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イタチは笑う  作者: 足利義光
第二話
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コータとユージ

「おい、兄さん。ちょっと教えて欲しいん……ちょっ、待って」


 はぁ、とため息をつくのは明らかに不良なお兄さん。ちなみに、彼は先日イタチにボコられた不良少年の一人でもある。


 さっきから、質問しようとすれ違う人に話し掛けるのだが、見た目と話し方で全員から、無視されているのだ。


「しかし、……この辺りは意外とキレイな町並みだなぁ」



 一言で区域ことスラムとは言ってもこの街では塔の下は全て区域(スラム)という区別と認識なので、その町並みや治安などは実際の所、区域毎にかなりの格差がある。


 大まかに説明するなら塔の人々が暮らす区域周辺から第一区域、第二区域と外側になるにつれ番号が増えていき、そして治安が悪いとされる。そのいう意味では、第一区域が一番治安がいいとはされているが、実際にはそれだけ塔の組織の影響力が浸透しているからだともいえる。


 彼が今いるのは第六区域と呼ばれるスラム。

彼や仲間がいる第四区域から少し遠くで、先日イタチにやられた区域でもある。

 ここに来たのは、イタチに用事があるから。しかし、すれ違う人に無視されているので困り果てていたのだ。


「はぁ、どうしよ」


 彼がため息をついていると前方から声がする。何気無く顔を上げると、視界に入ったのは、


「やっぱり、この前のガキか」


 目の前には先日、イタチと一緒にいた男。パッと見たとこは大体自分より二歳位歳上だろうか。お世辞にも上品ではなく、寧ろ目付きなどはは自分よりも悪い。


「な、何だよアンタ」


 と思わず身構える少年を見てコータは苦笑した。オレがやった訳ではないのだがと思いつつも、話しかける事にした。


「お前、あの人を探してるんだって?」

「な、何で知ってんだよアンタ!」

「ま、落ち着けよ。別に悪さしないつもりなら、何もしねぇからさ。とりあえずついてこいよ」

 

 とだけいうとコータはスタスタと歩いていく。

慌てて少年もついていく。


 しばらく歩くとコータが建物に入る。少年も慌てて入ると、そこは、店だった。

 店内は肉屋でかなり繁盛してるのか、買い物客がたくさんいた。コータがクイッと首を動かす。少年がその方向に視線を向けるとそこには先日彼等が暴行をした男性。


「お、俺……」

「まずはケジメをつけろ。それからだ」


 コータの言葉にしばらく戸惑っていたものの、

やがて覚悟を決めたのか男性の前に立つと、開口一番。


「先日はすいませんしたッ」


 と全力で謝る。本当に反省しているのが伝わる。


「え、あ! あの時の」

「俺たち、おじさんに酷いことをして本当にすみませんでした」

「あぁ、もういいよ。気にすんなよ。それより、腹すいてるか?」


 というと店の奥から何か包みを持ってくる。


「ほら、そこの兄さんも食べな。美味いぞ」


包みを開くと揚げたてのコロッケが二つ湯気を出している。


「有難うございます」

「俺も貰いますね。ゴチです」


 二人はかぶりつくようにコロッケを食べる。口に入れると揚げたばかりのコロッケの熱さに少しビックリしたものの、そのホクホクした食感と味に夢中になった。


「美味いっす」

「おじさん、すいませんこんなの貰っちゃって」

「気にすんなって。オレも昔は悪さしてたからなぁ。ハハハ!」



 しばらくして二人は改めて、別の場所にいた。


「そろそろ本題に入るか。お前名前は?」

「ゆ、ユージです」

「ユージか。あの人に何の用事だ?」

「それは…………」

「あの人に御礼参りじゃないよな?」

「そんなの無理ですよ。思い知りました」

「じゃ、何だよ?」

「………………」


 気まずい沈黙がしばらく場を支配したが、やがてユージが意を決して話し始めた。


「あ、あの人に助けて欲しいんです」

「助ける? お前らをか? ……誰からだ」

「オレはあまり口が達者じゃないから、ついてきて下さい」

「……いいぜ」


 しばらく考えて、コータはユージに付いていく事にした。とりあえずコイツは第六区域を半日イタチさんを捜していた。

 態度も前とは違う。自分と同じで、世の中を思い知ったからだろう。なら付いていってもいい。そう考えたのだ。


◆◆◆


 それから一時間程歩く。ユージ達の暮らすスラム第四区域に二人は着いた。 第四区域は、一見した感じは静かで、のどか。この辺りは農業施設が多く、それほど住宅がある訳でもない。


「第四区域か、思った以上にのどかだな」

「…………」


 さっきから、ユージが無言になっている。やはり何かあるのだろうとコータは察する。


 さらに歩く事、三〇分程。一つの集落が見えてきた。

目的地はここらしく、ユージは集落へ向かっていく。


 集落は静まりかえっていた。ここに入って気付いたが、あちこちの家が壊されていた。

 ある家は窓が全て割られ、ある家はドアが無く、またある家は火事にあったのか焼け落ちている。

 明らかに何かが起きたのだ。

 思わずコータが呟いた。


「……ひでぇな」

「…………ここです」


 ユージが建物のドアをノックする。しばらくしてドアの鍵が外され、開く。出迎えたのは、ユージの仲間で先日見た少年だ。


「ユージ、あの人に会えたか?」

「いや、まだだ。でもこの人に会った」

「……この前の!! ユージ、気を付けろ。コイツは第六区域を縄張りにしてる奴らの一人だ」

「あ〜、調べたのか。でもそれは一ヶ月程前までだぜ。縄張りなのは正解だけど、もう悪さはしてない。お前らと同じくでな。だから、心配すんな」


 その言葉を信用した訳ではないだろうが、少年は二人を奥に案内する。

 ここは元々は集落センターらしく、意外と広い。

 一番奥に光が見える。とは言え、その光はロウソクの光らしく心許ない上にかなり暗い。そして、奥に入るとコータは表情を険しくすると呟いた。


「酷い有り様でしょ」

「何があったんだ」

「…………」

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