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とつぜんダンジョン


「ほんなら、さっさと祠にいこかあ」


 手柄を独り占めするわけでもないが、ミルカが先頭に立って祠の入り口へと向かう。

 祠とはいえ、ミルカとキルスが出会った神殿級のそこそこ立派な石造りの建物で、あちこちに蔦が絡まっているのがまた、異世界情緒を醸し出す。


 入り口は広めだがその奥は人が一人やっと通れるくらいの幅の狭い通路が続いている。


「ここにも石碑があるんやよな?」


「ミルカが歌を習得した奴ね?」


「うん、チェリもなんか覚えられるといいね」


 と、通路をつかつかと歩いていくと開けた四角い広間に出た。広いと言っても十二畳ぐらいのこじんまりとした空間である。


「えっとお……」


 きょろきょろしながらミルカは振り返る。


「キルスさん? 石版? 石碑? それってどこ?」


「ん?」


 キルスが首を捻る。


「ここにあったはずなんだが……」


 そのままガルウに、


「お前も見たよな?」と問いかけると、


「前に来たときはど真ん中にありましたからねぇ」


「この奥ってことはないの?」


 チェリが尋ねる。奥には扉のような四角く区切られた他の壁とは違う一角が存在していたのでそれを指していたのだろう。


「いや、間違いなくここ……のはずだった。それにあの奥の扉は……。

 扉なのかどうなのか確かめたことはなかったがあれは開かない」


「ってことはどういうこと?」


「わからん。こんなことは初めてだ……」


 わざわざボスを倒してやってきたにしては、あまりにも見返りが少なすぎた。

 このまま帰るのは勿体なすぎるので、キルスとガルウは部屋の中央の床を丹念に調べ始めた。


「置いてあるというよりは、きちんと固定されていた台座の上に石版が設置されていたんだ。

 床には……、なんの痕跡も残ってないな……」


「誰かがもってっちゃったわけやなさそうってことね」


「…………」


「あれ? これ開くんじゃない?」


 一人部屋の奥で扉と思わしき箇所を調べていたチェリが振り返る。


 チェリがそっと扉に手を触れただけでそれはゆっくりと奥へと沈んでいったのだ。

 もっと力を込めればぐっと移動しそうである。


「待て! うかつに触るな!」


 キルスの制する声に、はっとチェリは扉から手を離す。


「トラップとかありそう?」


「トラップ? ああ、罠のことか。

 いや、もちろんその心配もあるが、不自然なことが多過ぎる。

 警戒するに越したことはない」


「全然大丈夫な雰囲気なんだけどなあ」


 チェリは納得がいかない様子だ。


「どうだろう? キルスさん?

 石碑がお引越しして奥に引っ込んだだけかもしれないし。

 あたしも、なんとなくだけど悪い予感はしないんやけど?」


 と、ミルカも扉と思しき箇所をそっと撫でながら、あくまで力を込めずにそっと撫でながらキルスの判断を誘う。


「折角来たのにこのまま帰るってのもねえ」


「勿体ないやんな?」


 女子組二人は好奇心がにょきにょきと刺激されているようだ。


「お前はどう思う?」


「え? おいら? おいらは……。

 まあ、皆さんの判断にお任せしますよ。

 どうせ日当は貰ってるんですし。

 明らかな危険だったりしたら別途手当か、そんときゃあ退散させて貰うかもしれやせんが」


「ふーん……」


 とキルスは考え込む。


 今のところ、扉を開けてみる積極派が二人と、消極論を唱えるのが自分一人。

 意見を持たずに決定に従うガルウが約一名。

 こういうことは多数決で決めるものでもないが、確かに今回の目的は祠に入ることよりもミルカ、ついでにチェリを石碑とコンタクトをとらせて、何が起こるかを確かめることである。

 その石碑が見当たらないのであれば無駄足も甚だしい。


「ねえねえ、確かめてみようや」


「その石碑ってやつはすぐ奥にあるかもしれないしね」


 ミルカとチェリはそれぞれキルスに提案を持ちかける。


「だがな、この祠の大きさから言って奥にスペースがあるとは考えにくい」


 さすがに何度も来ているだけあって、サイズ感はしっかり持っているようだった。


「じゃあなおさら、だいじょぶなんやない?

 魔物が潜んでるって感じもしないし」


「わかった。俺がやる。

 念のためにお前らは下がっていろ」


 とキルスは二人に押し切られる形で決心を固めた。

 壁と仕切られた部分は既にチェリによって少し周囲と比べて凹んでいる。

 横開きでもなく、蝶番で開閉するような扉でもなく。

 単純に奥に押し込むタイプの扉だった。

 現時点では扉であるのかすら定かではないが……。


「うん? 動かないぞ」


 キルスが異変をとなえる。

 チェリが軽く力を加えただけで動いたはずの扉だったがキルスが幾ら力を込めてもびくともしない。


「えっ? でもわたしがやったときは」


「動いたよね?」


「凹んでるもんな」


「勘違いってことはねえのかい?」


「いや、確かに動きましたよ」


「チェリにしか動かせないとか?」


「じゃあ、わたしがやってみてもいい?」


「仕方ないな。だがゆっくりだぞ。

 異変を感じたらすぐに飛びのけよ」


「りょーかーい」


 と、チェリは壁に手を当てて押し込んでいく。

 音も立てずにすうっっと壁の一角が奥に吸い込まれていく。


「きゃ!」


 壁とともに移動していたチェリが突然悲鳴を上げてその場でこけた。


「どうした!?」

「なに?」

「えっ?」


「いや、大丈夫」


 照れくさそうにチェリが立ち上がる。


「下に段差があるみたい……。突然足場がなくなったからこけちゃっただけ」


 一同が覗き込むと、それは段差やくぼみと言うよりは階段の一部のようだった。


「ああ、奥には行けないけど下に行けるってことか」


 ミルカが、チェリに変わって慎重に壁を押し込むと、そこには確かに下へと続く階段が姿を現す。


「魔物の気配は……ないね。

 それに壁が薄く光ってる。灯りもいらなそうやな。便利なことに。

 どうする? キルスさん?」


「魔物の気配は本当に感じないのか?」


「うん、大丈夫だと思うけど。

 なあ、チェリ?」


「そうね、問題はなさそう。入ってみません?」


 やはり積極策を推進する女子組。

 キルスも警戒心は残っているものの、魔物の感知能力を何度も実証ずみである二人が気配を感じないのであれば危険は少ないと判断を下す。


「よし、入ってみるか。

 俺が先頭を行く。ミルカとチェリはそれに続いてくれ。

 ガルウは……」


「ここで見張ってましょうか?」


「一緒に来るんだよ。

 念のために後方を警戒してくれ」


「ああ、人使いが荒いねえ」


「これも依頼のうちだ」


「はいはいっと」


 四人は一列になってゆっくりと階段を下りてゆく。

 しばらく降りると、段は無くなり、長い通路に出た。

 石を積み上げて作られた人工の地下通路のようだが、幾つか分岐も見える。


「地下室?」


「地下室というより、ダンジョンと言った雰囲気だな」


「ああ、やっぱりあるんだ。ダンジョン……」


「お宝とかもあるってわけなん?」


「それはダンジョンによりけりだな。

 そもそもダンジョンってのは、旧時代に作られたものがほとんどで、人から忘れられて魔物の巣窟になっているのが一般的だ。

 それを冒険者が再発見して、魔物討伐やらそれこそ宝――武器や宝石なんかを求めて侵入するんだよ。

 俺はあまり潜ったことはないが、まあ時遺物ロストワンなんかが手に入れるためのほぼ唯一の方法はダンジョン探索だからな」


「えっとぉ……」


 話についていけなかったチェリが首を傾げる。

 時遺物ロストワンについてはミルカはキルスから聞いたことがあったのでチェリに我が物顔で説明を始める。


「あのね、この世界って昔のことはよくわかってないんだって。

 もっとテクノロジーが発達した世界があってそれが滅びて今の人間たちが暮らし始めたとかいう設定っぽいの。

 で、ダンジョンとかはその昔の時代の名残で、だから今の技術では作れないような爆弾とか、武器とかがあって、それは貴重で、時遺物ロストワンって呼ばれてるんだよ。 手に入れて売りに出したら大金持ちになれるんだって」


「まあ、冒険者であればそのまま自分で使い続けたり持ち続けたりする奴も多いがな。

 岩蜥蜴に投げた爆薬もそのうちのひとつだ」


「そうだったよね。聞いてないけどあれも相当な金額?」


「いや、爆薬の類は一度使えば終わりだし、実際に使ってみるまで威力がわからんから使いどころが難しい。それほど高値で取引されるもんじゃない」


「ならよかったけど」


「で、どうします?」


 ひとしきり知識を得たチェリが話を本題に戻す。


「とりあえずこのフロアだけでも探索してみようよ。

 深そうだったり、まだ下があるんならそん時はそん時で」


「簡単に言うけどなあ」


「魔物の気配もないし大丈夫じゃない?」

「そうそう」


「まあ、そうだな。少しだけ探索してみようか」


 キルスも二人のペースに乗せられつつある。


「おいらそろそろ腹が減って来たんですが」


 不満を漏らすガルウは、女子二人に、


「そんなのあとあと!」


 と軽くいなされて、いざ初めてのダンジョン探索が開始されることになった。

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