デモリッション
ランカスターはご機嫌だった。今、自分は満ち足りてるからだ。
「キャアアア−ッ」
今、自分の目の前には連れてきた女が一人。悲鳴はいい。何回聞いても気分がいい。
女は気を失ったのか、動かなくなった。その顔はすっかり青ざめている。
何故なら、彼女の彼氏をたった今、自分が目の前で殺したからだ。ランカスターにとって男はオマケ。女こそが大事なのだから。
「男は殺して、女はおれのオモチャ♯たくさん殺して楽しく生きよう♪」
思わず鼻唄まで出る。
「オ〜レは強い。強いから何でも〜出〜来ぃる〜。こんな事も〜〜〜〜♪」
というなり吊るされていた男の死体の両肩口を思いきり握る。
「オイ、お、起こせ」
ランカスターが命じるとそばにいた手下の一人が気を失った女に水をかけて起こす。バシャッという音を立て、同じく吊るされていた彼女が目を覚ます……。
彼女にとって悪夢のような光景。目を反らそうとする彼女を手下が無理矢理見せる。
「……ふんッッッ」
メリメリッと筋肉の潰れていく音。ランカスターの両手が徐々に肉の塊となった彼の肩にめり込んでいく。
そして、グジャッという音。両手で肩の骨を砕いた。さらに一気に引っ張り……
ブチブチブチィッ!
聞くだけで不快になる音を立てて腕をちぎった。
そのちぎった両腕から流れ落ちる血で彼女を赤く染めた。彼女はあまりの光景に言葉もなく、ただ失禁している。
「ハァッ、気持ちいいッッ。オイ女。オイッッ! 何だよ、声も出なくなったのか……しかも臭ぇ」
「ランカスターさん、どうします? この女」
「お前らで好きにしろ。ただし殺すな。女は【商品】なんだからな。オレはちょっと寝る」
全身に血を浴びて満足したのか、ランカスターは上機嫌で部屋に戻っていく。
残った手下たちは思う。いつもの事だが、うちのボスは人一倍心を壊すのが上手い。それに心が壊れた女は何をしても抵抗しない。
自分は男をバラバラに解体して臓器を売り物に、女は心を解体。売り物にするのだ。【デモリッション】の異名は伊達じゃないと心底思った。
「さて、オレは売り物を少し味見させてもらうかな。……まずは体を拭くか」
手下が気味の悪い下卑た笑みを浮かべる。
「この仕事、金払いはいいし、オマケがあるかららな。やめられねぇよな全くよぉ」
手下は慣れた動きで女を下ろすと、髪の毛を引っ張り連れていく。
気力を無くした女は人形のような無表情、無抵抗だった。
◆◆◆
「さてと。ここだな」
オレは、デモリッションの溜まり場である、第七区域の倉庫置き場に来た。
【デモリッション】。解体者の異名を持つ男。二つの意味があり、人の体を解体する男、もう一つは人の心を解体する男というモノだ。話し半分にしか考えていなかったが、ユージ達の集落の有り様を聞いて、全て本当だと知った。
解体した後は臓器を取り出したり、または人身売買組織に売り付けたりするそうだ。
心を解体された人間は何をしても文句を言わないから、危険な実験の被験者にされたり、または、金持ちの快楽の為の人形……平たく言えば性奴隷にされるらしい。ったくヘドが出ンぜ。
腕時計を見ると、時間は夜の八時。双眼鏡で倉庫を流すように見ると、一つの倉庫に光がついている。ビンゴだ。
「はいはい、お人形さん。体をキレイにしましょうね〜」
どうやら野郎の手下だ。一人の女性が服を脱がされている。
手下はイヤらしい表情で女性にぺたぺた触りながら、水で濡らしたタオルでその肢体を拭いている。不愉快なのでさっさと始末しようと思いオレは倉庫の壁を叩く。
ドンドンという音に手下は驚き、倉庫から出てくる。
奴が女性から見えなくなるのを確認するとオレは倉庫の上から手下に飛びかかり、ナイフで迷わず喉をかっさばく。奴は声をあげることも出来ずにそのまま倒れた。
「おいアンタ、大丈夫か?」
裸の女性にとりあえず着ていたジャケットを上から着せる。
「おい…………」
無反応だ。この人は心を解体されたという事か。無表情で視線は何処を見るでもなく虚ろだ。オレは怒りが込み上げるのを感じた。
「オイ、オレ達にも楽しませろよ」
そこに別の手下が二人、倉庫の奥から出てきた
二人が状況を理解したのを確認してオレは、ゆっくりと二人に近付く。
ナイフは右手で腰に隠すように構えながら。
「て、テメェ」
「やっちまえ」
二人は、オレに突進するように向かって来る。武器は、無い。
左右から襲うつもりらしい。だが、所詮素人だ。
タイミングが合ってない。オレは右の肘で右側の手下の顎を一撃。さらにそのまま肘を振り抜くように動かすと左の掌で右肘を押して突き出す。その勢いでの左側の手下の心臓にナイフを突き立てた。
肘で一撃した手下は気絶したらしいが構わずに蹴りを喰らわせる。
「がっ……て、テメェ。こ、殺す気か」
「そうかテメェも死にたいか? あいつらみたいに?」
オレはそう言いつつ、丁寧にもつい今しがた死んだ仲間を指し示してやる。
「い、嫌だ。死にたくない」
「なら話せ。デモリッションは何処だ?」
「あの人は今頃後始末だよ。第六区域に行ってる。生き残りがいたみたいだからな」
手下が視線を奥へと向ける。オレは奴の右足を踏みつけてへし折る。勿論、逃がさない為だ。
絶叫が倉庫に響き渡るが、誰も周囲にはいない。好きなだけ叫べばいいと放置して奥へと入る。
そこにはユージが倒れていた。もう見るまでもなくコワレテイタ。オレはユージの脈を確認した…………。
万が一の事態は起きない。壊れたそれはもう……二度と。
足をへし折ったザコが喚く。
「バカなガキだよな。わざわざ殺されに来たんだぜ、皆の仇だとかほざいてよ」
ユージの瞳は苦痛に見開かれていた。オレは右手でまぶたを閉じる。顔は腫れ上がり、手足はグチャグチャに潰されていた。そして……もう動かない。
「ソイツの仲間もバカな連中さ。折角黙っていたのに、メールを送ってきやがった。もう死んでるとも知らずによ」
後ろからピーピーと耳障りな声が響く。オレはユージをおぶるとゆっくりと立ち上がる。
「今から行っても手遅れだ。も……うッ゛」
ピーピーとうるさい虫のもう一本の足をへし折ると、座り込んでいる女性を立ち上がらせて、倉庫から外に出す。
オレは、ユージを降ろすと倉庫に入り、置いてあったガソリンを中でぶちまけて火を付ける。たちまち倉庫内が炎に包まれた。
どっかのクズがピーピー叫ぶのが聞こえる。
「ひ、ひいっ、た、たすけてくれぇ!!」
炎があっという間に倉庫を包み込む。何を思ったのか女性が炎に飛び込む。
「○×%¥と一緒……だよ」
オレは無言でそれを見送るだけだった。炎に飛び込む彼女の表情は何処か満ち足りた様だった。
オレはバイクを走らせる。ユージの依頼を完遂する為、……クズを【掃除】する為に。




