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秘密のお宝

「ふむふむ……」


「なにやってんの?」


 ふらふらと、あくまで本人の意思でそうしているのだが……覚束おぼつかない足取りのチェリにミルカが尋ねる。


「うんとー、ステップの練習? 復習?」


「ああ、さっきのタスクドボアだっけ? あれと戦った時のやんな?」


「そうそう。忘れないように覚えとかなくっちゃと思って。

 でもなんだろね。普通に踊るだけじゃあ効果とかなさそうっ」


「ああ、うちの歌と一緒やな。歌うだけじゃ意味がなくって、力を発動させるイメージ?

 なんかいるよね。コツとかは要らないみたいだけど。念じるみたいな?

 そういえばそれって何時から使えるようになったん?」


「ついさっき。あれと戦っているうちにひらめいたっ?」


「ふーん。なんかそういうゲームあったなあ。戦いの最中にいきなり技を閃くやつ」


「やっぱゲームっぽいのかなあ」


「おい、おしゃべりもほどほどにな」


「ああ、分かれ道やなあ。どっちいく?」


「まっすぐが本命っぽいねっ」


「こういうときは脇道にわざと逸れてそのダンジョンの構成とかの傾向を把握するのがセオリーちゃセオリーだけどなあ」


「なんでミルカがそんなこと知ってる?」


「まあ、うちのはゲームの話やけど」


「ゲームというのはよくわからんが……。

 そうだな、時間もあることだし、右か左か、どちらかへ行ってみるか」


 四人が出くわしたのは三叉路だった。

 真ん中の道は如何にも正解っぽい一直線のルート。


 右側と左側は、すぐに直角に折れ曲がっていて奥は見とおせない。


「とりあえず行ってみようや」


 と、さしてなんの考慮もせずにミルカは右に折れるようにキルスに指示する。

 というのもこれがゲームライクであるならば。しょっぱなからキツイダンジョン……つまりはマッピングが必要でやけに入り組んでいるような複雑な構造の迷宮には出くわさないだろうという、いわば舐めた甘い考えだ。


「行き止まりだったねえ」


 しばらく歩いて四人は突き当りに達する。


「壁にも仕掛けはなさそうですなあ」


 ガルウが名残惜しそうに突き当りの壁を確認している。


「まあ、右がダメなら左があるさ」


 とミルカはキルスを追い抜いて先頭に立って歩き始めた。


「おい、ミルカ。

 俺の後ろをついてこい」


「なんで? 魔物も居ないし戻るときぐらいいいやん?」


「万が一ということもありうる。

 それに、噂ではダンジョンでは魔物は突如湧いて出てくるという説もあるんだ」


「へー。変な仕組みなやあ……」


 しぶしぶといったふうにミルカはキルスの背後につける。


「まあ、こういう時はベテラン冒険者の言うことをきいときゃ間違いねえよ」


 とガルウがミルカに教示する。


「未だに頼りになるんだかならないんだかよくわかんない人だけどね」


 ミルカはそっとチェリに聞こえるだけの声で呟いた。


 三叉路まで戻り、そのまま真っ直ぐに進む。最初に来た道からいえば左側のルートへと。


 さきほどよりも長く曲がりくねった――それでも分岐の無い一本道がしばらく続く。


「意外に広いんやな」


 とそろそろ行きどまるなりなんなりの展開を期待していたミルカの前方でキルスが足を止めた。


「また行き止まりですか?」


 尋ねたのはチェリだ。ミルカとキルス――特にキルスの大きな背中に阻まれて前方が見えない。


「行き止まりっちゃ行き止まりだが……」


「小部屋っぽいね。っていうか……」


 ミルカの視線の先には宝箱。祠の上の広間より一回りほど小さい空間にぽつりと置かれている。


「まじ? 手つかずのお宝が残ってるなんて!

 しかもこんな浅い階層で?」


 とガルウが覗き込みながら驚愕する。


「ミミックとかだったら嫌だね」


「縁起でもない。さっそく開けましょうや」


 とガルウは宝箱に興味津々だが、自分で開ける気はないらしい。それはミルカもチェリも同様である。

 万一の事態が考えられるためである。それはさっきキルス自身が言った事なので、都合の良い時にはすんなり従う。


「まあ、そうあせるな。言われなくても中は確認する」


 ゆっくりと宝箱に歩み寄るキルスを距離を置いて追いかける三人。


 ふいに、ドーンという地響きにも似た音が鳴り、地面も微かに揺れる。


「何?」


「入り口が!?」


「うそーん!?」


 先ほどこの空間に入ってきたはずの入り口が大きな石の扉でふさがれている。


「しまった! 罠か!」


「っていうか、キルスさん! 敵が来る!」


「どこからだ!?」


「えっ? 上の方」「いっぱいいる!」


 ミルカとチェリがそれぞれ指す方向――天井には、銀色に光る蝙蝠が10羽ほどさかさにぶら下がっていた。


「ええっと、スチールバット?」


「良く知ってるな」


 キルスが感心するようチェリに言うがその表情は険しい。


「襲ってこおへんやん? 今のうちに逃げる?」


「そいつは無理だ。お嬢ちゃん。

 おそらく……いや、十中八九、あいつらが出口のカギになっているだろうさ。

 なあ、旦那?」


「普通はそうだな。ついでに言うと、宝箱もロックされていて今は開かないだろう」


 キルスは諦めたように認めた。


「ほんまやね……」


 道を塞ぐ大石を押したり引いたりと脱出を計ろうとしていたミルカもキルスの言を実際に確認する。


「倒せる?」


「奴らは物理攻撃には耐性があるからな。時間をかければ倒せないことはなかろうが……」


 そこでキルスは言い澱む。無傷では難しいという事実がどうにもか弱い少女たちには伝え難い。

 その後をガルウが引き継ぐ形で、


「なにせ動きが素早いってのも難点で……おおぅ!」


 呑気に話を続けている暇はそこまでしか与えられなかった。


 鉄蝙蝠の群れは、バサバサと羽を羽ばたかせて一気に飛び立った。より正確に言うと天井から離れて下降して、キルスとガルウのみならず、ミルカとチェリにも同時に襲い掛かる。


「こんな時のためのっ!」


 とチェリがステップを踏み始めるが、なにせ相手の数が多い。

 一定数はチェリを狙ってくるが、あぶれた蝙蝠は他の三人へと向かう。


「いやっ! ちょっ! こんといて!」


 手にしたロッドを無茶苦茶に振り回して応戦するミルカだが、器用に蝙蝠はその攻撃から逃れつつ、ミルカの肌に噛みついた。そして深追いせずにさっと飛び離れる。

 ヒットアンドアウェイのお手本のような攻撃を繰り返す。

 

「痛っ! いたたたた!」


 同じく、キルスとガルウも、蝙蝠に襲われているが、さすがに場馴れした冒険者であり敵の接近をさほど許さない。ガルウに至ってはミルカよりも多少ましな程度――ただし痛みに強く我慢強い――であるが。

 キルスは出来るだけミルカに向う攻撃を食い止めるべく奮戦する。

 が、じりじりと体力は削られていくジリ貧状態にも思える。

 相手の攻撃が即致命傷にならないのがせめてもの救いである。


 なすすべなく襲われる少女と、踊りながらなんとか危機を切り抜け続ける少女。

 少女を護りながら剣を振るう青年と、両手に持ったダガーを振り回しつつもガブガブと噛まれる青年。


「なんとかしてや~!」


 なんとかしてと言われても。チェリとガルウは自分のことで精いっぱいであるし、キルスも出来ることは全力で行っている。事実、キルスが居なければミルカの肌に刻まれた噛み傷は数倍の数に及んでいただろう。


「ミルカ! 歌うんだ!」


「えっ!」


 キルスの叫びでミルカは我に帰る。


「どっち!?」


「傷の回復は後回しでいい。こいつらの動きを止められるなら」


「わかった! 微睡の歌やな!」


 ミルカはロッドを構えて、姿勢を正す。

 蝙蝠はたびたびミルカを襲うが、既に負った傷も含めてその痛みを懸命にこらえて歌いだす。


 男二人は気付かなかったが、チェリは違和感を覚えた。

 ついさっき聞いた歌と微妙にメロディが異なっているように思えるのだ。

 歌詞も同様。


 それでも効果は絶大のようだった。

 徐々に蝙蝠の動きが鈍くなり、ポトリポトリと地面に落下しだす個体が現れる。


「おおっ! すごい!」


 すべての蝙蝠を眠らせるのを見届けてチェリが感嘆を漏らした。


「あー痛かった。っていうか、あちこちボロボロやんかあ」


 半べそをかきそうになりながらミルカが自分の手足を見渡した。


「すまない。俺が軽率だったばかりにみんなを危険に巻き込んで」


「ん~、でも探索しよういうたんうちやからな」


「そうそう、ミルカが悪い」


「チェリだって同罪やろ? まあ、そんなことより……」


 とミルカは再び歌う。

 癒しの歌の効果で、三人の怪我は徐々に癒されていく。


「便利なもんだね」


「でもどうせならチェリの踊りのほうが良かったかも。

 痛い思いせんでええし」


 落ち着きを取り戻した二人に構わず、キルスとガルウは眠っている蝙蝠にとどめを刺していく。

 一匹ずつ、ガルウが羽を抑え込み、ぐさぐさとキルスが剣で突きまくるその光景はあまり見たくないものだった。なにせ皮膚が固いために、なかなか剣が通らないのだ。


 やがて、全ての蝙蝠を処理し終えると、またゴゴゴという音と共に退路を塞いでいた厄介な石の扉が上がっていく。


 そこでようやくお宝確認タイムである。


「苦労したんや。しょーもないもんやったら悲しいで」


「そうそう」


「ま、期待はしてしまうな」


 と三人は宝箱に手をかけたキルスの背中から覗き込むように中を見る。


「…………」


「なんだこれ?」


 不可解な表情を浮かべる男衆と違い、少女二人は別の意味で驚いていた。


 中に入っていたのは半分白で、スカート部分がピンクのワンピース。

 それは、チェリが舞台衣装として元の世界で着ていたものとどう考えても同じものであるように思えた。



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