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イタチは笑う  作者: 足利義光
第七話
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パーティエンド

 イタチは相棒のバイクを走らせ銃声の聞こえた通りに差し掛かる。

 通りに入ると周囲には犠牲者であろう人々の死体がそのままにされていて、いずれも頭が吹き飛ばされている。

 イタチは軽く眼を閉じて黙祷すると犯人を必ず始末する事を一人決意する。


「……近いな」


 イタチはハッキリとした殺意を感じ取りバイクを降りようし減速した。

 そこに金髪の見るからに狂暴そうな少年が姿を見せた。手にはリボルバーが握られており、殺気をお構い無しに撒き散らしている。

 即座に敵と判断したイタチはそのままアクセルを噴かせて突っ込む。遠慮の無い音がバイクの加速を表している。


「アハハハハハッッ、来いよ、来いよォッ」


 金髪が狂喜に満ちた表情と叫び声をあげながらスーパー・レッドホークの引き金を二回引く。

 454カスール弾が放たれイタチへと襲いかかった。


 イタチが「上等!」とニヤリと笑いハンドルを切り454カスール弾を避ける。

 と次の瞬間、金髪のすぐ後ろから緑髪の女が姿を見せる。その両手にはマック10らしきサブマシンガンが二丁握られているのを確認した。

 イタチは思わず「ヤバッ」と叫ぶなりバイクを地面スレスレになるまで傾ける。

 直後にマック10から銃弾がばら蒔かれた。何発か銃弾を浴びてバイクのタイヤがパンクしたらしくバシュウと派手に音を立てた。

 イタチはバイクを傾けたまま地面をスライディングする様に突っ込んでいく。


 今度は緑髪の女が「くっ」と舌打ちしながら横っ飛びしてバイクをかわした。


「やるじゃねえかオイ」


 金髪が嬉しそうに声をあげてバイクを追う。

 態勢を整えた緑髪の女もそれに追随する。



「……野郎、何処だ?」


 金髪がキョロキョロしながら周囲に目を配るがイタチは見つからない。

 目の前には前輪がパンクしたバイクが一台、木に衝突した状態で残されていた。


「サーカスみたいな野郎だなぁ、オイ」

「油断するなよ、ボクたちより強いぞ、多分」

「分かってるよ!!」



 その様子を土産物店が並ぶ通りの物陰からイタチが伺っていた。


 オレは少し後悔していた。少々相手を見くびってた事にだ。

 カッコつけてバイクで向かったのはいいが見ての通りに見事に返り討ちにあっちまった。

 お気に入りの相棒がパンクした上に、スライディングと木にぶつけたから車体はあちこちキズだらけのボッコボコ。修理代はきっと高いだろうな、チクショウ。


「全く、馴れない事はしちゃ駄目だよな」


 改めて相手を見る。見えるのは二人。

 一人は金髪ポニーテール。コイツはバカっぽい。使った銃をリボルバーでどうやらスーパ・ーレッドホーク。破壊力が高いから喰らったらデカイ穴が開いて即アウトだ。

 もう一人は緑髪の男みたいだけど妙に線が細い、女かもしれない。使ったのはマック10。コイツに弾幕を張られると動きにくそうだ。

 バンは三台あった。……という事は三人目が何処かにいるかもしれない。周囲には気配は感じない。これで潜んでるなら三人目が一番ヤバイ奴という事になる。長引かせるのは良くなさそうだ。


 ……なら先手必勝!


 イタチは心の中でそう言うなりヒップホルスターからオートマグを素早く抜くと緑髪の女に銃口を向ける。

 すると緑髪の女がその微かな音に気付いたのか振り返るとイタチを見つける。なかなかいい勘をしているようだ。


「喰らいな」


 マック10から銃弾がばら蒔かれる。

 単純な威力ならオートマグの圧勝だが弾数ならマック10の完勝。下手にその場にいると穴ボコにされる。イタチは窓を破り土産物店に飛び込む。

 するとそこに金髪が突っ込んで来た。連携したというよりは本能的に動いた感じだ。


「アハハッッ死ね」


 金髪がスーパー・レッドホークの銃口を頭に突き付けようとする。イタチは銃口を左手で払うと右手のオートマグの銃口を向けた。

 咄嗟に頭を動かした金髪の動きに対してオートマグの銃口は下を向き金髪の左足を撃ち抜く。

 金髪が足元から全身に痺れるような衝撃を受けて思わず「ぎゃあッッ」と悲鳴をあげた。

 間髪入れずにイタチが追い撃ちとして放った左掌底が顎に綺麗に入った。顎をかち上げられた金髪は軽く宙を舞いそのまま倒れ込む。


「チッ、野郎!!」


 緑髪の女がマック10を再度乱射してきた。あっという間に店内が破壊されていくがイタチはさらに窓を突き破って外に飛び出す。

 マック10の銃弾を撃ち尽くしたのを確認し、イタチが一気に間合いを詰める。

 緑髪の女は数メートルは離れていたイタチが気が付くと目の前に来ている事に戦慄した。

 マック10を投げ捨てて注意を反らしホルスターから素早くグロック20を抜いて撃ち殺すはずが、抜く暇も無く相手は目の前。


 ……ボクは死ぬ。


 そう考えた瞬間、イタチが突然動きを止め、今度は一気に後退した。

 何が起きたかよく分からない緑髪の視界に入ったのは眼鏡の男。自分の側面から飛び出したらしく左手にナイフを握っている。

 クルリとナイフを手首で回すとイタチへと踏み込みながら鋭く突き出す。避けきれないと判断したイタチはオートマグの銃身で弾き、ホルスターから左手でナイフを抜き取り逆に切りかかる。眼鏡の男は右手で左手首を押さえて止めた。一瞬互いに睨み合うと、素早く後退して間合いを取る二人。

 それをキョトンとした表情で見つめるのは緑髪の女。


 ……オイオイ、バケモンかアイツら。ボクや金髪とは明らかにいる世界が違うぜ。


 そう思いながらも腰のホルスターからはグロック20を抜く。

 いざという時に使えるように用意しろとよく親に怒られた事を今更ながら思い出し、苦笑する。


 ……備えても役に立たないだろ、こりゃさ。



「オイオイ、やるなアンタ。ホントに単なるモルモットなのか?」

「安い挑発だな、自分はそんなものには乗らないよイタチさん」

「!! へぇ、どうやらアンタは確実に始末しなきゃ駄目だな」

「……やってみろ」


 イタチがオートマグをホルスターに戻すと、ナイフを構える。

 眼鏡の男も同調するようにナイフを相手に向ける。


「うっ「しゃあっ」」


 互いに掛け声をあげると合わせたかの様に一気に間合いを詰める。


 次に辺りにナイフがぶつかる金属音が響いた。

 眼鏡の男はナイフで突きを素早く放ち、イタチはそれを弾き、また流しながら切りつける。

 動きを何とか目で追う緑髪の女には二人がまるでダンスでも踊ってる様に見えた。


「マジでアンタやるな」


 イタチが一歩前に出ると、右手のナイフを左下から右斜め上に向け切り上げた。

 眼鏡の男はそれを自身のナイフの柄で止める。


「お誉め頂き恐悦至極」


 そのまま鋭い突きをイタチの腹部に放つ。

 イタチは一歩退がり突きを身をよじって受け流すように避ける。

 動きに合わせて強く踏み込みつつ右肘で肋骨付近を狙い打撃を与える。眼鏡の男も左肘で受け止ようとするがイタチはそのまま加速して振り抜く。眼鏡の男は勢いに合わせて後ろに後退した。


「……でもオレの勝ちだよ」

「まだまださ」


 イタチはニヤリと笑い眼鏡の男は無表情ではあったが、実際には眼鏡の男の方が形勢は不利だった。

 さっきのの右肘での一撃を左肘で受け止めるハズだったがイタチは直前で右肘を少し斜め上に軌道を変えた。その結果、肘を受け止めた眼鏡の男の左前腕にヒビが入っていた。イタチも手応えで理解している。


「しゃあっ」


 気迫を込めて眼鏡の男が仕掛けた。長引いても最早意味は無い。ならば短期決戦あるのみだ。

 眼鏡の男は右手のナイフを投げつけた。イタチは左手の手刀でナイフを軽く叩き落とすとカウンターで自身のナイフで突き刺そうとした。

 それに対し眼鏡の男は左の掌をスッと差し出す。当然ナイフは掌を貫くがそこで動きは止まった。その瞬間、右足でイタチの左足を踏みつけて動きを止めると仕掛けた。


 ……もらった!!


 眼鏡の男が渾身の力を込めて右手を突き出す。空手でいう貫手で狙いは肝臓付近。素手でも充分な速度とタイミングだ。

 緑髪の女にもこれで決着がつくと理解できた。

 だが次の瞬間、その場で崩れたのは眼鏡の男の方だった。理解出来なかった緑髪の女は叫ぶ。


「何だと、何でだよ?」


 直後に緑髪の女は理解した。

 イタチの右肘が眼鏡の男の脇腹に深々と食い込んでいた。その一撃に肋骨は何本も折れたらしく眼鏡の男は苦痛に満ちた表情をしている。

 さらに「ガバッ」と口から血を吐いた事から内臓も損傷した様だ。

 イタチは男の掌からナイフを抜くとそのまま振り抜く。眼鏡の男の右手首から血が飛び、手の腱を断裂させた。完全に勝負は着いた。


「……何故殺さない? アンタの勝ちだぞ」


 再度無表情を貫いてはいるがその声には明らかな苦痛が入り混じっている。


「焦るなよ、アンタに聞きたい事があるんだよ」


 言いながらイタチがナイフをホルスターに納めようとした。その時、緑髪の女がグロックでイタチを狙う。


 ……素早くニ連射、狙いはあのバケモンの腹。穴を開けてやる!


 だが、グロックの引き金を引く前にナイフが目の前に飛んできた。それを避けたが銃口はイタチからズレる。イタチは続けてオートマグの引き金を引く。30ミリカービン弾は狙い通りにグロックを破壊して弾き飛ばす。


「クソッ!」

「やめときな、アンタじゃオレは殺れない」


 イタチはオートマグの銃口を緑髪の女に向けたまま眼鏡の男に向き直る。奴に聞きたい事があるからだ。


「で、アンタ誰だ?」

「妙な質問だな、自分は自分だ」

「そうじゃない、アンタイリーガルじゃないだろ?」

「……何故そう思う」

「最初アンタの気配は感じなかった。訓練しなきゃあれは無理だ……」

「…………ハッハハハハハハ」


 すると眼鏡の男が突然笑い出した。顔は無表情のまま声だけで笑うその姿は不気味ですらある。


「ハハハ。い、いや悪いな。自分をプロとして扱われたのが嬉しくてつい、な」

「アンタはプロだったぜ。誰なんだ?」

「……誰でも無い。自分には名前など無い」

「……続けろ」

「自分は産まれた時から【彼ら】の所有物だった。生きるも死ぬも彼らの一存で決まる。自分はそうして育てられた、それが当然として、な」




 ……ふ、ふざけやがって。オレを舐めんな


 金髪がゆっくりと自分以外の奴らの様子を伺っていた。何が許せないのかはハッキリしている。

 連中はオレを完全に無視してやがる。最初から眼中にないと言うばかりのこの状況に心底むかっ腹が立った。

 幸い、スーパー・レッドホークは手元に握られている。弾はまだ残ってる連中は三人。弾は四発一つオマケが出る。


 ……あの軽業師みたいなチビには二発喰らわせてやる!!


 金髪が素早く立ち上がり銃口をイタチへと向けようとした。


 瞬時に銃声が鳴り響いた。


「死ねよ・っ……」


 金髪が膝から崩れ落ちる。イタチのオートマグがスーパー・レッドホークより早く銃弾を放ち金髪の腹部を貫通していた。


「な、何でだ、よ……」


 息も絶え絶えに金髪の脳裏に浮かんだ最後の疑問の言葉だった。


「お前が三流だからだ」


 イタチが冷たく言い切るとさらに30カービン弾を金髪に見舞う。

 瞬時に金髪の頭が吹き飛ばされ、糸の切れた人形の様に地面に倒れた。


「……お前が殺した連中と同じ死に方だ。良かったな味わえて」


 その容赦の無さと冷徹な視線に緑髪は震えた。自身の末路をそこに見たからだ。


「で、話の続きを」


 振り返るとイタチは何事も無かったように話を続けるように促す。眼鏡の男も淡々と話し出す。


「……いいだろう、自分はただ人を殺す為の技を教えられた。彼らの教えは絶対だ、何があっても守らねばならない。死んでもな。これ以上は言えない」

「アンタ……【ギルド】の一員だな」


 眼鏡の男は答えずに顔を下に動かし頷く。案に認めた事になる。


「自分は出来損ないだと言われ、ならせめてスパイになれと言われてこの実験に参加した。情報は彼らが操作して一般人としてな。……初めて言われたよ。彼は素晴らしい、天才だとな。馬鹿馬鹿しくなったよ、長年の鍛練を天才なんて安い言葉に置き換えられた事にな」


 眼鏡の男は感情を押さえきれなかったのか言葉に力が入る。

 だが彼は最後に思い出した。自分が何者かを。自分の【存在意義】を。


「最後にアナタに話がある……」

「何だ?」

「近くへ」


 イタチがその言葉に反応して近付いていく。

 眼鏡の男には最早、戦闘能力はない。だが、【殺傷能力】は残っていた。

  出来損ないと呼ばれた彼には頭に爆弾が仕掛けてあった。小型で大した破壊力は無い。だが接近した状態なら一人くらいは巻き添えに出来る代物だ。


 ……最期に最高の獲物を殺す。悪くない、ギルドの一員として誇りある死を!!


 あと数十センチ。ゆっくりと近付いてくるイタチの顔。

 ゆっくり感じるのは多分脳内で様々な興奮物質が出ているからかもしれない。人生で初めての、死の間際での興奮を噛み締めるように味わう。


「……わりいな」


 イタチの不意の一言で全てが終わった。無造作な前蹴りが顔面に入り、眼鏡の男は後ろへ転がる。

 ゆっくりだった時間が元に戻り、目論見が崩れた事を彼は理解し……


 次の瞬間、眼鏡の男の頭が弾けた。事情を知らない人が見たら一瞬その場で花火が上がった様に見えたかも知れない。


「眼が訴えてたぜ、オレを殺すってな」


 そして花火が消えた後には魂の抜け殻になった彼の身体が残された。


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