境目の建物にて
「ま、待ってく……れッ」
「や、やめろ」
「助けてくれっ」
その建物ではたくさんの人間が死んだ。いつ死んだかというと、ついさっきの事。
建物があるのは第八区域。塔の街とよそとの境目にある区域だ。ここには【外】からの人や物資の行き来を管理制限、或いは遮断する為に【軍隊】が駐在している。
かつての自衛隊は自衛軍になり、国土自衛軍となり大戦で国を守り抜いたが政府がその機能を失うと、徐々に変容していき現在は組織を構成する【戦力】の一部となった。
組織には様々な人間が集まり形成されている。裏の世界の住人に軍人や警察などの治安維持者達に富裕層などが思惑を持って設立したのがその始まりだ。
現在では軍隊はよそとの境目の防衛。警察は治安維持(組織にとっての)と役割が分担されている。なので、この建物は組織が保有していて、管理は軍隊が行っているのだ。
建物に立っているのは一人の男。肌は浅黒く、均整のとれた体格。
その動きに無駄はなく、見るものが見れば只者ではない事は一目瞭然。
「しばらく来ない内に随分と貧弱になったもんだな」
男が倒れている兵士達を一瞥してため息混じりにつぶやく。
彼は元々【軍隊】出身で、第八区域の監視と防衛に当たっていた。今回この建物をあっさりと制圧出来たのは、元々の知識が役立ったのも理由の一つだ。
「それにしても……これが境目の前線か? まるで新兵の訓練施設だな。実に嘆かわしい」
男がハァ、とため息をついたその時、建物の扉がガラガラと開く音がした。
「何だ!」
「マジか?」
「お、おいしっかり!」
ここの部隊の隊員だろうか三人の兵士が惨状に気付いてパニック寸前になっている。敵がいないか確認もしない。彼らも新兵だろうか。
男はため息混じりに三人に近付く。不審者に気付いた彼らも慌てて銃口を向ける。
「一つ忠告しておこう。銃口を向けるのは、殺される覚悟はあるんだな?」
「何だお前」
「両手を挙げろ」
「お前がやったのか?」
やれやれ、普通の反応だな。つまらない。
男がハァとため息をついて顔は下を向く。兵士達は観念したと思い、気が緩んだ……。
途端であった。
驚く程の早業で両側の二人が頭を撃ち抜かれる。そして真ん中にいた一人は男に前蹴りを腹部に喰らい後ろに飛ばされる。
「がっ」
呻きつつ兵士は男を見た。いつの間にか男の両手には、銃が二丁。
「さて、一人位は生かしておかないとな」
ポツリと独り言を言うと、男は二丁のベレッタで悶える兵士の両手を撃ち抜く。
「ひぎゃぁぁっ」
堪らず叫ぶ口にベレッタを突き付けながら、男は淡々と話す。
「伝言を頼むよ。街に【ドラゴン】が現れたとね」
それだけ伝えると銃底で殴りつけ気絶させた。
◆◆◆
建物には四人の男がいる。全員、肌は浅黒く焼けている。
一人は神経質そうな痩身。
一人は短気そうな小男。
一人はどこを見てるのか分からない虚ろな目をした巨漢。そして先程の男が口を開く。
「我々の仕事の肩慣らしは予想外に手応えが無かった。残念だ」
「まぁ、挨拶はしたんだしいいんじゃない」
神経質そうな痩身が話す。
「どうだっていいよ。だるいな」
虚ろな目をした巨漢がやる気のなさを声に出す。
「ケッ、さっさと次に行こうぜ。殺したりねぇよ全くよ」
短気そうな小男が不満そうにに均整のとれた男を睨む。
「いつも通りで安心だ。次は例の場所、時間は明日の午前六時に」
その言葉をきっかけに男達は暗闇に姿を消した。
【ドラゴン】が来た。
この情報は間もなく塔の組織に伝わる。街に血の雨ならぬ血の嵐が吹き荒れようとしていた。




