旅立った女神の残留思念
数日して、私は彼女からの遺書を手にした。
内容はこのようなものだった。
「私はお兄ちゃんを愛していました。世界中で誰よもお兄ちゃんを愛していました。時には愛故に殺意を抱く事すらありました。
私は…お兄ちゃんへの愛、お兄ちゃんからの愛で生きていました。
何か堅いね…
そういえばお兄ちゃんとは兄妹ゲンカらしいケンカはしなかったよね...
一度くらいしたかったかも…なんて。
今思うとまだまだお兄ちゃんとしたい事がいっぱいあるよ…
しょうもないような話をして、ただただ何となく今まで過ごしてたけど、今思い出すとすごく幸せだったんだね…私達。
毎日が、すごく…
お兄ちゃんとの思い出を全部書き綴りたいけど、そうするといくらでも書けちゃうからとりあえずこれは簡単に終わらせるね。
いくつかお兄ちゃんにお願いがあるんだ。
まず一番大事な事。お兄ちゃんはもう私を想わないで。
それだけは約束して。
だから...お兄ちゃんは私が死んだからって自分が死んだり、他人を殺したりしないで...
お兄ちゃんは強いけど弱いんだからね?
だから泣きたいときは泣いていいんだよ...?
私はもういないものだと思って。本当にどうしようもないときだけ、私は現れるから。
次に、さっきの話でも言ったけど...人にもっと頼って。
私は苦しんでるお兄ちゃんの作り笑いは嫌いだから。だから無理して笑ったりしないで、抱え込んで一人で悩んだりしちゃダメだからね...?
お兄ちゃんは絶対に自分だけで責任とか悩みとか抱え込んでいつか身を滅ぼしちゃうから、それだけは絶対にやめて...そうでないと私は安心して成仏できないからね...
それで私はお腹の子と一緒に死んじゃうけど、お兄ちゃんは私達の分までちゃんと生きてねっ!
最後に...ありがとう。またいつか、一緒にいっぱいいろんな事しようね!
フーデリッヒ・シュタイナー様へ。
妹、ルートヴィヒ・アイリーンより。」
「私は...死ねないのか...」
正直この世界にうんざりしていた。ロシア行きの航空機の中で、私はただ一人、全てを失った気分でいた。
そうこうしている内にロシアの地まで来てしまった。
空港からとぼとぼと数時間歩き、妹との思い出の地まで来た。
「はぁ...」
吹雪いていた。
「何をするんだろう...」
次の瞬間、私は不思議な感覚に襲われた。
「私だよ...」
吹雪の中、彼女の影が見えた。
「アイリーン...?」
「お兄ちゃん...そう、私...」
「アイリーンっ!」
しかし、近づくと彼女は消える。
幻覚だった。
幻聴だった。
それは分かっていた...しかし私は徐々に壊れていった...
それから数時間。荒野で彷徨っていた私は、私ではなかった。
正気ではなかった。
しかし、そこに彼女が現れた。
ラザーリ・クルコフ、私の旧友だ。
彼女は錯乱した私を見て、鎮静剤を打ち込んだ。そうして、私を連れて日本へと来た。
正直、記憶がほとんどない。
私はその後、何もしていなかった。
しかし、真の試練はこれからであった...