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イタチは笑う  作者: 足利義光
第四話
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三日目 まさかの温泉

 ここであのキャラの名前が判明します。


「お世話になりました」

「いやいやまたおいで」

「じゃあ、帰り道にまた寄ります」


 二日お世話になった筑城夫妻の住む村を出て私とイタチ君は再びバイクを走らせる。


 昨日軽く撫でたやくざな人達はいなかった。これでお爺ちゃんたちも安心だろう。

 ひょっとしたら私達と行き先同じかもとか考えたけど、ま、どうでもいいや。ヘルメット越しでも感じる風が気持ちいい。

 気になるのはイタチ君が何故か目の下に隈を作ってたけどどうしたのかな?


 ◆◆◆


 風はともかく、日差しが眩しい。昨日はろくに寝れなかったオレには風はともかく、お日様がキツい。今日で目的の場所につくそうだ。

 何処かは聞いてないがオーナーの様子を見る限り、変な場所ではなさそうだ。

 そんなこんなでバイクを走らせていくと、ドンドン山奥に入る。

 途中からはバイクを降りて山に入り、明らかに獣道としか思えない細くて怪しい山道を歩く。変な場所なのか? もしかして


「あ、あの熊とか出ないっすよね?」


 不安で思わず聞いてしまう。山道対策なんてしとらンぞ。


「さぁ、まぁ出たら出たらでイタチ君お願い」


 サラッといい放ちやがった。ガッデム!! 熊なンかと闘う自信なぞ今はないわ。

 うん、そうだね。彼女はそういう人でしたわ。


 日が暮れそうになりようやく一軒の平屋建てが見えてくる。看板があるがかなり古く、手入れもしてないらしく字が読めない。正直怪しい。


「こんばんわ〜〜」


 オーナーは迷わずに声をあげるとガラガラと引き戸を開く。数秒後、派手なアロハシャツを着たおじさんが出てきた。

 年は四十歳くらいか。視線を合わせてにらみ会うおじさんとオーナー。


 さらに数秒後。


「おじさんおひさ♪」

「ん〜〜〜〜、もしかしてレイコちゃんか」

「そうだよ。カラスから手紙来たでしょ」

「いや−ビックリしたよ。まさかこんなに美人さんになるとはね」



 …………知り合いかよ。変な間を作るなよ。思わず警戒したわ。

 ホッとしたのに気付いたのか、アロハシャツのおじさんはオレの方に視線を向けた。


「ふーん。じゃお前さんがイタチか」


 何やら品定めするような視線。


「あの、どうも」


 とりあえず挨拶してみるが、品定めするような視線は変わらない。


「ふむ、まぁいい。二人とも入りなさい」

「じゃお邪魔しまーす」

「失礼します」


 オレとオーナーもといレイコさんが廊下に足を踏み入れた瞬間。


「あ、そういえば」


 おじさんが何か思い出すような仕草。でいきなりふり返ると勢いよくオレに回し蹴り。

 こちらは担いでいたバッグで受け止め、余った右で肘打ちを狙う。だが、読んでたとばかりに肘の上に左の掌をポンと置かれた。


「うん、なかなかいい反応だ。上出来だぞ」


 言うなり満面の笑みを浮かべるアロハのおじさん。オレはポカンとした顔になった。


「え〜〜と、何なんですか?」


 とりあえず状況がハッキリしないので確認だけしてみる。


「こういう事よ」


 横にいたレイコさんがオレの左腕をいきなり捻る。オレはバッグを離すと捻る方向に回転。技の流れを殺す。


「ほーう、基礎能力は大丈夫だな」


 アロハのおじさんが満足げにまた笑う。


「こう見えて結構腕は立つのよイタチ君は」


 背中をバンバン叩くレイコさん。いや、痛いからね。オレは重傷患者だからね、分かってるのかな?


「オレをどうしたいんですか?」


 いくつか予想はしたがイマイチ釈然とせず改めてアロハのおじさんに質問する。おじさんが答える。


「レイコちゃんとカラスの馬鹿からの手紙でお願いされたんだ。傷の治療とついでに好きにしていいぞとね」


 サラッと言われた。【好きにしていい】が物凄く嫌な響きだ。


「メインはイタチ君の傷の治療。心配しなくていいわよ」

「そういう事だ。まだ名乗ってなかったな、オレは吾朗。ヨロシクなイタチ君」


 ニカッと笑う吾朗おじさん。


 何だかまた面倒そうな予感だ。二人の笑顔が逆にオレを不安にする。



 ◆◆◆



「ま、とりあえずは風呂に入っとけ」


 部屋についたオレは吾朗さんの言葉に従い、風呂場に行く。

 途中で吾朗さんの奥さんに会ったので挨拶。奥さんは着物を着た大人しそうな人だった。


「うわ、スゲェ」


 浴場に入ると驚く。ここは絶景の露天風呂だったのだ。


「はっは、ビックリしたかイタチ君」


 吾朗さんが先に入っていた。

 オレは洗い場で体を流すとチャプン、と湯船に足を入れた。


「うわっ冷たっ」


 湯船のお湯が冷たくて情けないコトに思わず声が出てしまった。


「ハハハ。ビックリしただろう? ここはね、昔ながらの【隠し湯】という奴だ。で、隠し湯ってのは冷泉が多くて、ここも三十度位なんだ。奥に暖かい沸かし湯があるからまずそっちに入って身体を暖めてから入ると丁度いいんだよ。ほら、試してみるといい」


 吾朗さんが笑いながらいった。


「はぁ」


 吾朗さんが何故一緒に風呂場に来たのか疑問だったが、入り方を教えるのと後は多分冷泉に足を入れてビックリするのを楽しみにしていたに違いない。

 だってオレなら間違いなくそうするからだ。

 沸かし湯をわざわざ奥に置いとくのがそもそもいたずら心以外の何者でもないだろうし。


「さあ、どうだ?」

「あ〜〜〜これはいいですね」


 熱い沸かし湯に入ってから冷泉に入るとちょっとしたマッサージみたいな感覚になる。

 身体中がほぐれて楽になるのを感じた。痛めた身体が軽くなる感じだ。リラックスして、身体が弛緩していく。


「そうだろう、そうだろう。ここは身体の不調にはいいからな」

「吾朗さんはオーナーやカラス兄さんとはどういう関係なんですか?」


 リラックスした所で素朴な疑問をぶつけてみる。吾朗さんは少し考えるような仕草をするが、口を開く。


「これを見てくれ」


 吾朗さんはそう言うと湯船から上がり、身体を見せだ。


 吾朗さんの全身には切り傷、銃創、火傷の跡がくっきり残っていて、この人が見た目とは違いかなりの修羅場を潜り抜けてきたのがありありと分かる。


「私は軍にいてね。それも常に最前線だった」


 さっきまでとは違い鋭い目付き。いい思い出ではないだろう。少し表情に翳りがある。


「カラスの奴は当時レイヴンと呼ばれていた。アイツと同じ部隊に私はいたんだ。所謂、戦友という奴だよ」


 オレはその言葉に納得した。さっきの不意討ちは訓練された兵士のモノだったからだ。それもかなり徹底的に鍛え上げた精鋭のそれだ。


「レイコちゃんは、彼女の父親からの縁だよ。イタチ君、彼女が何者かは知ってるか?」


 そう言う吾朗さんの眼差しは真剣だ。オレもきちんと振り向き返す。


「いえ、知らないです」

「知りたくはないのか」

「興味がない訳じゃないです。ただ、オレ自身過去がよくわからないし、詮索されたくないから」

「成る程な、自分の嫌な事は他人にもしてはならないという奴だ」


 しばし沈黙がその場を支配する。不意に吾朗さんはいきなり湯船に身を沈める。飛沫が勢いよくこちらに飛んできた。


「ハッハ。ならよし、君はなかなか芯が通っているな。気に入った」


 吾朗さんが豪快に笑い出した。それからはとりとめのない話をしばらくした。

 その間何回か沸かし湯と冷泉を交互に入る。身体中がドンドン楽になるのを実感した。確かに治療には抜群にいい。


「さてと、そろそろ私は上がるよ。君はもう少し浸かるといい。」

「何かオレの事は聞いてますか?」

「いや、手紙には君が来ると書いてあっただけだよ」

「オレをどう思います?」

「うん、第一印象は昔のレイヴンに近い。簡単に言うと野生の獣だな。だが纏ってる雰囲気は大分緩い。多分、かなりの修羅場を潜り抜けて来てる。こんな所だ」


 とスラスラと言う。


「あの、オレはここで何をすればいいんですか?」


 オレは一番の疑問を聞いてみる事にした。正直言って戸惑っている。レイコさんが傷の治療がメインとは言ってはいたが。


「レイヴン、いやカラスなりに君を気にかけてるんだよ。ま、アイツは素直じゃないし、ぶっきらぼうだからな」


 吾朗さんが何のことはないとばかりにあっさりと言う。


「まぁ、数日は滞在するといい。代金は貰ってるし、レイコちゃんも久々にゆっくり休みたいだろうからな。【命の洗濯】ってヤツだ」


 そういうと吾朗さんは浴場を出ていく。


「……命の洗濯か」


 オレは湯船に深々と身体を沈めると、窓から見える満点の星空に視線を向ける。


 こうしてオレとオーナーもといレイコさんは数日ここに滞在する事になった。

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