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イタチは笑う  作者: 足利義光
第六話
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ストライクアウト

 オレが動き出した途端、無数の空気の抜けたような音と共に激しい銃撃が始まった。どうやら特殊部隊仕様のアサルトライフルを使った銃撃だ。


「な、何だ……」


 事情が飲み込めないシゲルを無理矢理引っ張って隣の部屋に飛び込む。


「シゲル、お前誰と手を組んだんだ? これは洒落にならないぜ」

「レ、レイジお前……」

「まぁ、大した事はないけどな」


 強がってはみたが、不意を突かれた為に反応が遅れた。銃撃を完全に避けきれずに一発左肩をかすった。深い傷では無いが、連中の腕を考えるとこれ以上の負傷はなるべく避けたい所だ。


「それよりシゲル、軍の誰と手を組んだんだ? この連中はその辺のチンピラじゃないぞ。あのスキンヘッドがそうなのか?」

「スキンヘッド? あぁアイツは軍人だ、アイツが俺の手下になったからAKが手に入ったんだ。アイツは優秀だよ、ホントな」

「あぁ、優秀だな。この襲撃は見事だよ」


 オレはシゲルの言葉にどこか感情の欠落した印象を受けた。褒めているのに淡々とした言い方だった。


「とにかく、何とかしないと二人ともオダブツだな」

 

 そうこうしている内に銃撃がこちらの部屋にも届き始めた。

 とりあえず、ベッドや本棚を壁に寄せて少しでも貫通を防げるようにする。


「シゲル、お前はここにいろよ。いいな?」


 心ここにあらずな様子のシゲルをその場に残し、オレは部屋を飛び出す。オートマグの残弾はわずかに一発。とてもじゃないがこれじゃ太刀打ち出来そうもない。

 目指すは倉庫。豊富にあるAKさえあればとりあえず弾切れにはならない。


「いたぞ、こっちだ!」

「ちぇっ」


 倉庫へと向かう途中で襲撃してきた奴等に遭遇した。二人一組での行動、所謂ツーマンセル。

 ヘッドセットにどうやらカメラでリアルタイムで映像を送信している。

 使っているアサルトライフルはどうやら独特の形状から【FA―MAS】の様だ。

 愛称【トランペット】とも言われるアサルトライフルで確か、軍隊内にフランスかぶれの教官がいるらしく指導している部隊にコイツを使わせているらしい。


「排除する」


 そう言うと連中のトランペットからの銃撃が容赦なくこちらを追いたててくる。

 【スイッチ】を入れたらなんて事はないだろうが、スイッチにも弱点がある。あまり長時間は持たない。それに疲労が溜まる。だから多用は出来ない。あくまであれは【切り札】だ。


 ……せめて相手の人数が分からないとな。


 オレはそう思いながら倉庫へと走る。連中はこちらに人数を向けているらしく、シゲルには向かっている様子は無い。


「オレがターゲットって訳だな、上等だよ! ちくしょうが」


 俺の叫びに呼応するようにトランペットの銃撃がオレを追いすがる。一歩でも速度を落とせば殺られるのは間違いない。とにかく倉庫までは逃げの一手だ。




 工場の外にある黒いバンの中。スキンヘッドの男がモニターを見ながらヘッドセット越しに通信をしている。


「こちらF―0。例のものは確保したか?」

「こちらF―7、確保しました」

「状態はどうだ?」

「……特に損傷は無さそうです。起動は可能です」

「了解した。標的はどうだ?」

「F―4と5が交戦中です、標的は逃げている様子です」

「……違うな。奴は倉庫に行くつもりだ、F―1及び2、先回りして挟撃しろ」

「「了解」」


 通信を終えるとスキンヘッドの男はバンの助手席に移る。


「行け」彼が一言だけ言うと隊員がバンを動かし、工場の敷地へ入る。


「……予定は狂ったがまぁいい。テストにはもってこいの標的だ。」


 スキンヘッドはニヤリと不敵な笑みを口元に浮かべた。モニターにはイタチの姿がハッキリと映っていた。



「ちっ、少しは手加減しろよ、ちくしょう」


 イタチが思わず悪態を吐きながら倉庫に近付くと、目の前から別の二人組が現れた。挟撃をかけるつもりらしい。


「やっぱりなあっ」


 イタチが不意に横に飛び退く。二組が互いの姿を認めて一瞬トランペットからの銃撃が止まる。その瞬間をイタチは見逃さない。


 ……待ってたぜっ!


 イタチがカーゴパンツのポケットから素早く何かを通路に投げる。

 コロコロと転がる何かを隊員達が見つめた。それはピンの抜けた手榴弾である事に気付き、逃げようとするがその前に爆発した。

 激しい光と音が辺りを包み、隊員達の視界と耳を奪った。

 その隙をイタチは逃さずに襲いかかる。一番手近にいた隊員の足を払いのけ倒す。手首を返してトランペットを奪うと横にいた隊員を銃撃。

 倒れた隊員の顔面に膝を落として気絶させ、前方の隊員二人をトランペットで銃撃する。視界を失った隊員達は逃げる事も出来ずに撃ち抜かれて倒れた。


「ふぅ、何とか四人」


 イタチには目算があった。スキンヘッドが襲撃してきた特殊部隊のメンバーならAKのある倉庫は勿論把握している。だからそちらに向かえば連中は挟撃をかけてくるに違いないと。

 それから連中は少人数の部隊だとも。トランペットでの銃撃の形跡が少なかったからだ。

 イタチは倒した隊員達からトランペットの予備弾倉を奪うと装填する。

 ついでにヘッドセットを装着すると、スイッチを入れる。


「よう、聞こえますか隊長どの?」

「……イタチか?」

「アンタがスキンヘッドか? 派手なお出迎え感謝感激だよ」

「ふん、報告よりもよく喋る奴だな」

「そりゃ、調べた奴が大した事無いだけだよ、アンタは後ろにいるだけかい? 倉庫には来ないのかよ。一人は寂しいぜ」

「倉庫に行くのも良さそうだが、それよりこちらに来るといい。丁度今、準備が整った所だ。急げよ」


 ブツッという音を立てあちらからスイッチを切られたようだ。思った以上にしたたかな奴だ。



「チッ、やっぱこう来るよな」


 物影から様子を伺うとスキンヘッドはどうやらシゲルを捕らえたようで部屋に入っていく。

 奴の周囲には四人の隊員達がいてオレの来るのを待ち構えている。

 ポケットにはもう一つ閃光手榴弾があるが、不意打ちの武器を待ち構えている連中に使っても効果があるかは微妙だ、相手はそこらのチンピラ集団じゃない。

 するとオレの考えなどお見通しといわんばかりにスキンヘッドが大声で話し出す。


「そろそろ出てきたらどうだ? 君にとっては数少ない昔からの仲間が殺されるぞ」


 そう言うとシゲルが部屋から出てきた。五人目の隊員が頭にトランペットを突き付けている。


「心配するな。君が大人しく出てくればコイツは殺さない、人質なんだしな」


 スキンヘッドは余裕寂々でシゲルにボディブローをめり込ませる。その場に崩れるシゲル。殺さなくてもいたぶるって訳だ。


「レイジッッ、俺なんか気にすんなッッ、コイツら殺っちまえ!! 俺達の掟を忘れたか? いざとなれば見捨てろだ」


 シゲルがふてぶてしく声を張り上げる。タフな奴だ。さらに叫ぶ。


「レイジいッッ」


 気が付くとイタチは飛び出していた。

 迷わずに【スイッチ】を入れて突進していく。

 奴等がトランペットで銃撃をかけてきた。正確な狙いだ、スイッチが入ってなければ多分オダブツだ。

 だが、イタチはそれを最小限に身体を反らし横に軽くステップし避けながら向かっていく。


「何をしている? 相手は一人だぞ!」


 スキンヘッドの動揺混じりの声が聞こえる。


「しゃあっ」


 イタチがトランペットの銃口を隊員達に向けると引き金を引く。三点バーストになっていて銃弾が三発ずつ発射されていく。

 狙いはシゲルの近くの隊員とスキンヘッド。スキンヘッドは狙いを察して伏せる。隊員は反応が遅れて銃弾をその身に受けた。

 連中からも容赦なく銃弾は飛んでくるがイタチは構わずに突進を続ける。ホルスターからナイフを左手で抜いて下手に構える。間合いに入った隊員の手首を切りつけ、怯んだ所をトランペットで撃ち抜く。さらに踏み込み別の隊員に近付くとナイフで喉を一閃。


「くそ、バケモノめ」


 スキンヘッドが伏せた状態からトランペットでこちらに反撃する。

 銃弾を避けながらイタチが左手でポケットから閃光手榴弾を素早く取り出すとピンを抜き上に投げる。

 不意にイタチが突進を止めると右に横っ飛びする。トランペットをフルオートに切り替えると一気に銃弾を撒き散らすように射撃する。

 たまらず残った隊員二人がその場で伏せて回避する。あっという間にトランペットの銃弾が尽きたので投げ捨てる。

 連中が弾切れを見て反撃しようと立ち上がった瞬間、閃光手榴弾が地面に落ちて、爆発した。

 まともに光を見てたまらず連中が顔を下に向けた。イタチは下を見ながら走っていたので視界は問題無しだ。


「殺れ、早くだ」


 スキンヘッドは一瞬早く目を手で覆ったので視界が奪われずに済んだらしくイタチに銃撃しながら怒鳴っている。

 イタチは突進速度を一気に加速させると、残った隊員へと向かう。視界が戻り始めたのかトランペットの銃口をこちらに向けて来た。

 だが、一瞬早くイタチが間合いに入った。銃口を右手で反らすと左手のナイフを一気に心臓に突き立てた。

 残った隊員が銃撃してくる。素早くナイフを抜き取ると後ろに回り込み、その身体を突き飛ばす。銃弾が容赦なく隊員の身体を撃ち抜いていく。その陰からイタチが飛び出すと奪ったトランペットで撃ち抜いて射殺した。


「あとは、お前だけだな? スキンヘッドの隊長さん」

「くっ………ハハハッ。アハハハハハッ。やるじゃないか」


 スキンヘッドが突然大声で笑い声をあげたので一瞬、気が触れたのかとも思ったが奴の目は冷静そのものだった。


「大した【性能】だなイタチ君、流石に驚いた」

「嫌な言い方だな、シゲルを返して貰おうか、今更人質は大した意味が無いぜ」


 オレはゆっくりと近寄る。スイッチはすでに切れた。正直、疲労困憊で倒れそうだ。


「……いいだろう」


 すると簡単にシゲルからスキンヘッドが離れる。予想外だが、まぁいいだろう。なるべく手短に終わらせないとな。


「行くぞシゲル」

「あ、あぁ」


 事態が完全には飲み込めない様子のシゲルを立たせるとゆっくりと立ち去る為にスキンヘッドと距離を取る。スキンヘッドも特に反撃しようとはせずに同様に距離を取る。


「またな、オーダー」


 スキンヘッドがそう言うと暗闇に姿を消した。

 特殊部隊と思われる連中が全滅したのだから、奴も只では済まないだろう。


「悪いな、レイジ」

「気にすんな」


 オレは柄にもなく肩を貸すと工場を出ようとした。

 すると突然携帯の着信音が鳴り響く。オレのスマホではない。シゲルのだろうか、にしても妙な着信音だ。

 まるでテレビで放送禁止用語を誤魔化す時に流れるあの音だ。正直不快に感じたがすぐに切れた。どうも妙な感じがしたがオレはそれをおくびにも出さずにシゲルをバイクに乗せた。



 しばらくバイクを走らせると公園が見えた。シゲルが「ここでいい」というので、バイクを停めて公園内のベンチに座らせる。


「レイジ、火ぃ持ってるか?」


 一息付きたいらしくシゲルがタバコを口に入れて聞いてきた。ライターなら持ち歩いているのでそれで火を付けてやる。

「フゥ」と一息つくとゆっくりと煙を吐き出す。


「なぁ、レイジ。アンタ前に言ってたよな、世界をぶっ壊したいってさぁ。アレ……今でもそう思ってるんか?」

「あ? あぁ……そういや言ってたなぁ、確かによ。今でもたまに思うぜ、ぶっ壊したいってさ」

「なぁ、何で俺を助けた? 一度はアンタに銃口を向けたんだぜ? しかもロケット弾まで撃ち込んだんだろ……どうかしてるぜ」


 シゲルが半ば呆れた様子でオレを見た。オレはシゲルの口からタバコを取ると口に入れる。ゆっくりと煙を噴かす。


「最初はお前を殺す気でいたんだけどな……何でだろうなぁ」


 オレはそう言うとタバコを地面に捨てると火を消した。そして、少し距離を取ると背中を向ける。……決着の為に。


「ヘッ、何だよ気付いてたのか?」


 奴の問いには答えずにオレは背中を向けたまま奴に尋ねる。


「……お前がオーダーだな? シゲルは何処に行ったんだ?」


 その質問に反応したのか雰囲気が変わった。

 振り返るとシゲルが顔を下に向け身体が小刻み震えだした、怯えからではない。


「あは、アハハハハハッ。シゲルぅ? アイツなら何処か隅っこにでもいるんじゃねぇかぁッッ」


 顔をこちらに向けて大爆笑しているのは、もうオレが知っていたシゲルの顔では無かった。

 その目はどこか焦点が合わず虚ろで、表情は凶悪。飢えた狼の様というのがピッタリだ。


「でよ、俺の質問に答えろや。いつから気付いたんだよ?」

「さっきの変な着信音の後だよ。……アレを聞いた時にオレのスイッチが入りそうになってね。妙な感じがしたから警戒してたら、お前の様子が変わったのに気付いた」

「ケッ、何だよ。結構前じゃねぇかよ! ったくあのハゲ、もう少しタイミング考えてからやれっての!!!」


 オーダーが口元を歪めてベンチから立ち上がる。手元には隠し持っていたのかバタフライナイフが握られていた。


「ま、しゃあねぇや。バレたんならさっさと殺り合おうゼッッ」


 さっきまでとは別人のように素早い踏み込みで間合いを詰めてきた。狙いは喉らしい。

 確かに気付けなければオレは殺られていただろう。だが…………。


一発の銃声が響いた。


「……………」


 オーダーはヨロヨロと後ろに下がるとベンチに座り込む。顔は下を向いたまま動かない。傍目には眠ってるように見えるだろう。


「悪いな。オレはまだ死ねないんだ」


 ホルスターからオートマグを抜く。

 こいつはオレの一回こっきりのトリックショット。

 オレのホルスターは銃口部分がわざと開けてあり、紐はゴム製で伸びるようになってる。【そのまま射撃】出来るようにだ。

 ホルスターごと射撃するので命中精度は高くない。あくまでも【至近距離】での不意打ち対策の技だ。

 背中を向けたのは奴が襲って来るのに懸けたからだったが、どうやら当たりだったようだ。

 オレはもう動かない奴に背中を向けると答えた。



「さっきの質問な、オレはお前や仲間にいつでも隙があれば殺して構わないって言ってたんだよ。…………だからさ、じゃあな。あばよシゲル」


 オレはその場から離れた。するとまるでそれに合わせたかの様にベンチを照らしていた灯りがブツッという音を立てると消える。


 暗闇がすべてを包み込んだ。……何事も無いかの如く。

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