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ある兄の話  作者: フーデリッヒ
取り戻せない日常
9/14

死神となった女神

時は流れた。


その流れは穏やかで、あまりに平和だった。


「もしかしたら、私はこれからずっと異変のない日常を送ってゆけるかもしれない。」


そんな考えすらあった。


しかし、現実はそうもいかず。


ある日のことだった。


ドアベルが鳴る。


「郵便かな...?」


急いで玄関へ向かう。


「はーいっ」


扉を開けると、そこには私と同じくらいの年の女の子がいた。


明らかに日本人ではない。


「えっと、何の用でしょうか...?」


聞くと、女の子は首を傾げる。


「Кто вы?(あなたは誰?)」


驚いた。


私が驚いたのは突然来訪しておきながら人に向かって「君は誰だ」という常識知らずさである。


「Я "Fuderich Steiner"(私はフーデリッヒ・シュタイナーだ。)」


ロシア人だった。


「Хорошо. Приятно встретиться с вами, г-н Штайнер.(よし、初めまして。シュタイナー君。)



シュタイナー君という呼び方に突っかかりを覚えた。


「Знаешь ли ты "Курков"?(クルコフを知っているか?)」


「Да. Она мой друг.(うん、彼女は私の友達だ。)」


非常に強い口調で話していた。


つまりこの子は強気だ。


結局その後詳しく話を聞くと、クルコフに紹介されて遊びに来たらしい。


なかなか礼儀知らずな奴であった。


彼女との会話はすべてロシア語であったが、以後日本語に翻訳して表記しよう。


結局すでに夕刻も過ぎていたので、とりあえずその日だけは泊まってもらうことにした。


翌日、私が仕事を終わらせて家に帰ってみると、瑞葵とその子が同じ布団で寝ていた。


それは私が意図したことなのだが、最初お互いに離れて寝ていたのがかなり接近していたことに対して私は驚いた。


「仲がいいんだなぁ...」


微笑ましい光景だった。


そして起こさないようにして私は身支度を整え学校へ向かった。




家に帰ると、派手な「おかえり」が私を出迎えてくれた。


なんと、その子が扉を開けた瞬間に殴りかかってきたのである。


間一髪のところで回避したものの、まともに当たればただでは済まないのは感覚的にわかった。


彼女の拳は風を帯びていた。


「何だよっ!?」


「私を起こさなかった...!」


「え!?」


よくわからなかったが、その後の一撃も回避すると彼女は諦めるようにして後ろを向いた。


「お兄ちゃん...何したの?」


瑞葵が出てきて心配そうに聞いてくる。


「何もしてないさっ!」


そう、私は”何もしなかった”がために今彼女を怒らせているのである。


「そう...そうは見えないけど...」


「お前まで俺の敵になるのか...」


「誰も敵になるなんて言ってないよっ!」


驚いたように言う。


「お、おお...そりゃあ心強いよ。」


「でも...あの子は誰?」


当たり前の質問だった。


「いや、知らない」


「知らないって何?!誰!?」


このままでは質問責めにされる。


私もちょうど気になっていたし、聞いてみることにした。



「おーい」


私が呼びかけると、さっきまでの不機嫌などなかったかのようなきょとんとした様子で振り返る。


「お前...誰だ?」


「人に名乗らせる前に自分から名乗りなさいよ」


「俺は昨日名乗ったじゃないかよ!」


「.....そういえばそうだったね」


「で、名前は。」


「...タチアナ」


「ラストネーム。」


「パシンコワ」


「なんか機械と喋ってるみたいだ...」


思ったことをそのまま口にしてみる。


「機械は命令に従順だから褒め言葉だと思って受け取っておく。」


「それはそうだが...」


「これ以上話すことが?」


「いつまでいるんだ?」


彼女は悩んだ。


私は何故悩んでいるか考えたが、明らかに良くない雰囲気だった。


「....死ぬまで。」


「いや困る!」


「冗談に決っているだろう」


「機械は冗談は言わないさ...」


「いつ誰が私が機械だと言った」


掴みどころのない感じだった。


「疲れた...」


「そうか、休め。」


「休めたら休んでるさ。」


「休めないのか、残念だな。」


「で、何が目的だ。」


「観光、遊び。」


「....本当に機械みたいな受け答えだな」


「褒め言葉だと思って受け取っておく。」


「いちいち言わなくて結構。」


そういうと彼女は黙って頷き、コンピューターに目をやった。


おそらく彼女が持ち込んだであろうもので、私は初めて見た。


画面を覗きこんでみると、何か見たことのあるような画面だったが気にしないことにした。


その後彼女とは少しトラブルもあったが、無事和解した。


「しかしまぁ...」


改めて家に帰って玄関から家の中を見てみると。


「うるさいな...」


良い言い方では賑やか、悪い言い方で言えば騒がしかった。


タチアナと瑞葵はすっかり仲良くなり、言語の壁こそあるものの、タチアナはそれを取り払おうと日本語を勉強し始めた。


そんなこんなで日曜日。


私はオペレーションのためアフガンへ飛んだ。


珍しく民間機を使ったのだが、航空機を降りて迎えの車が来た時におかしなことに気づいた。


タチアナがついてきていた。


というのも、彼女はクルコフ繋がりなのでこちらへ伝手があるのだ。


「それは誰ですか!」


「いいから乗せて行け!私は後から行く!」


「しかし...!」


「いいから!」


「はいっ!」


半ば強引にタチアナを連れて行ったアメリカ海兵隊員はつかれただろう。


私はと言うと市街地から離れたところに行ってストライカー装甲車に乗せてもらった。


現地に入って基地で装備を着替えると、先ほどの海兵隊員がタチアナを連れてきた。


「こいつにはここで待っててもらいますよ!」


「当たり前だ。連れては行けない。」


「まったくですよ...」


とは言え今回のオペレーションは状況確認のみ。


丘の上から動向を見守るだけだった。


何もなく、1日が終わって退却した。


基地に戻ると、タチアナは来客用ソファーで眠りについていた。


解散したとき、さすがにストライカー装甲車では揺れるし狭いので、一般車で近くの飛行場まで運んでもらって、そこから飛行機で家へ戻


った。


タチアナが起きたのは上空だった。


貨物庫の中に突っ込まれ、真っ暗で動揺したのだろう、突然後部から叫び声が聞こえたので救助へ向かう。


予想通り恐ろしい勢いでじたばたしていた。


「落ち着け!タチアナ!」


「ここはどこ!私に何をするつもり!」


面白かったので少しからかってみることにした。


「悪いな...タチアナ。お前の臓器を売るんだ...」


「っ?!」


タクティカルライトで彼女を照らすと、怯えていたのか今までに見たことのない表情を浮かべていた。


「さあ...抵抗するなよ...」


そう言いながら私は右肩のコンバットナイフをライトに当てて反射させる。


「ふふっ...ふふふっ....」


「どうした...?」


「バカ...」


「え?」


思わず拍子抜けな声を出してしまう。


「ほら...最初からそんな気なんてない」


「見破られてた...か...」


「当たり前、全部聞いてたから。」


「全部って言っても関係ないのは一言しか言ってないけどな...」


そんなこんなで結局貨物室の中にいるまま帰国した。


その日の夜だった。



「ん...」


目を開けると、風が吹き抜けた。


「今日はどうした...?」


そこはいつもの屋上だった。


「お兄ちゃん、私の言いたいこと...わかる?」


「分かる...と言ってやりたいが...悪いな。」


「私ね...複雑な気持ちなの...」


「ん...?」


「お兄ちゃんにもっと構ってほしい...もっと愛してほしい...でも...お兄ちゃんは今を生きないといけない...」


「だから俺は今を生きながらも時々過去に帰ってくるじゃないか。」


「それじゃいやなの...」


「わがままだなぁ...お前は。」


「でも...お兄ちゃんは私だけを見て...」


「え...?」


「私ね...お兄ちゃんが他の人と話してるのを見てると心が苦しくなるの...」


「そんなこと言っても...」


「だから...私のもとにいて...」


「俺だってそうしたいさ...でも現実は...」


「現実が何...?お兄ちゃんはずっと過去の中で生きていればいいの...」


「そうはいかないと...!」


「嫌なの...?」


「違くてだな...」


「お兄ちゃん...すっかりあの子達に目を奪われちゃって...」


「目を奪われるって...」


「お兄ちゃん...愛してる...」



そこで目が覚めた。


私は嫌な予感しかしなかったが、気のせいだと信じて学校へ行く支度をして、学校へと向かった。



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