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イタチは笑う  作者: 足利義光
第五話
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リスの初仕事

《や、ヤバイ緊張する》


 時刻は夜中の二時。第五区域にある倉庫置き場にリスが向かっていた。


 カラスがリスに頼んだのは簡単な仕事だった。


「お前に頼みたい事がある。やってくれるか?」

「は、ハイッ」


 リスの元気の良さに思わず笑いそうになるのを我慢しながらカラスは話を続ける。


「仕事って程の事はないんだが、お前に荷物を取ってきて欲しい」


 言いながら、リスに一枚の地図を渡す。リスが地図に目を通す。


「これがクロイヌの倉庫だ」


カラスが一つの倉庫を示す。それを見て思わず


「や、ヤバイ荷物ですか?」


 クロイヌと聞いて思わずクスリとかを想像してしまう。

 カラスも気付いたらしく今度は軽く笑いながら、否定した。


「ハハ。怪しい品物じゃないさ。コレだ」


 カラスがリスの前に置いたのはさっき、クロイヌが持ってきたスコッチだ。


「酒を取りにいくんですか?」

「そうだ。ここに組織の奴が運んで来ると色々と面倒になるからな、どうだやるか?」

「はい。いつ行けばいいんですか?」



 ◆◆◆



 という訳で夜中の二時に俺はクロイヌさんの倉庫に向かっていた。


 何で夜中の二時かというとバーの営業後なのとクロイヌさんの倉庫の中身が朝方には空っぽになるからだそうだ。


 というわけで第五区域にある倉庫置き場に俺は到着した。第五区域ってのは簡単に説明すると港湾区域だ。

 元々は港町で昔から蟹や海老が有名だったらしい。今でもここで水揚げされた蟹は高級品だ。


 事情が変わったのは、今から大体三十年位前にこの辺りが【経済特区】として指定されてからの事だ。他にも港はあったけど他国との交易が活性化された結果、限界を迎えてパンクしたので、ここにも交易の船舶が到着するようになった。


 で大戦後は、世界は以前より狭くなった。国という概念は小さくなった。今では組織を中心とした富裕層が活用する港になった。


 その名残で倉庫がたくさん残されていて、個人所有の物がたくさんある。今から行くのはクロイヌさんの所有する倉庫って訳だ。


「通っていい」


 厳つい顔をした警備員のいる倉庫置き場の入口のゲートを通過すると、物凄い数の倉庫が目の前に姿を現す。

 地図と倉庫を示す看板が無いと目的の場所には着きそうにもない。倉庫にも種類や規模の差はあってコンテナもあれば、ちょっとした建物みたいな物もある。

 目的の倉庫は丁度置き場の中心部にあり、わかりやすく警備員もいるのですぐ分かった。


 近付くにつれ改めてクロイヌの力が自分の想像を遥かに越えていると思わされた。


「デッカイなぁ」


 俺は思わず驚いた。バーと同じ位の高さの倉庫は、中にも警備員がいて二階建てだった。じろりとこちらを睨む入口にいた警備員にクロイヌさんからの紹介状を見せる。


「少し待ってろ」


 中にいた警備員が俺に待つように言うと、奥から大事そうに箱を持ってきた。二十年物は最高級品らしいのが扱い方で実感出来た。


「これだ。持っていけ」


 リスがスコッチの入った箱を受け取ろうと一歩前に踏み出そうとした時だった。

 ふと、足元に小さい円筒形の筒が転がってきた。瞬時に筒から一気に煙が噴き出す。


 あっという間だった。足音がしたかと思ったら、頭に衝撃が走った。鈍器で殴られたような感じだ。その場に倒れて意識が遠のいていく。


《だ、誰だ》


 俺が薄れていく意識を辛うじて保ちながら何が起きたかを確認しようとする。人数は一人。顔にはガスマスクをしているのが分かる。

 完全に不意を突いたので二人いた警備員も制圧されたらしく自分と同じく倒れている。リスは意識を失う前に微かに花の匂いを確かに感じた。


 ◆◆◆


「それで、被害はどうなんだ?」


 カラスさんの声がする。ここはどこだろ?


「犠牲者はいない。発煙筒を投げ込んでから二人いた警備員とコイツを倒したらしい」


 ん? クロイヌさんの声もする。起きないと


「う、っ……」


 俺は目を覚ました。最初に視界に入ったのは灰色の天井だった。

 視界がボヤけてるらしく、いつもの見てる景色はずなのに違和感がある。


「気がついたか」


 カラスさんが近付いてくる。視界がボヤけてハッキリと顔が見えない。


「お、俺は……痛っ」


 頭にジンジンと痛みが走る。二日酔いとは違う気分の悪さ。間違いなく俺は殴られたみたいだ。


「無理はするな。お前は頭に一撃喰らったんだ」


 とカラスさんが言った。ああ、俺はハッキリと理解した、【仕事】に失敗したんだと。


「リスだったな、相手は見たか?」


 クロイヌさんが尋ねてきた。俺はスタッフの休憩室に寝ているらしい。

 ゆっくりとカウチから起き上がる。


「いえ、相手はガスマスクを着けてて顔は分からなかったです」


 俺は素直に話す。嘘なんかつける訳がないし、今更言い訳なんか意味がない。


「そうか」


 クロイヌさんは一言だけ呟くように言った。少し考える仕草をしてカラスさんの方を向くと話を始めた。


「被害そのものは大した事はない。やられたのは主に葉巻や硬貨などの小物類だ。金額的には取り戻せる」

「だが、客からの信用は落ちる訳だな」

「仕方ない。盗まれたのは事実なんだからな」


 クロイヌさんが煙草に火を付ける。多分、倉庫にはスコッチみたいに他人に渡したりする品物もあったのだろう。葉巻や硬貨だけがやられたのが証拠だ。


「あの、一つだけあります。その気のせいかもなんですが」

「何でもいい、言ってみろ」

 カラスさんの言葉に背中を押された俺は香りを嗅いだことを伝えた。



「教えてくれ、どんな匂いだった?」

「多分、花だと思います」

「花か……どう思うクロイヌ?」

「花の匂い……か。探してみるがあまり期待はするな」

「構わん、頼む」


 クロイヌさんはそう言うとカツカツカツと独特の足音を立てながら店を出ていった。気のせいかいつもより早足だった。


「カラスさん、スイマセンでした。俺がもっとしっかりしてれば」


 俺の本音だった。

 俺じゃなくてカラスさん、イタチさんだったら不意を突かれても相手が一人ならみすみすやられたりはしなかったに違いない。

 不甲斐なさに体が震えた。涙を流さないのは最後の意地だった。


「気にするな、何事も経験だ。それより、スコッチの借りは返さないとな。」


 カラスさんがニヤリと笑った。その表情に安心した俺はゆっくりとカウチに沈み込んだ。


「誰かは知らんが、スコッチと従業員の借りは返してもらうぞ。」


 ◆◆◆


 リスが寝たのを確認してから俺はある人物に電話をかける事にした。話をしたい相手ではないが仕方ない。


「おい誰だね、間違いじゃないのか?」


 電話越しに馴染みの声がした。どうやら相変わらずのようだ。


「俺の声を忘れたのか?あんたは俺に借りを返してないぞ」

「……その声は、カラスさんかぃ。いや、悪いね。最近は悪戯が多くてさ」


 声の主が急に態度を変わる。


「あんたに聞きたい事があるんだ」

「何でも聞いてくれ。私にわかる事なら協力するよ」

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