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イタチは笑う  作者: 足利義光
第七話
43/154

パーティの下準備

「アハハハハハ!! 逃げろ逃げろっッッ」


 恍惚の表情を浮かべながら金髪はスーパー・レッドホークを振りかざし我が物顔で通りを歩く。周囲には無惨に射殺された見知らぬ人々。


 ……やっぱコイツは最高だよなぁ


 金髪がスーパー・レッドホークを愛用するのは理由が二つある。

 一つは西部劇が好きだった自分が銃を使うならリボルバーで色は銀色と決めていた事。

 次に威力の高い454カスール弾というのに興味が湧いたからだ。

 あの有名な44マグナム弾を越える威力という肩書きに興味を抱いて親に買ってもらい、それを実際に撃った時の感覚が忘れられない。

 試し撃ちに使ったスイカやメロンは文字通り粉々になった。

 次に近所を彷徨いていた野良犬を捕まえて撃ってみた。あれだけ五月蝿かった犬の吠える声が静かになったのが忘れられない。

 しばらくは犬や猫を捕まえては的にしてみたが手応えにやがて満足出来なくなった。


 ……人を殺したい。コイツで人を撃ってみたらどうなるのか試してみたい


 願望は日々強くなりある日遂に実現した。

 殺したのはたまたま家に侵入していた泥棒だった。

 無我夢中だった。こちらに気付いた泥棒がナイフを抜いて向かってきた事までは覚えている。

 次の記憶は頭を吹き飛ばされた泥棒とその返り血を全身に浴びて放心状態の自分の姿を鏡でジッと見ていた事。そして失禁していた事だ。


 ……お前は家を守ったんだぞ、よくやったな


 人生で初めて父親に褒められた。その事がたまらなく嬉しかった。

 だが同時にスーパー・レッドホークを手に持つと全身が震えるようになりいつの間にかあの好奇心は何処かにいってしまった。


 それから何年か経ち父親が病死した。裕福だった家は遺産相続だか何だかで家族内で醜い争いを繰り広げるうちにバラバラになっていった。

 一番末の子供だった自分には何も残されなかった。母親は父の愛人だったから他の兄姉からこう言われた。


 ……要らない子供のくせに。お前が死ねば良かったんだ。あの女みたいに殺してやる


 それから先はよく覚えていない。気が付くと何年も触りもしなかったスーパー・レッドホークの引き金を引いていた。

 兄姉と思っていたヤツらを殺してから家には火を付けた。

 跡形もなく燃え尽きた家を眺めながら心の底からスカッとしたのをよく覚えている。


 気が付くとまた失禁していた。

 ただ、気付いた。これは恐怖での失禁ではなく快感に襲われただったんだと。そしてあの泥棒を殺した時も自分は笑顔だった事を。あれは解放感から来たのだと。




「アハハハハハっ、どうしたどうしたぁッッ」


 金髪が口から泡を吹くような勢いで叫ぶ。既にスーパー・レッドホークは一度全弾を撃ち尽くしていたが、弾丸をゆっくりと装填する。


 警官が二人近くをうろついていたので、頭を吹き飛ばしやった。その辺に転がっているハズだ。


 ……何が止まらないと撃つぞ! だよバァ〜〜カ。さっさと撃てばいいんだ。かったるい連中だ


 気が付くと辺りには人が殆どいない。逃げたか、射殺されたか。どちらかだ。


 ……さっきの緑色の奴も楽しんでるんだろうなぁ


 金髪はマック10を撃ちまくっていた奴と目があった瞬間に分かった。


 コイツは同類だと。オレと同じで殺しが快感な奴だと。

 まぁ……誰もいないならアイツと殺り合うのもいいかもな。


 金髪が頭の中でそう考えていると後ろの方から物音がした。

 振り向かずに気付かない振りをしてレッドホークを少しずらして後ろを確認する。

 微かに人影らしいモノが見えた。ただ動きが早くてひょっとしたら犬や猫かもしれない。

 だが違うと確信があった。本能的にでもというべきか、アレは自分の獲物だと理解した。


「アハハハハハッッ、死ねよっ」


 叫ぶなり振り向いて物音の方へ突進する金髪。

 物音はレストランからしたらしく足を踏み入れる。無造作に片手で銃口を向けながら店内を見渡すが、特に何もいない。

 気のせいかと出ていこうとした時、「伏せろ」と甲高い声が聞こえ、その場に伏せた途端、いきなり店内をサブマシンガンの銃撃が襲った。

 ほんの二秒足らずで店内は穴だらけになった。


 「テメッ」金髪が振り向きざまにマック10の男に銃口を向けようとした瞬間、誰もいないと思った店内から人影が飛び出す、速い。普通の奴らとは明らかに違う。


「何だアイツ?」

「アレが獲物だよボクたちのね」

「ん? お前」


 金髪が違和感を感じて緑色の奴をジロジロと見た。


「お前、女か」

「女が殺しを楽しんじゃダメなのか?」

「道理で声が妙に高いしやけに細っちい訳だ」

「アンタも殺すぜ」

「やってみろよぉッッ」


 金髪がレッドホークを緑髪の女に突きつけた。同時にさっきとは別のマック10が腹に突き付けられた。どうやら二丁持ちの様だ。


「……まぁいいや、アンタよりさっきの奴だな」

「やっと分かったか、アレは一人じゃ殺れない」

「アンタはアイツを知ってんのか?」

「アンタもイリーガルだろ?」

「……何だそりゃ」


 食いあわない話をしばらくしていて緑髪の女は気付いた。


 ……コイツとボクじゃ過程が違うみたいだな。


 以前、バンの中でお付きの連中の話を聞いた事がある。連中はこちらがいつものクスリで寝ていると思ったらしくペラペラよく喋っていた。

 連中が言うにはボクらはイリーガルと呼ばれているらしい。

 イリーガルはボク以外にもどうやら三人いるらしく、それぞれに連中が監視といざという時の対処をするらしい。

 イリーガルはまだ実験段階らしく、どの方法が効率的かを探っているらしい。

 あるイリーガルには権力志向を植え付け、また別の奴はまるで神の御告げが来てると思わせ、またもう一人は厳しい訓練により両方の人格を統制、もしくは統合させようとしてるらしい。

 ボクの場合は完全なる二重人格で元々お互いを認識してた。もう一人のボクは大人しくて優しい女。仕事の際にはボクは連中からキッチリ金を貰ってる。当然の報酬だからな。

 連中の話で何回か出たのが【02】という言葉だ。

 どうやら02ってのは誰かを指しているらしく、02がまた殺しをやったとか、まだ02には勝てないとか言っていた。

 まぁ、ボクには関係無い話だと思っていたけど今回の標的が02らしい。連中はハッキリとは言わなかったがその様子で分かった。


 ……で02らしい奴がいたから仕掛けたのはいいけど……。

 02らしき男は思っていたよりも背が低くて若い男に見えた。

 奴はこちらを認識していた。

 にも関わらず奴はこちらに仕掛けさせた、そう感じた。まるでこちらを観察するように。

 だからマック10の全弾を撃ち込んだ。たった二秒足らずで撃ち尽くすけどその威力は絶大だ。

 普通の奴なら穴だらけのチーズみたいになるだろう、でもアイツは避けた。

 だから、アイツを殺すには囮が必要だ。そこそこ強くて頭の悪いバカが丁度いい。


「おい、アンタ強いんだろ? ボクに手を貸せ」

「あ? オレがテメェに手を貸す? くだらねぇ一人で充分だっての」


 金髪はそう吠えると店の外に飛び出した。

 すぐにリボルバーの音が聞こえて来た。どうやら思った以上のバカな様だ。


「せいぜいボクの為に頑張りな金髪君♪」



 緑髪の男女に使われてるとは露知らず金髪はソイツにスーパー・レッドホークの引き金を引いた。


「な、何だってんだ!! クソッ当たれよッ」


 思わず罵声を飛ばしながらソイツに接近していく。

 まるで遊ばれてるかの様に一定の距離を開けられている。

 更に気に食わないのはあちらからまだ反撃が一向に来ない事だ。


「畜生、勝負しやがれチキン野郎が!!!」


 怒りに任せて乱射したが全て外れた。

 思わず「チッ」と舌打ちしつつ次の六発分を装填していくのを確認したのか、相手がいきなり一直線に向かって来た。


「上等じゃねぇか!」


 金髪は三発装填した所で銃口を向ける、ほんの三メートル手前、外すわけがない距離だ。


「ぶっ飛べ!」


狙いは頭。金髪は相手を殺す時、必ず頭を撃った。確実に相手が死ぬのと、派手に頭が吹き飛ぶのが愉快だったからだ。


 だが次の瞬間、銃口が全然違う方向を向いていた、というより何故か銃口は空中を向いていた。

 クルクルと銃口が回る


「テメェ!」


 叫ぶ金髪の顔面に向け気が付くと拳が飛んでいた。まともに反応も出来ずに直撃して後ろに倒れる。そこに追い討ちをかける様に顔を踏みつけられた。


「……この程度か? 同じイリーガルでも性能が随分と違うみたいだな」

「で、てめぉ……」


 苦痛に顔を歪めながら金髪が自分を見下ろす相手を睨み付けた。


 相手は自分と同じ位の年齢に見えた。身長は160位で黒髪の長髪。無表情にこちらを見ていて、何を考えているのかがよく分からない。眼鏡をしていて神経質そうな印象だ。


「そこにいるんだろ? 自分には君を殺す理由がない、出てきたまえ」


 眼鏡の男の言葉に反応したのかガザッと音を立てると緑髪の男女が物陰から姿を見せた。

 「チッ」と舌打ちしつつ両手の二丁のマック10を投げ捨てる。

 その様子を見て眼鏡の男が目を細めると溜め息をつく。


「やめたまえ。君を殺す意志は無いが、やるなら確実に死ぬぞ」


 その目から全てお見通しだという意思を感じた緑髪の女は観念して腰に回していた右手を改めて上に挙げた。

 その場でクルリと回るとヒップホルスターにはハンドガンが収まっていた。


「参ったよ。でアンタもイリーガルか?」

「そうだ。どうやらコイツもそうらしいな」


 眼鏡の男が足をどかせると金髪を解放した。


「クソッタレ、よくもやりやがったな」


 金髪が呻きながらスーパー・レッドホークを拾う。

 流石に殺り合う気は薄れたらしくさっきよりは殺気が収まった。


「……ようやく話が出来そうだね」


 やれやれと言いながら肩を竦める眼鏡の男。



「……つまりボクたちは自由ってコトか」

「端的に言えばね、自分達を見張っていた彼等は死んでいたからね」

「……よくわかんねぇが好きにしていいってコトだよなぁ」


 金髪がそう言うなりすたすたと歩いていく。


 ……とにかく02って奴をぶっ殺せばいいってコトなんだな。わかりやすくていい


 一人で先行していく金髪を見送りながら眼鏡の男が緑髪の男女と会話を続ける。


「彼はあれでいいだろう。自分達はだが……」

「ボクはあのバカのフォローに入るよ。アンタは強いけど銃は使わないんだろ?」

「……バレてたか」

「ボクはバカじゃないからね、アンタの言動を考えたら何となくね」

「では頼む」


 眼鏡の男の言葉に左手を挙げて左右に振ると緑髪の男女も小走りで待ち構える為に向かっていく。

 残された眼鏡の男は誰に言うでもなく呟いた。


「さぁ、狩りの始まりだよ、イタチさん」


 呟いた男の無表情だった顔が楽しそうな笑顔に変わっていた。

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