような青空と海が見えた。さっきから潮の匂いがしていたのは気のせいじゃなかった様だ。


「フフクク、驚いたかい?」


 ジェミニは見透かしたように顔にフィットした不気味な仮面を歪ませ笑った。


「……ここは何処だ?」


 オレの知ってる場所ではない。オレはバイクでたまに海岸線を走るが、こんな場所を見たことは無い。


「ここは塔の街の【外】だよ。驚いたかい?」


 ジェミニは嬉しそうな表情を浮かべた。あくまでも嬉しそうな感じに仮面の表情を歪めたワケだが。


「アンダーが塔の街の外にも出入口があるとは聞いていたが……」


 実際この光景を見た以上、その話は本当だったワケだ。

 オレはガルシアの方に振り向くと、アイツも驚いた顔で窓の外を眺めていた。その様子に、


『――ガルシアに、演技力なんか無い。つまり、アイツも初めて見たってコトだな』


 と判断した。


 キクに至ってはアンダーから出たのが初めてなので、口を開けたままポカーンとしている。確かに生まれてからずっと地下にいて、初めて見る外がこれじゃビックリしてもおかしくはない。


「ジェミニ、お前がかなりの力を持ってるのはよく理解した。何でアンダーであんなに集落を荒らしている?」


 オレはガルシアにも聞いてみたが、アイツは詳しくは知らないらしく、納得出来る返答は無かった。


「何だと思うんだい?」


 ジェミニは笑いながらオレに逆に質問を返してきた。


「上の街を攻撃する【軍隊】を作る為だ」


 他にも【労働力】集めとかいくつか浮かびはしたが、【軍隊】が一番オレはしっくりする気がした。だからそう答えた。


「ククフフ。やるねレイジ、半分だけ正解だよ」


 ジェミニは楽しそうに笑いながら認めた。正直言ってコイツの仮面の素材が気になるが、それよりも、仮面がいちいち動いて表情を作るのは正直気味が悪い。


「今、この仮面が気持ち悪いとか考えただろ?」


 ジェミニにまた心を見透かされたような気がしたのもオレの不快感を煽った。奴は言葉を続けた。


「――どいつもこいつも同じような顔の歪め方をするからね。今じゃ大体の感情は理解できるんだよ」


 ジェミニの奴とそんなやり取りをしているうちに、ハンヴィーがいつの間にかトンネルに入った。少しの時間、薄暗い空間を走り抜けると、パッと灯りがついた開けた部屋で止まった。

 しばらくすると、ガタンという音がして、その部屋そのものが作業用リフトだと気付いた時には、また景色が、真っ暗になりリフトはかなり下へと降りているらしかった。


「ようこそ、【サルベイション】の施設に」


 ジェミニがそう言うと真っ暗だった景色が、急に開けた空間に変わった。


「車から降りてみるといいよ」


 ジェミニがそう言うので、遠慮なくそうさせて貰うコトにした。狭い車内には飽き飽きしていたからな。


「スゲェ……」


 思わず声が出た。リフトから見えたのは巨大な工場とでもいうべきだろうか。

 見たことがない位の巨大な機械が並び、あちこちで火花が飛んでいる。

 そして、たくさんの人の姿が見えた。数百、いや千人はいるだろうか。オレはジェミニに訊ねた。


「……これが答えか?」

「そうだよ。ここを維持するには人手が必要だからね」

「なら、何であんなやり方で無理矢理人を集めるんだよ?」


 キクが怒りに満ちた目をジェミニに向けた。アイツの怒りは当然だろう。ついさっき自分の集落の皆が皆殺しにあったばかりなんだから。


「キク、キミは分かってないね」


 ジェミニはキクに振り向くと「やれやれ」といいながら話を始めた。


「……じゃあ聞くよ。キミはアンダーの実態を把握してるのか?」

「アンダーの実態?」

「そうだよ。何人住んでいるのか? また何人が今日死に、今日生まれたのか? 人口における犯罪発生率の数値に、食料自給率など……」

「……何だよ、何が言いたいんだよ?」

「知ってるのかと聞いてるんだ?」


 キクの反発にかぶせるように間髪いれずジェミニは質問を続けた。珍しく奴にしては珍しく言葉を荒げた。


「分からないよ。……分かるわけないだろ!」

「そうだよね」

「ならあんたは分かるのかよ?」

「いや、分からない」

「なら、何なんだよ!」


 キクの苛立ちが頂点に達したらしい。今にも蹴りかかりそうな勢いだ。


「考えてごらんよ。気持ち悪くならないか? 上の街から、街の外から次々に得体の知れない奴らが流れ込むんだよ、アンダーに。ボクには我慢出来ない」


 ジェミニはそう吐き捨てるように言葉を吐き、両手を組んだ。変声機を使ってるからハッキリと感情を読み取れないが、オレには奴が本心を言っているように聞こえた。奴は話を続けた。


「アンダーは【ゴミ捨て場】なんだよ。上の奴ら、【塔の住人】からしたらさ。邪魔な奴らを放り込む為のね。【いらなくなった奴】が捨てられるゴミ捨て場なんだよ!」


 そうジェミニが変声機を使っていてもハッキリと分かる口調で怒りに満ちた言葉を吐き捨てると、キクは勢いに押され返す言葉を無くしたのか黙り込んだ。


「その【怒り】が昔、オレの仲間になった理由か?」


 オレは奴にそう問いかけると、奴はすぐに答えた。


「そうさ。キミは何で【壊してやりたい】と思った? 【怒り】だろ? 全ての世界に対するね」


 その時、ガタンという音を立てると作業用リフトが停止した。どうやら到着したらしい。


「…………だから、ボクはこの【サルベイション】を作ったのさ」


 ジェミニはオレに背を向けると、


「来たまえ、キミに紹介しよう」


 そう言って歩き出した。


 黒装束がオレとキクの拘束バンドを外した。どうやらここからは客として扱うつもりらしい。とは言え、流石にオートマグは返してくれない様だな。

 とりあえずジェミニの後を歩いてついていく。



 歩きながら改めてこの施設を見てみると、ここが工場というよりは、一つの【街】のようなモノだと感じた。

 施設で働いている奴等を見る限りでは、強制的な感じはしない。というより、働いてるのはアンダーの連中では無いさえ感じた。何となくそう思えた。アンダーとは雰囲気が違う。

 どうやら工場ではいくつかの野菜を栽培管理しているらしく、機械がプランターに次々と苗を植えてはコンベアーに流していく。

 コンベアーから流されたプランターを作業員が受け取ると台車に乗せていき、一杯になると別の作業員が台車を入れ替えて、また別の場所へと運んでいく。


「……成る程な、食いモンが確保されてりゃ、確かに文句は出ないな」


 オレの言葉に、キクが「でも……」と言ったがそれ以上言葉は続かなかった。


 それからジェミニについていくと、突然でかい壁に突き当たった。奴はマイクに向けて何かを喋るとその壁は扉だったらしくがギギギと重々しい音を立て開いた。どうやら、この先は厳重に守らないといけない場所らしい。


「何だよ、また真っ暗か」


 キクが扉の先に入った途端に文句を言った。ここは足元にある緑色の微かな灯りだけが頼りのようだ。

 ジェミニの奴は慣れているのか迷わず進んでいきオレ達もついていく。


「さぁ、イタチ。これを見てくれ」


 ジェミニが不意に両手を広げた。パッと真っ暗だった通路に照明がついた。


「何だ、照明があるんじゃないか」

「演出だよ、これを見てもらうためのね」


 奴はそう言うと壁に触れた。すると、


「素晴らしいだろ」


 通路の壁はどういう原理かは分からないが特殊なマジックミラーだったようで、奴の合図でそこには見たこともない程の銃火器がビッシリと立て掛けて並んでいた。


「ここ通路全体が武器庫なのか」

「いいや、これはショーケースみたいなモノだよ。武器庫はこの先さ」


 ジェミニは驚いた顔をしているオレ達を見ると満足そうに笑い、さらに奥へと歩いていく。


「ここが、武器庫だよ」



 奴はそう言ったが、そこは正確には武器庫じゃ無かった。

 さっきの野菜を栽培管理していた区画と同じ位の、いやそれ以上かもしれない人数がそこで働いていた。

 無数の機械が休まず次々と、部品を組み立てている。

 組み立てられていくそれは徐々に見慣れたモノに変わっていく。

 様々な工程を経て、ラインの最終地点で作業員がチェックをしている。

 完成されたそれはオレみたいな人間にはお馴染みの道具になっていた。それが、何百、いや何千と並んでいる。


「触ってみるかい?」


 ジェミニはそれを手に取ると無造作にこちらに投げてよこした。

 手渡されたのは世界一流通しているアサルトライフルAKシリーズ、AK―47の発展型になるAK―74のようだ。

 旧モデルになるAK―47で使用していた7.62ミリ×39弾よりも小型になる5.45ミリ×39弾を使うことにより殺傷力は落ちたものの、反動は小さくなり射撃及び命中制度が増している。


 この銃がここで組み立てられるのも【大戦】による影響の一つだ。

 【大戦】の長期化とそれに伴う泥沼化により、世界中で【国】というシステムが弱体化した事によってまず【大国】の経済が破綻した。

 【大国】の経済破綻の影響はすぐに各国に連鎖的に波及し、拡大していき【大恐慌】が起きた。

 こうなると、どの国も戦争なんかしてる場合では無くなった。

 実際、大戦が終わった理由は【金が無くなったからだ】と前におっさんがオレに言っていた。

 経済破綻により、被害を被ったのはガンメーカーも同じで、大戦中にガンガン増産していた反動でかなりの損害が出たらしい。

 その結果、世界中に銃の製造技術が流出し、本来ならライセンスが無ければ生産出来ない銃も金さえあれば作れるようになったワケだ。

 それでもメーカーによっては製造技術を守れた所もあったが、AKシリーズの場合は世界中でライセンス生産をしていたから流出を止められなかったのだろう。そして今、目の前でこのライフルが作られてるってワケだ。



「お前、本当に戦争でもおっ始めるつもりか?」


 オレはジェミニを睨むとAKを投げ返す。黒装束が投げられたAKをキャッチすると元の場所へと戻した。

 奴は淡々とした様子でオレに聞いた。


「そうだと言ったらキミはどう思う?」

「……ざけんなッッ」


 そのジェミニの言葉にキクが反応した。

 激昂したキクは一気に距離を詰めるとジェミニに向け、上段への回し蹴りを放った。


「おっと、危ないな」


 ジェミニはそう言いながらも軽々とその攻撃を避けた。ほぼ同時に二人の黒装束がキクを囲むと両肩を押さえ制圧していた。


「よせ。今のは挨拶だよ、彼女なりのね。……だよねキク?」

「クッ」


 キクは舌打ちしながらジェミニから離れた。今のでハッキリしたのは、ジェミニの奴が四年前と違い、ある程度の訓練を受けているコトだ。


「さ、先に行こうか」


 ジェミニはニヤリと笑うとさらに奥へとオレ達を誘った。



『……鬼が出るか蛇が出るか』


 オレは唇を軽く噛むと足を進めた。

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