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ある兄の話  作者: フーデリッヒ
死神の誕生
2/14

達成と損失

今よりちょっと昔、ロシア西部の小さな村に、ある日本人家族が旅行に来ていた。

その両親は子供を見ておらず、付近で突如戦闘が勃発した際に逃げ出してしまった。

当然その子は戦場に取り残された。

戦闘しているのは小規模なテロ組織と序章で語った軍の小隊。

小隊はおよそ15人ほどから構成されていた。

その子は車を見つけ、その影に隠れた。


しかし少しして、当時小隊の小隊長だった人物が、彼の隠れていた車の影を覗き込んだ。

その子は護身用にと言われ、弾の2発入ったワルサーPPKを持たされていた。

恐怖で震えて、グリップを固く握っていた。

小隊長は何故こんな子供が取り残されているのか不思議に思っただろうが、とりあえず助けることにした。

「君はこんなところで何をしてる?危ないからすぐに退避...」



言い終わる前に小隊長は撃たれた。

銃声に気づいた小隊の数名が駆けてきてその子に銃を向けて取り囲み、尋ねた。

「おいっ!お前!何をしている!」その子は恐怖で答えることはなかった。

「構わん、殺せ!」

男が言い終わると同時に、誰かが叫んだ。


「待てっ!!」

「何故ですかっ!隊長を撃ったんですよ!?」

「まあいい...落ち着け...こいつだって撃ちたくて撃った訳じゃない...」

「何でそう言い切れるんですかっ!敵の組織の子かもしれないんですよ!」

「見ろ...彼は怯えきっている...これじゃ誰が来たってどの道撃つさ...」

「じゃあどうしろっていうんですか!」

「なら私を撃ったかわりに...手伝って...もらおう...」

「こんな小さな子にですか?!」

「こんな小さな子だから出来ることをだ...」

「耳を貸せ...」


小隊長は部下の一人に話をした。話が終わったとき、部下の顔は青ざめていた。

「本当に...大丈夫ですか....?」

「ああ...絶対に....」

そう言って小隊長は座り込んだ。

「大丈夫ですか!?医療班!」


まだ戦闘は続いていた。そして男はその子のところまで行って、しゃがみこんで言った。

「よし...いいか...落ち着いて聞けよ...。君には今から敵の隠れている家の裏に行ってもらう。」

まだ恐怖で声も出ない子供に、淡々と説明し続ける。


説明が終わる頃、その子が始めて口を開いた。

「じゃあぼくは、あそこにいって、このピンを抜いてこれを投げ入れて、合図があったらこれを押せばいいんだね?」

その子は手にした照明弾と催涙ガスグレネードを提示するように訊いた。

「ああ。そうだ。」

「じゃあ、いってきます」


右手には催涙ガスグレネード、もう片手にはガスマスクを持って、彼は敵陣へと悠々と歩いていった。

敵は気にもしなかった。

そして家を通り過ぎるふりをして、裏の窓からグレネードを投げ入れ、照明弾を発射する。

その子はすぐさま伏せ、ガスマスクを顔にはめて首元を押さえる。大きすぎるのだ。

しばらくの後、銃声と怒声は止んだ。

その子はゆっくりと立ち上がり、家の中を見た。

「あれ...?」

人はいなかった。


「お疲れさん。よくやった。」

気づけば後ろにはさっき撃った連隊長がいた。

「あ...えっと...」

その子は口ごもってしまった。

「いいってもんよ。なかなか根性ある奴だ。気に入った、一緒にこい...と言いたいが、お前はどこの誰だ?」

その子は全てを話した。彼が日本人であること、親が逃げたこと。

終わった後、小隊長が思い出したかのように言った。

「そういえば、お前の親は?」

「あっ....」

辺りを見回してもいない。少し探し回ったら意外と簡単に見つかった。



「え...うそ.....」


彼の母は死んでいた。ブルーシートの上で、半身のみになった母親。父親はいなかった。


「お前の...母さんか。お気の毒にな...」

「ご家族の方ですか、迫撃砲で即死でした...って...小隊長?」

「親父は逃げたか...。おう坊主」

小隊長は何度もその子を呼びかけ続けたが、返事は返ってこなかった。

「このままじゃ埒があかねぇ、おい、連れて行け!」

嫌がり必死で抵抗する少年を軽々と抱きかかえ、小隊は引き揚げていった。


この時実は彼の父親は逃げ去っていた。そこより北の小さな農村。

そこで数年平和に暮らしていたが、彼もまた軍部の重要人物であったため、4年ほどで軍に復帰した。


そして復帰した頃、父親はその農村の女と結婚し、子供を作った。女の子だ。


彼女が後の女神。そして彼女もまた、父親とともに軍へと向かうのであった...。



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