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旅は道連れ、世は……


「こうも魔物が多いとは思わなかったな……。

 さすがに連戦は疲労が溜まる一方だ……」


 キルスが剣を仕舞いながら愚痴を吐く。


「すみませんねえ、役立たずで」


 何度か試してみたのだが、ミルカの『癒しの歌』は傷には効くが疲労を癒す感じではなかったので、高価な魔法アイテムを持たないキルスは疲れを我が友としつつ乗り切るしかなかったのである。


「そういうことを言ってるんじゃない。

 ……にしてもだ。

 結界は無いし道幅は狭いにしろ、一応は人通りのある街道だ。

 運が良ければ、一日中魔物と遭遇せずに終わることも多いんだがな」


「やっぱり諸悪の根源的な?」


「まあ、ギルドに話しても相手にされなかったがな。

 こんな状況がたまたまではなしに継続的に続くのであれば、他の連中からも報告が行くだろう。いずれお偉いさんも重い腰を上げるだろうさ」


 倒した魔物が残した加工用の素材と魔珠を回収すると二人はまた旅を再開する。

 午後の早い時間に出発してそろそろ日暮れだというこの短時間で計五回もの魔物との遭遇戦を行っていた。

 相手は、ウサギに毛の生えたようなもの。実際には毛ではなく鱗。

 かなり凶暴な鹿の類や、つのの生え方が尋常ではない鹿の類や、どう見ても草食には思えない筋肉隆々でアグレッシブな鹿の類である。

 ウサギだってサイズ的には人間大で、動きは素早く厄介であったが、さすがに武器屋の親父に一目か半目ほどは置かれているだけあって、キルスはわりとあっさりと対処していた。


 多少なりともミルカにも魔物の魔の手(実際には角)が迫ったのは3頭の鹿がまとめて現れた時だけである。それにしたって、キルスがちゃんと彼女を護り、怪我を負わせずに済んだ。ミルカがその脚力を活かして走り回って逃げ回ったというのも必要な努力ではあったが。


「さて、そろそろ日も沈む。

 目的の村までは、半分ってとこだ。

 ちょいと足を伸ばせば明日中に目当ての祠を見に行くこともできるが、一旦村で落ち着いたほうがいいだろう。

 それにしてもよくまあ俺のペースで歩けたな」


「そりゃあ、普段から鍛えてましたから」


 ミルカが鍛えているというのは、ダンスのレッスンのことである。陸上部で長距離選手とかいうほどの特徴的な身体能力は兼ね備えてはいない。

 確かに他の同年代――中学生の少女よりは体力はあるほうだが、こんな長距離を長時間歩きづめ。さらには魔物との戦いとなれば全速力で逃げ惑ったりしてそれほど疲れが感じられないというのは自分としても不可思議ではあったりもする。


「記憶もない癖によく言うよ。

 どうなんだろうな……。

 ……他言は無用なんだがな。

 俺は基本的に他人の能力が見える。前にちらっと話したよな?

 勇者となにがしか関係ありそうなミルカだから言うんだ。

 それは忘れないでくれよ」


「うん」


「で、だ。

 そういう特別な力を授かった俺なわけでな。

 相手の力量がわかるってのは非常に便利な能力なんだ」


「それって魔物とかにも通用します?」


「いや、魔物には通じない。

 で、実を言うとミルカのも見えない」


「ちょっ、あたしは魔物とちゃうから!」


「わかってるさ。実際のところ名前だけは見えるから魔物や魔族、そういった眷属ではないというのはなんとなくわかるんだがな。

 歌のことにしろ、ステータスの秘匿にしろ、やはり普通の人間ではないというのは薄々感じていたことだ」


「だから旅に誘った?」


「一石二鳥だろ? どうせお前は行くあてもないんだし」


「それを言うなって」


「だんだんなんだかフランクというか、俺への態度がぞんざいになってないか?」


「ぞんざいって?」


「まあいいさ……。

 ともかくだ。

 ミルカが勇者となんらかの関係があるだろうという憶測を元に考えるとだな。

 ステータスが見えない件も、常人離れした体力があるっていう点も、説明がつかないではない」


「それって神託職クラスのことやんな?」


「そう。神から許しを得てクラスに就くことができるとその人間の能力は飛躍的に向上する。

 まあ、俺みたいなひよっこの初級クラスであれば恩恵は少ないが、それでも一般人に比べれば格段に動きやら体力やらが向上する」


「うーん。やっぱあたしってなんかのクラスに就いているってことなんかな?」


 ミルカは一応とぼけてみる。言葉では聞いたものの自分で自分のステータスが見れないのだから、一度聞いたという事実を忘却の彼方に追いやる、あるいはなかったことにする限り、自分で自分のことがわかっていなくてもおかしくはない。


「お前の使う……『歌』。あれはほぼ間違いなく神降術スキルの一種だろう。

 スキルが仕えるイコールとしてクラスに就いているというのはまあ常識だからな」


「どうやったら自分のクラスってわかるん?」


「まあ、神と交信できる神官や巫女に鑑定を依頼するのが手っ取り早いな。

 残念ながらこの国には居ないが」


「そうなんや。そういうとこでクラスアップとかもできる?」


「そんなことまで知ってるのか?」


「なんとなくね」


「まあ、出来なくはないがまず金がいる。あとは実績だな。

 クラスアップの儀式の準備だけで大がかりな上に、失敗することも多々あるからなあ。

 運のいい奴は国から認められてクラスアップを催促されるくらいだから金もいらないが。

 そもそもクラスに就ける人間も限られているからなあ」


 そういう意味ではミルカは恵まれた境遇なのかもしれなかった。

 トリップしたすぐ後に『研修生』という実態は不明なものの、一応はクラスを得てスキルも得ている。

 ただ、単独での戦闘には活かせない補助的なスキルというのがネックだが。

 それはそれでその欠点を補うためにナビゲーター役のキルスと旅をすることができているのだから。


「めんどくさそう……」


「まあ、勇者と出会うまでの我慢だと俺は思って割り切ってるがな。

 ひとたび世界が混乱に陥って、救世の勇者が誕生すれば引く手あまた。向こうからすり寄ってくるだろうからな」


「お金持ちになれる?」


「まあ、金のために世界を救うってわけじゃないがそれ相応の報酬は出るだろうよ」


「道は長そうやなあ」


「まあそれまでに、なにかのきっかけで記憶が戻るもよし。

 どこか落ち着くところに落ち着くもよし。

 ミルカが勇者と関係がないことがわかれば俺も無理は強要しない」


「それなんやなあ。記憶ねえ……」


 記憶喪失であるというのは真っ赤な偽りであるために、ミルカは多少気まずい思いをする。

 かといって今の段階で真実を打ち明けれるほどキルスに対する信頼もなかったりもする。

 なんだかんだで、異世界を楽しむという目標無き目的はそこそこ満たされ、そのうち元の世界に帰りたくなるのだろうが結局その方法を探るためにはキルスと旅を続けるほうがよいという予感もあった。

 勇者のパーティとして一緒に世界を救ってハッピーエンドからの帰国という線もありえそうなのだから。


「まあ飯にしよう」


「今日の献立は?」


「固焼きパンと干し肉だ」


「昼もそれやったやんな?

 明日の朝ごはんは?」


「固焼きパンと干し肉」


「昼は?」


「固焼きパンと干し肉」


「もういい……。わかった。

 さっさと次の村に行こう」


 簡素な食事を終え、早めの就寝を迎えて、さらにミルカはげんなりとする。


 テントすら張らず、キルスの用意した薄い掛け布だけで木陰で寝るという野宿は彼女の精神を大いにすり減らした。

 ついでにいえば風呂にも入れず、水浴びすることすらできない。


(まあ、異世界って基本的にはこういうもんなんだろうけど……)


 ちなみに言えばこういった野性的な野営の習慣は彼女が元の世界に戻るまで一向に改善することはなかった。

 チートなスキルでコテージを作ったり大浴場もそれに併設させたりという優雅な暮らしとは無縁の生活であるのであった。

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