来訪者達との出会い
少年は例のごとく新たな兵器の研究をしていた。そんな少年のもとにある日、一本の電話が掛かってきた。
「もしもし?」
「...私だ。」
「私と言っても分からないよ?名乗ってもらわないと。誰?」
「声を聞いて分からないか...残念だ。」
「残念だね。誰?」
「お前の父だ。」
「父さんか。おはよう。」
「おはよう。」
「で、何か僕に用があるのかな?」
「用もなく電話をかけるものか...」
「ふふっ...それはそうだね。で、何の用?」
「実はお前に会わせたい人がいるんだ。」
「誰?」
「そうさっきから誰誰聞くな...。その時になったら教える。」
「もったいぶらずとも....あ」
その瞬間、電話は切られた。
「まったく...さて...じゃあ僕は研究を続けるかな。」
そう言って少年が部屋に戻ろうとした刹那。
「無用心だな。」
「っ!?誰だっ!」
少年は振り向こうとしたが、銃口が突きつけられてるのに気づいたのでやめた。
「何が目的だ」
「簡単だ。私は君の無用心を注意しにきた」
「それだけなはずがない...僕の警備システムを破ってまでここに来るのはそれだけなはずがないんだ」
「ふっ...わかってるな。私は君の警備システムを破りたかっただけだ。」
「何を言っている...?」
「シデリニコフですら破れないシステムがあると聞いて...楽しみにして来たんだが。」
「シデリニコフ...技師か。」
シデリニコフ・フセヴォロド。支部で腕の立つクラッカーという話はあったが、実際クラッカーとしては中堅レベル。本業はプログラマのロシア人技師。
「それで...いい加減正体を明かしてもらおうか?」
「仕方がない...准尉、オブラソワ・ストローエフだ。」
そう言うと准尉は銃を下ろした。
「やれやれ...准尉自ら僕の無用心を注意しにきたっていうの?」
少年は振り返りつつ問う。
「少し手こずったが、まだまだだな。出直してこい。」
「どう出直せって?僕は独学でここまで来た。出直し様がない。せめてどう破ったか教えてほしいとこ
ろだよ...」
「私について来い。教えてやる。」
准尉そう言いつつ右手を差し出す。
「大変光栄ですがストローエフ准尉、あなたに教わるつもりはさらさらありませんで。」
乱暴に言い放ち、少年はその手を弾く
「何故だ?」
「形態が同じになる。一つ解析されれば全て解かれる。ドミノ倒しだ。」
「君は賢いと思っているだろうが、むしろ馬鹿だ。改変などいくらでもできよう。」
「同じ土台の上に立ってる時点でダメだと思ってるんだ。悪いけど帰ってもらおうか?」
「ああ...また気が向いたら来るぞ。」
「次こそは僕のシステムを破らせないよ。」
「期待している。」
准尉はそう言い、後ろを向いて右手を振りながら颯爽と去っていった。
それ以来、少年とストローエフ准尉はライバル関係となったのだった。
それから数週間。突然の来訪者があった。
ガタッという音に気づき、少年は咄嗟に銃口を向ける。
「っ....!」
そこには少女と少年の父が立っていた。
「君達は誰だ...?何故この部屋にいる...?」
「警備システムの破り方は聞いた。悪いが勝手に入らせてもらったぞ。」
少年の父が言う。
「....そうか。」
「それで、こいつが会わせたかった人物。お前の妹だ。」
そう言って少年の父は少女の背中を押し、一歩近づかせる。
「父さんも優しいね...わざわざ僕のために新しい被験体を連れてきてくれたんだ...?」
「何を言ってるんだっ!」
「いや、初めて会ったが...これは面白いぞ....」
そして少年は少女の方に視線を向け、口の動きだけで言葉を伝えた。
『遊んでやるよ』
それが少女に伝わったかはわからなかったが、正直少年にとってそれはどうでもいいことだった。
「待て、私は被験体にさせるために連れてきたんじゃないぞ。」
「ん~?僕に殺させてくれないんじゃないの?残念...」
少年は少女に威圧をかけようとして一歩踏み出したが、装甲のために足がうまく上がらず、足元の死体を踏んでしまった。
少女はわずかに震えつつ口を開いた。
「あなたは....人間ですか?」
少年は何を聞かれているのかわからなかった。が、なんとなくは分かった。
「ん?さあ、僕は人間なのかな?そんなことどうでもいいじゃん? どうせすぐ死ぬんだから...」
彼は死を決意していた。何故か?----簡単な話だ。父親は、人を殺す前に家族に面会させるからだ。
「いいえ、あなたは死にません。あなたは今人間ではないです。でも...いつか私が、あなたを人間らしくしてみせます。だから...」
そう言われたとき、少年は少し腹が立った。黙らせてやろう。
「人のもがいて死んでゆく様は芸術だと思わないか...?ははっ...見てて飽きないんだよね...呻き、苦しみ、救いを求めながら、断末魔の叫びをあげつつ死んでゆく...面白いよね?」
「黙って下さい。」
少女はうつむきつつ、しかしハッキリと言った。
「へ?」
少年は何を言っているのか訳がわからなかった。
「貴方は人の命を何だと思っているんですか...?」
「え?人の命は大事なんじゃない?まあ...人、はね。」
「黙って下さいっ!」
少女は父の握っていたCz75を強引に奪った。
「貴方はおかしいですよっ!人じゃないですよっ!」
「ん~?だから僕は人じゃなかろうが何だろうがいいって。」
「...貴方はきっと私の兄ではありません。」
少年はどうでもいいと思い、ヤケになった。
「あはははっ!撃とうっていうの?いいよ、撃ってごらん?ほらっ!」
少年は自らの体を守っていた鉄製の装甲を切り離し、少女に向き直って両腕を広げる。
「撃ちますよっ!」
少女は声を張り上げた。
「うん、いつでもどうぞ?」
どうせ撃てないと少年は思い、悠々と笑っていた。
しかしその刹那。
.25ACP弾が少年の右の胸にめり込む。
少年の父のワルサーPPKだ。
「バカなっ...」
少女は呆気にとられつつ、勢いでトリガーを引いた。
その弾は少年の肩を貫いた。
「ふふっ....」
それでも少年は倒れず、笑ったその顔を崩さなかった。
しかし流石に少年も体が持たない。
銃声を聞いて集まってきていた現地の技術者や兵が少年に向かう。
少年は運ばれつつ、少女の横を通りつつ少女に呟いた。
「お前は面白い。」
少年はそのまま運ばれていった。
運ばれつつ、少年は思った。
「僕は...このままでいいのかな...?」
その少女の名は、ルートヴィヒ・アイリーン。
そしてその少年は...
フーデリッヒ・シュタイナー。
これは、私とその妹の話である...