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2章霧の中の生命(いのち)   2・装備

2  装備


 F.C.八十八年 九月二十六日 午後十時  新都西区三十五・夜玉ブラックホール

 バー『レッドアイ』店内


 神楽神酒かぐら みき護衛の任務開始より三時間経過、残り二十七時間


 神楽神酒がレッドアイで酔いつぶれてから五時間経過


 

 「九郎くろう、いい加減、そのお嬢ちゃんを起こしな。いつまで寝かせておく気だよ」


 銃の手入れをしながら乱暴にそう言い放ったのは、アトミナーの前衛アタック茨木いばらぎ。チーム唯一の女性戦士であり、<赤鬼>の異名を持つ。

 戦闘時に使用する得物は、六千三百gのレールガン。

 鋼色のシャフトで長さは百七十五㎝。特別改良された電磁加速砲で、一万二千m/sの射出速度を持ち、三百五十MJメガジュールの威力を発揮する代物だ。

 一発で三十階建てのビルを跡形もなく粉砕する。射出後、人体に有害なプラズマが大量に放出されるため、一般の兵士がこれを使用した場合、使用者の命を犠牲にしなければならないという諸刃の武器である。


 「しゃあないやんけ、酔いつぶれてるんやさかい」


 返答したのは鎌倉九郎かまくら くろう。アトミナーの斥候スパイダーであり、優秀な諜報員である。

 戦闘時の得物は、旧式のコルトアナコンダ。四十四口径のリボルバー式で扱いが非常に面倒だが、四十四レミトンマグナム弾を使用し、殺傷能力は極めて高い。ちなみに九郎の射撃の腕前はアトミナー随一である。


 九郎はカウンターで突っ伏して寝ている神楽神酒の背中を優しく擦っていた。


 対称的に何もせず、何も語らず神楽神酒の傍に立つ青年がいた。

 恐ろしげな般若の面をつけている。その奥に青白い瞳が揺らめいていた。

 アトミナー最強の戦士、前衛アタック遊撃部隊の真人まひとである。 近距離で行う白兵戦を得意としていて、銃器は一切使用しない。身体からだに仕込んだ刃物だけで戦う。

 また、反重力装置ゼログラビティを取り付けており、自由に空を飛び回ることも可能。しかし、進軍はさておき、戦闘時に彼の速度についていけるものはおらず、迂闊に近づくと敵味方関係なく斬り殺されるため、ほぼ単独での戦闘バトルシーンとなる。

 真人と会話コミュニケーションをとれるものは隊長リーダー北条勇ほうじょう いさむだけである。


 「だったら九郎が抱いて行軍ハイキングすりゃいいだろが」


 茨木の隣で銃器の確認を執拗に繰り返しているのが、アトミナー前衛アタック酒呑しゅてん。常に茨木とコンビを組んでおり、戦場では<青鬼>の異名を持つ。

 戦闘時の得物は、ブローニング2054。

 一万七千gという超重量の重機関銃で、通常は三脚架を装着して地面に設置する代物だが、酒呑はそれを軽々と持ち上げて使用する。発射速度は九百発/分。銃口初速は千二百m/s。酒呑が装備すれば、一個師団を十分で壊滅させることが可能とも言われている。


 「いいねー。まあ女日照りの九郎のことだから抱きかかえている間にいろいろしちまうだろうな」


 茨木も大きな口を開いて豪快に笑いながら酒呑の話に付き合っている。


 「目が覚めたときには、妊娠、してたなんてこともあるかもな」

「あはははは。ありえる、ありえる」


 「女日照りって……女やめた奴に云われたらおしまいや……」

九郎がひとりごとのように呟くと、茨木が虎の様な目を見開いて、

「なんだと九郎!今、なって言った」

「別に……そやなーって、同意したんや」

「フン。腰抜けが、お前は大人しく私たちの影に隠れて、そのお嬢ちゃんの子守りやってればいいんだよ」


 「まったく、お前たちふたりは喧嘩せずにはいられんのか。犬猿の仲とはよく云ったもんじゃな」


 呆れかえってそうぼやいたのは、アトミナー後衛ディフェンス熊谷法力くまがい ほうりきである。北条勇とは朋友の仲であり、良き相談相手でもあった。軍師役として作戦の指揮をとることもある。


 熊谷が座るカウンター席の向かいには、黙々とグラスを磨く藤原中蓮ふじわら ちゅうれんの姿があった。このレッドアイの店長マスターであり、アトミナーの殿テールを任されている。

 戦闘時の得物は、消音狙撃銃ヴィントレスの改良型。

 ウランを使用した徹甲弾アーマーピアシングを撃ち込み、戦車を操縦している兵士を一撃で葬ることも可能。近距離から中距離用の狙撃銃であるが、改良されて長距離の狙撃にも適用できるようになっている。有効射程は二千二百m。


 「しかし、三時間経過するが何も起きんな。さすがにこのままこの場所で三十時間過ごせるほど甘くないとは思うが」


 熊谷がそう話しかけると、隊長である北条勇が静かに頷く。

 傍らに立っている男はやや緊張気味な表情でそんなふたりのやり取りを見守っていた。今回の任務からアトミナーに正式採用された後衛ディフェンス梶原平三かじわら へいざだ。主に隊長リーダーの警護・護衛が任務となるのだが、前衛との連絡役も兼ねているようである。


 「おい、まさかと思うけど、その日本刀で戦うつもりじゃないだろうな」

茨木が梶原に声をかけた。以前に別の任務で二人は出会っている。

「ああ。戦闘では慣れた武器を使いたいからな」

「戦国時代の侍じゃあるまいし、ゾンビどもならいざ知らず、人間相手にどう戦うんだ」

「だが銃器の扱いは不慣れなんだ」


 「慣れればいい話だろ。ほら、これを使えよ」

そう言って茨木が梶原に銃を投げて寄こした。典型的なアサルトライフルだ。扱いは非常に易しく、初心者向けである。


 「へー。茨木がねー……男に贈物プレゼントとは……あんさん、えらい奴に惚れられたようやなー。くわばらくわばら」

その光景を見つけて九郎が囃し立てた。

 茨木が真っ赤になって、

「ふざけたこと言ってるととぶっ殺すぞ九郎。仲間に武器渡して何が悪い」

「あんさん、あいつは愛情と殺意の違いがよくわかってないさかい用心しいや」

茨木の怒りなど完全に無視して、九郎は薄笑いを浮かべながら梶原との会話を続ける。


 「九郎。てめえ、いい加減にしろや!」

レールガンの照準を九郎に向けた。


 と、店内に警報が鳴り響いた。


 全員に緊張が走る。



 「藤原、この警報はなんや」

九郎が小さな声で藤原に聞いた。


 「侵入者を知らせる警報だ」


 「侵入者?このビルにか」


 熊谷が問う。


 藤原は首を振って、

「いや、この店内だ」


 それを聞いて真人・神楽神酒以外の全員が銃を構えた。



 見えない侵入者が、神楽神酒の命を奪おうと接近していた。


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