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イタチは笑う  作者: 足利義光
第六話
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ハンティングパーティ

「ちっ、しつこい」


 イタチが舌打ちしながら走る。足元を銃撃がなぞるように追ってくる。

 オーダーの手下達が銃撃して来たので反対にあるビルに逃げ込んだはいいが、そちらにも何人か手下が予め待機しており、待ち伏せされたのだ。


「丁寧に全員AK―47かよ。シゲルの奴、なかなか用意周到だなっ」


 不意にイタチが前方に飛びながら左膝を暗闇に向けて躊躇なく叩きつける。

 「がばっ」呻きながら、一人の手下が膝を顔面に喰らい崩れ落ちる。


「服装もご丁寧に黒ずくめかよ、クロイヌだけで充分だよこのっ」


 更にその場で回転しながら右足で前蹴りを放つ。潜んでいた別の手下に命中、声も無く倒れる。


「ようやく二人かぁ」


 イタチは二人を物陰に隠すと、ケガの確認をしつつ、オートマグをチェックする。

 まずケガは大した事はない。不意を突かれたがキズはかすり傷だ。血止めをして対処。痛みは少しあるが問題ない。

 オートマグはいつもの如く弾は六発。相手は十人以上は確実にいそうだ。弾が足りない。


「なるべく節約しなきゃなぁ……うわっと」


 前方にいた二人組に見つかり、AK―47の銃撃が浴びせられる。

 アサルトライフルの銃弾は貫通力に優れているので下手な遮蔽物は無駄だ。開けた場所なら基本は逃げるに限る。


「しっかし、盛大に迎えてくれるよな」


 息を潜めたいが、今の銃撃で他の連中も集まってきた。


「ひい、ふう、みいの六人か……」


 人数を確認すると、イタチは足音を消して歩き出す。

 連中は階段付近に集まっている。確かに正解だ。移動はそこからしか出来ない……普通は。



「クソッ、どこに逃げたんだよ」

「慌てるな、奴はこの階から動けない」

「早く済ませて帰りたいなぁ」


 連中のボヤキが聞こえる。幸い士気はあまり高くはない様だ。


「喰らいな!!!」


 イタチが奪ったAKで床を銃撃した。

 銃弾が下の階にいた連中に降り注ぐ。


「う、上からだ!」

「ぐあっ」


 連中の悲鳴が聞こえてきた。

 イタチが窓から上の階に登って天井から銃撃してくるとは思いもせず、ひとたまりもなかった。


「暗闇はオレの味方って訳さ♪」


 イタチは軽口を叩きながら素早く下の階へ戻ると連中を確認。

 全員がその場に倒れていて生きている奴もいるが戦闘不能なのを確認。そのまま下に移動する。




「まだか? たかが一匹だぞ!」


 外ではオーダーことシゲルが苛立ちを募らせていた。

 腕時計を見るとかれこれ三十分は経過した。

 奴がビルの四階にいると連絡があり、手下達が集まったが、先程の銃声を境にパッタリ静かになった。


「準備はまだか?」


 オーダーが横にいる、自分の側近のスキンヘッドに話しかけた。


「もう少しで用意出来るそうです」

「もう少しか……」


 オーダーが考えを纏めると外にいる残った手下達に何事かを指示する。

 指示を受けた手下達が一斉にビルに向かっていく。

 この場に残るのは自分とスキンヘッドを入れて五人。


「時間稼ぎはさせて貰うぞ、レイジよぉ」


 ようやく余裕を取り戻したらしく、オーダーがニヤリと歪んだ笑顔を浮かべた。




「ヤバイっ」


 オレは思わず動きを止めると、状況を確認。

 連中が二階へとゾロゾロ集まり出したので慌てて階段からフロアに素早く移動。


「ちぇっ、バラけて来たか」


 さっきの六人とは違い、今度は二人ずつペアで動いているらしく、個別に対処するしか無い。


 ……やるじゃんか。


 オレは思わずオーダーの奴を褒めちまった。

 奴をオレは過小評価していたらしい。やり方はともかく、連中に一応の指示は出してる様だ。


 ……ま、だからって殺られる訳にゃいかねぇけどな。


 オレはそう思いながら次の動きに入る。こういうのは先手必勝だしな。



 カラカラッ。突然フロアに空き缶の転がる音がした。近くにいた二人組が反応して音へと近付く。


「ん、何だ」

「誰もいない?」


 二人の背後にイタチがスッと忍び寄ると右手で顔を覆い素早く一人の喉を左手のナイフで掻ききる。

 もう一人が気付くが声をあげる前に右手で口を塞ぎ、ナイフで心臓を一突き。静かに床に転がした。


「あと、六人」



 今のオレに有利な点は夜目が利くのと、連中より暗闇に慣れている事、何より【殺し】に慣れてる事だ。


 オレは距離を適度に取りながら次の獲物を狙う為に隙を窺う。


 そもそもこのビルは建設初期で中断されたのでまだ各階の部屋割りすらほとんど出来ていない。各階ワンフロア状態だ。

 だだっ広い空間にオマケ程度の幾つかの仕切りがあり、遮蔽物なんてのはビルの柱しかない。



「うん? やばっ」


 オレが状況を把握しようと外を確認して、自分が改めてこの狩りの獲物であると知らされた。

 外では今到着したばかりのトラックの荷台から三台のサーチライトがこちらに向けられていた。

 そしてサーチライトが一斉にこの階を照らし始めた。ワンフロア状態では隠れる事は不可能だ。


「いたぞ!」

「撃ち殺せ!!」

「ちょこまかするな」 


 当然、見つかったオレは六人からAKでの【おもてなし】を腹一杯になりそうな勢いで向けられた。


「ちっ、やるじゃねぇか!!」


 まるで三流の悪役の台詞を吐きながらひたすら逃げるオレ。

 サーチライトの光りはフロア全体に行き渡っていて潜める場所はない。


「仕方ない……殺る!」



 いつの頃からか、イタチは自分に【スイッチ】がある事を知っていた。

 それは意識して自分自身をまるで切り替えるような感覚だった。

 アンダーにいた頃に本で読んだペルソナ(仮面)に近い物だとも考えたが、最近は全くの別物だと結論付けた。

 ……何故なら。



「あ、ぐあっ」

「ひ、何だアイツ!」


 六人の手下達は恐怖にひきつった。

 AKの一斉射撃から逃げていた獲物がいきなり反転してこちらに突っ込んで来た。破れかぶれの突進かと思ったがそうではなかった。


 イタチにはある程度の目算はあった。AK―47に限らずアサルトライフルの装弾数は大体三十発だ。

 さっきからやみくもに逃げた訳では無く、大体の発射弾数を確認していたのだ。


 イタチがスイッチを切り替えると、普段よりも全てがハッキリ見えるような感じになる。

 正確には全てが【ゆっくり】に見えるのだ。

 弾も前よりゆっくりに見えるので軌道が読めるし、避ける方向にも身体がしっかり動く。

 今もAKからの一斉射撃による銃弾がどう向かっていくかが、見えるから最低限の身のこなしで避けながら突進出来る。


 手下達からするとまるで銃弾がイタチから反れているようにすら見えるだろう。


――バケモノだ。


 これが彼らの共通認識だった。

 そして恐怖に呑まれた彼らに弾切れが追い討ちを掛けた。


 イタチは遠くにいる二人を愛用のヒップホルスターから右手で素早くオートマグを抜く。左手で速やかに安全装置を外すと迷わず二連射。一発は一人の心臓を、もう一発は頭を狙い通りに撃ち抜く。さらにオートマグの銃底で一人の顎を殴る。

 左手は二重になってるホルスターからナイフを抜くともう一人の心臓に一突き。


「バケモノだ」

「勘弁してくれっ」


 残された二人は戦意を失ったらしくAKを投げ捨てるが、イタチは躊躇しない。二人を直線上に捉えるとオートマグから一発発射。狙いは喉。銃弾は予定通りに二人を貫いた。



 一連の動きに外にいたオーダーも気付く。


「ちっ、レイジの野郎ようやく本気って事だな……上等だ!!」


 歪んだ笑顔を浮かべると右手をあげる。

 残った手下はスキンヘッドを含めて四人。


「撃て!!」


 オーダーの号令で四人が二階に向けてAKで一斉射撃をかける。


「とにかく一発でも当てろ!! 弾切れには気をつけろよ」


 オーダーはそう言うとトラックに乗り込む。



 AKの弾倉を装填してさらに追い撃ちをかける四人。みるみるビルが穴だらけの悲惨な状態になっていく。


「殺ったか?」


 手下がぼやくのを聞いてかの如くビルからAKでの射撃。ぼやいた手下が全身を撃ち抜かれた。


「クソッ、まだ生きてるぞ!!」


 慌ててトラックを盾にするスキンヘッドと手下達。AKの乱射が続く。



「あの野郎!!」


 スキンヘッドの怒声にトラックから降りたオーダーが一言「どけ」と言うと一歩前に出た。手には何か筒状の物を持っている。


 イタチが相手の混乱している間に一気にビルから飛び出そうとした瞬間。視界に入ったのは、オーダー。


「レイジぃぃッ」


 声を張り上げ叫ぶオーダーの手にあったのは、RPG―7。所謂ロケットランチャー。


「死ねやぁっっ!!」


 怒声混じりにイタチに向けて照準を合わせると引き金をひく。狙いは大雑把でも構わない。奴は一階にいたからその辺りを狙うだけだ。いくらか身軽に動けようが爆風までは避けきれないはず。


 ゴオオオンという轟音と共にビルが爆風に包まれる。

 ロケット弾が命中した場所が建物の支柱だったのか、やがてビル全体が崩れていく。


「……死んだか? ざまぁみろ。ハハハハッ」


 数分後には完全に瓦礫の山と化したビルの残骸を見てオーダーが歪んだ笑い声をあげた。


「オーダー、流石に派手にやり過ぎだ。ずらからないとサツや組織の連中が来るぞ!」


 スキンヘッドが悦に入ったオーダーをなだめながらトラックに乗せると急いでその場を去る。


「ざまぁねぇなレイジぃっ! 俺は殺した、殺したんだァッ、ハハハハハハハハッ」


 まるで糸が切れたかのような笑い声が響き、やがて小さくなっていく。




 そこ残されたのは崩れたビルの瓦礫の山だけだった。

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