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イタチは笑う  作者: 足利義光
第一話
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第一話 彼の日常

 イタチは走る。狙いは、街に蔓延しつつあるあるクスリ。彼に休みは無い。とりあえず今は。



 さて、オレが住むここについて説明しようか。


 塔の街は二つの階層で成立している。


 一つは支配階級たる塔の住人。または塔の組織などの連中。

 一つは下の区域(スラムとも言う)の住人。

 もう一つ、アンダーと呼ばれる地下の住人で、アンダーにはいるのは後に住み着いた人々や様々な訳ありな奴等。



 で、ここはとあるスラムのとあるバー。

 お世辞にも治安のいい地区ではない、このバーがオレの仕事場兼住処なワケだ。


「ふぁーあ。あー……」


 何とも気の抜けた欠伸をかましているのがオレだ。時間は午後三時。バーの開店準備中。


「イタチ、……夜遊びが過ぎたみたいだな」


 

 ボソッと後ろから声がする。

 カウンターにはグラスを拭いている大男。

 コイツ……いやいやこの方はカラス兄さん。このバーのバーテンでオレのお目付け役。

 ちなみに身長は一九八らしい、くそっ。オレを見下ろすな。オレがチビみたいだろ。


「……知ってるクセに」

「ん? 何か言ったか」

「いえいえ何でもないっすよ〜〜」

「で、何人だ?」

「二人っす」


 カラス兄さんは、オレの仕事を知ってる。ていうか仕事の大先輩。詳しくは語らないが、以前は組織でも名うての掃除人だったそうで、オレはまだ一度も組み手で勝てない。いつかぜってぇ倒す。

 

「兄さんならどうしたンすか?」

「勿論全員消す」

「ですよね〜」

「黙って仕事しろ。お嬢が見たら……解るな?」

「兄さん、シャレになンないです」


 兄さんの威圧に怯えたのかお嬢、いやオーナーに怯えたのか、思わず手にしていたホウキを落とすオレ。

 カラカラン。バーの扉の開く音。両手に抱えきれない位の荷物を持って入ってくるのは、まさにオレがこの世で一番恐れるオーナー。


 身長は一六八センチ体重は多分五一キロ。スリーサイズは……殺されるから聞けないし調べられない。


 開口一番に女暴君が叫んだ。


「イタチ! 荷物!!」

「ハイッ、喜んで〜」


 慌てて荷物を受け取るというか受け止めるオレ。

 何だこの重さ? 何とかカウンターまで運ぶと、袋から中身を出してみる。


「あ、オーナー……何コレ?」

「カッコいいでしょ」


 袋から姿を現す怪物。てか、デカイ熊の置物。『何よコレ』と心の中で唖然とするオレが続けて袋から取り出したのは、これまたデカイ額縁。ン? 何か入ってる、蛇の脱け殻……。意味が分からないです、ハイ。


「あ、アンタねぇ、何すかコレ、何で熊の置物と額縁に入ってる蛇の脱け殻なン?」

「え、だって縁起物なんでしょ。商売繁盛よ♪」

「いやいや、それならフツー招き猫でしょが」

「似たようなモンでしょ。大丈夫よ多分」

 

 出たよ。オレが恐れるオーナーの特技その一。天然ボケ。普段はボケポジションのオレがツッコミになるという異常事態が起きた。

 そして、デカイ奴らのあとは、申し訳程度のチーズ。そして潰れたパン。


「ねぇ……買い出しに行ったんスよね」

「うん」

「……食材は?」

「うん、それ」

「これで、どうやって営業時間の軽食全部賄うンすかッ!!」

「あ〜〜〜ゴメン」

「ゴメンじゃねぇよ! バカかアンタは」


 アカン、この人、アカンわ。やっぱオレが行けば良かったンだ。そんな絶望に包まれた店内には、神がいた。


「お嬢、気になさらず」

「カラス、まさか」

「昨日、食材余分に買っておきました」

 

 カラス兄さん、アンタ神やわぁ。身長は一九八、体重は推定一〇〇キロ。リアルに猛獣みたいな強面の寡黙な大男は、人一倍の気配りさんでした。

 その気配りさんがオレの方に顔を向けた。


「……おい、イタチ」

「はい、兄さン。何でしょか?」

「……返してこい。」

「え?」

「返品だ」

「えーと、熊さンと蛇……を?」

「俺は今から料理の仕込みに入るし、お嬢はお疲れだ、お前しかいない」


 何だとッ、このくそ重い二品を今から店に返すだと? ……クッ、その気配りさんはオーナー限定かよッ。


「……いいですねお嬢」

「カラスが言うなら仕方ないかぁ。じゃイタチぃ、早く行けよ」


 ハイ、ムチャぶり入りましたぁ。まず、これ重いっす。次に買った場所はいつもの衝動買いだから…………。

 多分フリマだよ。売り手探すのがムズい。で最後に、……売り手まだいるのだろうか、……あはは。そんなオレの心中を察したのか、とてもいい笑顔を浮かべながら、オーナーが次の一撃。


「返品出来なかったらアンタの給料から差っ引くわね♪」

「うぇぇッ。こンちくしょーっっっ」


 かくして、オレは走り出した。およそ三〇キロはある二品を素早くリュックに詰めて。

 オレは走った。まだ見ぬ来週の給料の為に。

 オレは走る、オーナーにお仕置きされる恐怖に怯えながら。くそお。

 みんな気付いたかな。オーナー恐怖の特技その二とはムチャぶり。そして、最終奥義はオレの給料を命を人質に。無論オーナー権限で。チキショー、覚えているザマスよ!!


 ああ、どうなったかって?

 勿論、二品は返せませンでした。

 で、マッハで土下座して給料差っ引きを逃れる代わり、二品ともオレの部屋に置かれる事になりましたとさ。

 うン、大人って怖いよね。


 ま、まぁ、これがオレの日常だ。日中のな。

日常って大事だよね。

殺伐とした話ばかりだと気分が重くなるので、

こういうシーンはやれる範囲でやりたいです。

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