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ダンジョン攻略の巻


「るんるんるん♪」


 チェリはるんるん気分だ。自分でるんるん言っているいるのだから反論の余地はないだろう。一番わかりやすいるんるん気分である。


 ある意味でも、実質、現実的な意味でも着なれた、そして愛着のあるまな衣装。

 白いひらひらブラウスにはこれまたひらひらの襟と袖にピンクのアクセントがある。

 下はふりふりのピンクスカート。

 まさにというか、元々のデザインの発注がそうだったために、紛うことないアイドル衣装である。

 本人用にオーダーされたために、もちろんサイズもぴったりである。オーダーされたのは元の世界での衣装だが、これも着心地はまったく一緒だ。


 ちなみに、何故ミルカではなくチェリが着ることになったかというと、サイズもチェリ用っぽかったが、それ以前に色が重要なのである。

 ミルカはアイドル時代に紫を担当カラーにしていたが、チェリはこの衣装と同じピンク担当であったのだ。


「踊りやすいっ! 躍りやすいようっ!」


 浮かれてステップを踏みまくるチェリをミルカがじと目で睨む。


「それくらいにしときぃや。まだダンジョン攻略は続くんやでぇ」


 苦言に、チェリのステップは小さくなるがそれでも踊るのはやめない。


 踊りたくなるのも無理はないのかもしれない。本人達は知らないが、この装備には、歌やらダンスやらの効果を底上げするという特性が備わっているのだった。

 さらに言えば、その他にも身体能力や感知能力、その他もろもろの能力を上昇させる、いわゆる全ステータスアップの加護やさらなる機能も備えているのだが、それについては今の時点で彼女らは知る由もない。

 キルスとガルウなどにとってはそれ以前の問題だ。


「なんちゅーか、目立って仕方ないっすね?」


 ガルウが呆れたようにキルスに同意を求める。


「まあ、気に言っているようだからいいんじゃないか?」


 ガルウとしては、折角の宝箱から入手した――それもある程度の苦労を伴ってやっとこ手に入れたアイテムであるので、売りさばいて恩恵にあずかりたいというのが本音だったが、元々日当で雇われた身である。

 雇い主であるキルスが、これはチェリに管理を任せると認めるのであれば、それに異を唱える権利は生じない、ありえない、ドラゲナイ。


「じゃあ、そろそろ行くぞ」


「奥まで探索する?」


 期待を込めてミルカが尋ねる。


「そうだな。罠は仕掛けられていたが、所詮出てきたのは低級のスチールバットだ。数は多かったし苦戦したが、それはうちのパーティとの相性が悪かっただけだからな。

 そう難度の高いダンジョンってことはないだろう。

 さらに深く続くようなら一旦戻って再度突入ということも考えるが」


「行ってみないとわからへん。とりあえず行くだけ行ってみようってことやな!」


 四人――うちひとりは派手派手衣装に身を包み、るんるん状態継続中である――は来た道を戻り、また三叉路までやってきた。


 ずんずんと進んで行っても魔物の気配は感じない。


 が、途端に道が途切れた。


「行き止まり?」


「さっきの宝箱が本命やったんかなあ」


 それは良くある話である。ゲームならともかく、現実のダンジョンはそんなものだ。

 作られた目的も不明なら、それが存在する理由も不明。

 最奥には必ずイベントを進めるためのボス部屋なり、重要アイテムのお宝が眠っているとは限らないのだ。


 しかし、ミルカはこの先になにかあると確信している。信じようとしている。

 それはゲームライクな世界観をこれまでに体験してきたからゆえの思いであり、もっとざっくりいうと、単に希望的観測だったりする。


「どうします? 旦那? 諦めて引き換えしますか?」


「そうだなあ」


 キルスが同意しかけたところでミルカがちょっと待ったコールで引き留める。


「もうちょっと調べてみぃひん? だって、なんかただの行き止まりにしては……」


 ミルカが言うのは奥の壁である。

 ただの壁でもなく、紋章のような意匠が刻まれているのだ。

 何かある……と考えて、勘ぐってしまうのも無理はない。


「なにか、特別なアイテムなり呪文なり必要だったりして」


 チェリもなんとなく、引き返すのは惜しいという思いを吐露する。自分は素敵な衣装を手に入れられて満足なのだが、ミルカに少し付き合ってという配慮も含めての発言。


「排水口なのか……」


 行き止まりとなっている壁とは別の右手の壁の脇に四角い小穴が空いているのを目にしてキルスが呟く。

 確かに位置的には水抜きの穴というイメージだ。

 しかし他の個所には存在せずに、ここだけにあるというのは明らかにおかしい。


「なんかのスイッチがあるとか?」


「結構深くまで続いているようですぜ」


 ガルウが、屈んで覗き込むが奥までは見渡せないようだった。


「上の広間の石碑がなくなっているのと関係があるのか。

 ここにも石碑が有ったという可能性もないではないからな。

 時間を置いてもう一度来るというのもひとつの選択肢だろう」


 キルスはどうやらこれ以上の探索は諦めたようである。


「うーん。しようがないかっ」


 チェリも半ばキルスに同意する。


「やれることは全部やってみよう!」


 ミルカは、あくまで探索を続ける決意だ。


「だとしても、何が出来るのっ?」


「チェリ、お座り」


「はあ?」


「ほら、そこの穴。犬のサイズになったら通れそうでしょ?」


「ええ? 嫌だなあ。服も脱げちゃうし、何があるかわかんないんでしょ?」


「やばそうだったら引き返して来たらいいから。

 というわけで男性陣は後ろ向いててください」


 いいつつ、自分もチェリから目を背ける。


「なんの話だ?」


 といぶかしむキルス達を、


「ほらほら、早くしてや」と捲し立てる。


 そこまでお膳立てを整えられるとチェリにも無下に拒否をすることはできない。

 仕方なく、変身を念じる。

 変身過程を自分で見たことはないが、人間から犬の間くらいで恥ずかしいシーンがあるかも知れず、そこを配慮してくれたミルカには多少感謝する。

 ちなみに犬化してしまえば、全裸に相当するのだが、そこはもう諦めている。


「わん!」


 終わったよ、という合図の一声に、


「オッケー、もういいで」


 とミルカが男性陣に通訳がわりの合図を送る。


 犬に変わるという事実を既に知っているキルスはともかく、ガルウは、目を見開いて驚いた。


「えっ? お嬢ちゃんは? 犬?」


 ガルウはチェリがワンコの姿になったことを一瞬で看破する。

 というのも、これまで経験上では体が小さくなると必然的に脱げてしまっていたはずの服が、ワンコサイズになって、多少のアレンジを加えながらもワンコの体にぴったりと纏われているからだった。


「あら、かわいい」


 ミルカがチェリを抱きしめる。


「形態によって、姿を変える服なのか……。

 旧世界の遺物……」


時遺物ロストワンってやつ?」


「はっきりしたことはわからんがな。

 今の世でそんなものを作れるという話は聞いたことがない」


「まあでも、可愛いし一石二鳥やな。

 それじゃあ、チェリ、行っといで!」


 と、抱きかかえていたチェリを穴の付近にそっと降ろす。


「気が進まないなあ……」


「あれ? チェリ? 喋れるの?」


「ああ、ほんとだっ。わんわん! あーあー、ダンジョンは平穏なりーっ。

 これも装備の力かなあっ?」


「まあ、意思疎通ができるのはいいことやな」


 ミルカは深く考えないようにする。キルス達にはもう付いていけない世界でもあった。

「じゃあ、行ってくるっ」


 とそろりそろりとチェリは穴の中に入っていく。


「どう?」


「なんか奥だけ光ってる」


「じゃあとりあえずそこまで行ってみて」


「犬使いが荒いなあっ。わんわん。

 あ、なんか書いてあるね。でもここで行き止まりーっ」


「結構な深さですな」


 チェリの声がくぐもりつつ、壁に反響するその聞こえ方からガルウがそう判断する。

 確かに、普通の声で話していたら聞こえないくらいの距離でありそうだ。


 チェリの目前には扉に刻まれていた紋章と似たような模様とその下に数行の文字が刻まれている。

 明らかに日本語ではないが、チェリにはその意味が理解できた。


「えっとっ、資格持ちしものよ、その力を示せ。

 両のまなこが閉じる時、いにしえの扉は拓かれる……かな?」


「資格? 眼?」


 ミルカが首を捻る。


「よいしょっと。ああ、狭かった」


 出てきたチェリは、そのまま犬から人間に再変身する。


「すげえな……」


 ガルウは驚きどおしであった。


「資格……眼か……」


「キルスさんなんかわかる? 勇者研究者なんやろ?」


「別に研究しているわけじゃあないがな。

 そこの壁の模様。見ようによっては顔にも見えるな」


「ああ、確かに。こういう時って指輪なり宝石なりを目に填めると開いたりするんだけどなあ」


 ミルカが言うのはアニメとかで良く見た光景である。


「でも、そんなアイテム持ってないじゃん?

 それに、そんなのがはまる穴も開いてないし」


「資格ってなんなんやろ……」


 これにはチェリもミルカも大した知恵は出ないようだった。

 突破口を開いたのはキルスだ。


「仮にミルカが資格を持つものだったとしよう。

 ついでに言えば、チェリでなければメッセージを読みとることはできなかったというのもあるのだがな。

 普通目を閉じる時ってどんなことが考えられる?」


 それでミルカにはぴんときた。


「うん? ああ、眠る時? そういうこと?」


「どういうことですかい?」


「そうか、微睡の歌?」


「やってみる価値はありそうだね」


 ミルカはロッドを構えて――といってもマイクのように持ち直すだけだが、歌唱姿勢を取る。


「あーあーあー」


 発生練習をしてから、おもむろに唄いはじめた。


「歌を聞いてもわたしたちが眠くならないのはどうしてだろ?」


 なんでもないようで結構回答が難しい疑問がチェリに浮かぶが、


「見ろ!」


 というキルスの声にかき消される。


 壁の文様が光り、継ぎ目も何も無かったはずの壁が左右に開いていく。


「さてと、待ち構えるのはお宝か、それともボスなんか……」


「魔物の気配は?」


「「それはない」」


 ミルカとチェリが声をそろえる。


「また閉じ込められることになるかもしれんが?」


「覚悟はできてるで」


 ミルカの決意にキルスは小さく頷く。


「じゃあ、行くか」


 やはりキルスを先頭に、ミルカとチェリがその後に、最後尾にはガルウという隊列で開いた扉をくぐる四人であった。




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