第四話 ちょっとした旅行一日目
ちょいと荒事を減らした話をしてみたいのでこんな感じになりました。
拙い文章ですが、ご容赦くだされ
《あ〜〜〜〜あ、しんどぃ、マジでしんどぉ》
オレは限界を迎えていた。目の前の恐るべき敵と事態に絶体絶命とはこういう事かと納得していた。
そもそも何でこんな事になったか……少し長いぞ。寝るなよ。
◆◆◆
きっかけはオレの退院だった。何だかんだで一週間入院した後、バーに久々に戻ったオレを待っていたのが奴だった。
「あ、あの何ですかこの紙切れは」
オレはおそるおそる異様なプレッシャーを放つ紙切れを指差し、オーナーに確認してみた。
「ねぇ、イタチ君。生きていくのには色々必要だよね」
「え、えぇ、確かに」
「生きていくには、食べ物が必要だし、住む場所もいるよね」
オーナーの言葉には感情が無く、何だか嫌な予感がする。……いや嫌な予感しかしない。
「じゃあ、現代社会で生きていくのに必要な物を手に入れるにはどうすればいいかな、イタチ君」
「え、お金を稼がないといけないッス」
「そうだよねぇぇぇッッッッ」
物凄くエコーの入った声を上げるとオーナーはオレの肩に手を回す。
や、ヤバイ、これはヤバイ流れだ。肩を掴まれたということは【逃がさない】という意味だ。
対抗策は……。
それからおよそ二秒。
「……あ、あの幾ら必要なんですか?」
そんなもンあるわきゃねぇ。オレに選択肢なんか無いンだ。そう、オレは考えるのをやめた。
「うん、まずは紙切れを見てくれるかな」
オーナーの笑顔が怖い。まるで般若のようだ。
紙切れを手に取ると書いてある内容を見る。
「えぇッッッッ何これ無理無理ッ」
そこに記入されし内容にオレは絶句した。内容はこうだ。
「医療費請求書」
「色々合わせて○○○○○○○円になります」
絶望的だ。こんなんすぐ払えんわ。顔面蒼白になるオレの顔のそばには般若の形相をしたオーナー。
「イタチ君、分かってるだろうけど……建て替えたお金は返してね♪」
「ハイ、モチロン」
オレは助けを求めてカラス兄さんに視線を送った。頼む助けて下さい、という気持ちを込めて。
しばらくして、カラス兄さんが助け船を出してくれた。
「イタチ、お前ちょっと街を出ろ」
予想外のお言葉が出た。
「街を出る?」
「医療費は普段なら仕事を幾つかこなせば問題ない金額だ。だが、今のお前は仕事をする体調じゃない」
確かに今のオレはポンコツだ。満足に動けない。
「正直、店はリス君がいるから、イタチ君はいらないんだよね」
ニッコリ笑うオーナー。いやそれ笑えねぇよ。
「そこでだ、お前ちょっと街を出ろ」
カラス兄さんは身分証をオレに渡す。勿論偽造だ。
「何処に行くんすか?」
「ちょっとした知り合いの所だ。連絡はしておくから明日にでも行け」
◆◆◆
てな訳でオレは街を出た。塔の街の外に出るのはとりあえず初めてだ。
オレはバイクを走らせる。目指す場所は、二日程かかるらしい。
段々と人里を離れていく。住んでいた塔の街が小さくなっていく。
いつか聞いたが、かつては塔の街の外にも栄えていた街はたくさんあったらしい。それが、【大戦】により一変した。
世界中のあちこちの国が消えて、人々がいなくなり、大戦が終わった時には、人口はかつての三分の一になった。
政府という国を統括していた連中も機能を失い、残された人々はあちこちに点在する街に集まり、やがてそこで暮らすようになった。
「世界は小さくなったんだよ分かるか? ○○○」
かつて、オレが世話になったおっさんがそう言っていた。当時のオレには意味が分からなかったが、今ならわかる。
「すっげえな」
眼下に広がるのは一面の緑。塔の街にも山はあるし、海もあるが、今見えてるのは手付かずの自然。
「でしょう。やっぱりびっくりするよね」
と、横から声をかけるのはオーナー。そう、今回は彼女のお供をしているわけ。
「しっかし、オーナー。何処まで行くんですか? 段々、人気が無くなって来ましたよ」
「あれ? イタチ君、……もしかして欲情?」
「な、何いってるンすかアンタは」
冗談じゃない。アンタに欲情なんかした日には血祭りだ。あンたにカラス兄さんにと二重に。
「冗談よ、あ〜〜イタチ君をからかうのは楽しいわねぇ」
「勘弁してくださいよ、マジで」
「今日は峠を越えた先にある村で休むわ」
とオーナーが指差す方向を見る。確か地図だと小さいけど家が幾つか集まっている集落が峠を越えた先にあるらしい。
「ほら、早く行くよ」
「あ、はいはい」
オーナーが先行してバイクを走らせる。それについていくオレ。
◆◆◆
しばらく風を切りながら走ることおよそ三十分程して、目的の集落に着く。随分と年季が入った古民家が点在していて、以前写真では見た事があるが、実物は初めてでオレは思わず興奮した。
「おや、あんた方どちらから来たんだい?」
ひとの良さそうな老人がひょいと古民家から出てきた。
「あちらの街からですよ」
普段とは違いおしとやかな女性を演じるオーナーに後ずさりするオレ。
オレ視線に気付いた彼女は、ニコリと笑いながら視線を合わすが目が全く笑ってない。ヤバイ。
「おやまぁ、塔の街からかぁ、遠い所から大変だねぇ。おい母さん」
老人が声をあげると庭先から穏やかそうな顔をした女性が歩いてきた。
「お父さんどうしましたか?」
「お客さんが来たよ」
「おやまぁ。ようこそこんな何もない村に」
どうやら、この家はたまに訪れる旅人の宿泊場所でもあるらしく、オレとオーナーはこの日はここに泊まることになった。
久々にのんびりした時間の中でこの日はグッスリと眠れた。一日目はこんな所だ。




