戦闘区域
そこは白銀の大地だった。
ロシア北部、北極海と面する場所。
吹雪の雪、一つ一つが太陽光を受けて乱反射する。
ダイヤモンドのようであった。
なんとなく眩しい。そんな北の地に私は降りた。
長旅という訳でも無かったが、出迎えをする部下が少し疲れ気味な私を気遣ってくれる。
そこは目的地からおよそ20Km地点であった。
「戦況は」
「まだ戦闘は開始されていませんよ、准将。」
「何を寝ぼけた事を言っている。彼らが武装蜂起を宣言したその瞬間から戦闘は始まっている。」
「見えないだけ、ですか?」
「目に見えている。壁があるじゃないか、我々を拒む壁が。」
「これだから研究施設がクーデターを企むと嫌なんですよ。未知の兵器を手にして――」
「君の個人的意見を聞きに来た訳ではない。」
「はっ、失礼しました。」
男は背筋を伸ばして、敬礼。
「よし、偵察班からの偵察状況を元に戦術を練る。司令部へ案内しろ。」
「はい、こちらです。」
簡易テントのような司令室だった。
既に各隊の指揮官が集まっていた。
私が席まで来ると、全員一斉に起立。参謀と思しき人物が少し遅れてゆっくりと起立、敬礼。
それに合わせるようにして一斉に敬礼。着席。
「さて、准将。」
年取った今作戦の総司令官は開口一番にこう言ったが、この場には准将が2人いた。
「は。」
「君じゃない。」
私では無かった。黙って着席する。
視線が痛い...笑われるのだろうか、しかし私には意外とどうでもいいと思えた。
「第4研究師団...いや、厳密に言えば“元”だ。敵はこの地形では有利な自己防衛手段を持っている。ラフィスキー。」
「はい」
と言って一人の若者が立ち上がる。30位の男だ。
「敵は現在目立つ防衛兵装の展開こそしていないものの、恐らく猛烈な反撃が予想されます。彼らの保有する武装は、対空兵装としては一般的なSAMのみですが、対地兵装に自律型の歩兵があります。尤も人の形をしている訳ではありませんが、擬似的なAIを搭載した兵器です。自律型と謳っていますが、実際には自律したコンピュータの制御を受けた機械ですので、なんとか通信を遮断出来れば完全な無効化が可能です。しかしあの基地には独自開発とみられるECCM装置があるようで、先日偵察中の機がジャミングを仕掛けたところ全く効果がありませんでした。それどころか、寧ろ位置情報を教える形となり、撃墜されました。データは回収できましたが、あの様子では我々人間による潜入が必須でしょう。まともに機械と戦っても勝ち目はないですし、機械との戦闘を避ける為にジャミングするにもECCM装置の所在、形状が全くの謎なのです。つまり、相互的に守衛しあっているわけです。共生、という言葉は適切ではありませんが、お互いに利益がある方法です。それと後一つ、我々が侵攻するためのルートはかなり限定的で、空挺降下はセンサに引っかかり、自動迎撃兵装で鉢の巣に。正面玄関から入るのもいいと思いますが、まあはっきり言って犬死にするでしょう。残された選択肢、地下からというのも検討し、先行偵察を兼ねて無人機で掘って行きましたが、どうも地下施設の保護も兼ねて地上へは出られなくなっています。やるとしたら、地下の壁を破壊、乃至爆破して強行突入というのが今現在最も賢いと言えます。私が思うにもぐらと同じようには出迎えてはくれないでしょう。後はトロイの木馬...」
「結局」
ラフィスキーとやらの話が長くなる事を見越して、司令官が制止するようにして言った。
「どの隊を、どう動かすか。現時点で最も有効と思われる案のみの説明を。」
はいはい、というリアクションをして、ラフィスキーは咳払いをする。
「無人機が掘った穴は、運良く制御用コンピュータの設置されてる部屋のすぐそばです。そこに数人、エリートを潜入、不可能ならば突入させて、コンピュータを破壊、同時に予め待機させておいた地上部隊を展開、対空兵装を破壊、空爆、地下の殲滅、という手順でよいかと思われます。」
「これだけの部隊で足りるか、敵の兵器は完全に把握しているのか?」
私は思わず聞く。
「ああ、一応...」
ラフィスキー准将は困惑したような表情をして、答える。
「完全に把握しているか、それ以外か、答はそれだけだ。」
「何を言っているんだ、フーデリッヒ...」
「まあ、完全には無理だろうな。把握した気になるな。そのデータは最早古い。この反乱に備え、独自で開発を行っていた兵器の1つや2つはあるだろう。敵は未知だ。知った振りをして戦うな。危うくなったら引かせろ。無駄な戦力の消耗になりかねない。いいか、知った気になって戦うな。」
「くそっ、偉そうに...」
「偉そう、ではない。実績は君より上だ。」
「フーデリッヒ准将、ラフィスキー准将、身内でもめている場合じゃない。」
司令が止めに入るが、彼にはその声が届かなかったようだ。
「実績が上でも私の方が長いし、それに年だって上だ!」
「それは欠点でしかないじゃないか、ラフィスキー准将。」
「2人とも、黙れ!」
「ほら、フーデリッヒ准将、小将の命令となれば聞くよな?」
そう言いながらラフィスキーは着席する。
「この際だから言わせていただきましょう。」
「フーデリッヒ准将!」
警備の人間が近づいてくる。
「ここに階級も年も関係ありませんよ。ここで求められるものは、有効性だ。例え人であろうが、機械であろうが、使える物、必要な物以外はいらない。君達、そう、司令。君も含めてだ。君達などあるものと言えば階級と無駄なプライド程度だ。それで戦えるか?まともな頭もない。常に自分の利益を追求している。人間はそういう生き物だ。仕方がないとは思うが、戦場にそれはいらない。大人しく指を咥えて見てろ。それからジョールヌイ中尉。」
「はい。」
痩せた男が立ち上がってこちらを向く。
「君は有効だ、作戦を練る。10分後に車に。」
「勝手な行動を取るな。彼を連れ出せ。二度とこの議会に顔を出させるな。追放だ。」
「そうですか、私は抜きですか。楽しんでくださいね。少将。」
「覚えていろよ、あれだけ言ったんだ、上官侮辱罪で軍法会議にかけてやる。」
「構いませんよ。出来るものなら、どうぞ。」
「待って下さい!」
ジョールヌイ中尉が止める。
「彼がいなくなれば、指揮力が低下します。非常時に個別に隊の指揮が出来るよう、各隊に一人づつリーダーを定めていますが、彼は先行隊の指揮官を担当しています。」
「代わりならいくらでも...」
「いる、と言いたいところですが、残念ながら手の空いている者はいません。」
「ならば先行隊の者の内からリーダーを決めればいい。」
「そう、ですか。私は今作戦の考案者として発言させていただきますが、今から彼を抜いての作戦実行は不可能です。」
「く...ならばいいだろう、この作戦の終了時まで君には働いてもらう。」
「いや、私は下ります。」
「何を自分勝手な事を...!」
「自分勝手なのは貴方ですよ。名誉毀損され、気分を害したからと言って、私を担当から外す決断をしたじゃないですか。まあ、あれは単に上官侮辱罪をした為に連行されつつあった、というのが実際でしょうが。」
「つまり、君は自分が罪を犯したという自覚があるのか。」
「ある。」
「その割には随分な態度だな。反省の意はないのか。」
「私は実際問題を語っただけです。何を反省しろと?それが侮辱になることも承知の上だ。だが問題を指摘して侮辱だの何だのと言われてそれが封印されるようでは、組織も、いや、人も育たない。その問題を真摯に受け止め、解決へと乗り出してはじめて成長を始めるんだ。」
「知った顔を...!」
「少なくとも、貴方よりは知っているつもりです。」
「...気に入らん。しかし君がいないと我々が困る。」
「我々の、何です?安定した利益を受けることですか?」
「ああそうだ。名誉も、名声も、失いかねない。この作戦の責任者は私だ。責任を負うのは私なんだ!」
「そうですか、部下を失って困る、ということではないのですね。まあ当たり前と言えば当たり前でしょう。」
「とにかく、君には引き続き作戦に参加していただきたい。」
「...分かりました。ただし。」
「ただし、何だ。」
「軍法会議は、見送りで。」
「くそっ...ただし失敗するなよ。」
「は。少将殿。」
私は皮肉を込めて階級を呼ぶ。
そして車に向かうと、ジョールヌイが後についてきた。
そうだ、そう言えば作戦会議をするといったが、当然私にその気はなかった。
その車には機銃がマウントしてあって、そこで1人が待機していた。
助手席に乗り込む。
と、ジョールヌイが運転席に乗り込んでくる。
「准将、どうしましょうか。」
「どうするも何も、私は休みに来ただけだ...作戦はあの准将の言う通りでよい。」
「しかし、危険性を孕んでいると...」
「それは私が作戦を練ったところで変わる問題ではない。」
「それはそうですが...」
「それだけだ、すこし休みたい。ガンナーを連れて作戦本部へ。」
「作戦本部...?」
「仮設指揮所へ。」
「は。行くぞ!」
「はい。」
そう言ってジョールヌイは機銃手を連れてテントへと歩き出す。
すっかり静まった車内で、私は一人、考え事でもしようかと思った。
しかしそんな余裕はあるはずもなく、「敵を見ろ」と言うメッセージ―――実際には敵が発射したものであろう榴弾の着弾音―――が私に届く。
「牽制か。最初から本気でかかれば良いものを。」
そんな事を一人で口走って、無線機を取る。
「本部」
「何だ。」
「付近一帯の通信は傍受されている。それから、敵さんは大した兵器も持っていないようだな。」
軽く嘲笑しつつ言う。
「敵を過小評価するな!取り敢えず作戦を行動に移す。フーデリッヒ准将、本部へ来てくれ。」
「過小評価?今のでも過大評価のつもりですがねぇ?ふふ...向かいます。」
乱暴に無線機を戻す。
直後だった。
基地から巨大な輸送ヘリコプターが姿を現す。
そして本部上空でホバリングし、後部ハッチをオープン。
「奴ら、挑発に乗ったな。ピエロの登場だ。」
鉄のような外装をした巨人だ。あんなものは資料にはなかった。しかも恐らく武装も満載だろう。派手な花火が見られそうだ。
本部付近には防衛の為に数台の戦車と待機していた全部隊がいるが、彼らが動くことはなかった。
巨人の脚が地面に接したか接していないかのあたりで、巨人から紅い飛沫が飛び散る。
「こちらFSC1、あれが単座で、自律制御が不可能なら沈黙した。操縦者の目が見えたぞ。」
待機中のスナイパーからだった。
「確認に向かえ!」
少将の声がする。
最も近かった小隊の者が警戒しながら、かつ大胆に接近してゆく。
一方の巨人はと言えば片膝をつき、完全に沈黙していた。
恐る恐る装甲に手を触れているのが見える。
「オーケー、大丈夫そうだ。」
それを聞いて、私は車を降りて巨人の元へと向かう。
近くでみれば意外と大きい。全長5mはあるであろう。両腕にはブローニングM2のような機関砲がるが、それ以外は見受けられない。
そのまま人がいたであろう部分の表明に触れてみる。
と、圧縮空気が漏れるような音とともに、ハッチが開く。
中は惨事だった。死体を降ろし、よく見てみようと内部へと足を踏み入れる。
「これは...やはり試験機か、基礎的な部分はなにも変わらないじゃないか...。ただ人型とはな...これが機関砲か。」
航空機の様な操縦桿が2本あり、その片方のトリガーを引いてみる。
するとブローニングM2よりはるかに騒がしい音が沈黙を打ち破った。
小隊が慌てて退避する。
もしかすれば使えるかもしれない。そう思った瞬間だった。
「それは彼らからのプレゼントだ、近づくな」
私の脳内で声が反響する。男だ。
「何だって?」
「素直に私の忠告を聞け。」
「命令されるのはごめんだ。」
気持ち悪い。脳に直接語りかけられる感覚。
しかしすぐにこれが自分の声だと気付く。
「なら返してやらないとな。」
「お前らしい。」
そして、プツッというような短い耳鳴りとともに、声は消える。
「ありがた迷惑だよ、全く...」
「准将、それから離れて!」
「ん?何だ?」
「私達を殺すつもりですかっ...!」
「そんなつもりじゃなかったんだけどなぁ...」
「じゃあ何で機銃なんか...!」
「私がこれの使い方を知っててやってると思ってる?」
「い、いえ...」
「今のは事故だ、許せ。」
「気をつけてくださいね...。」
「ああ、十二分に気をつけよう。」
その言葉を聞くと、小隊長は背中を向けて歩いて行った。
と、機内のシステムが起動する。
メイン・ディスプレーと思われる場所に大きく文字が点滅している。
―――舵をとれ、さもなくば死だ―――
「何のことだ...?」
そしてその直後に聞き覚えのある声でナビゲートが入った。
「触るな、こちらでコントロールする。」
「...?」
その声は機内からではなく、私のイヤホンからであった。
「いいか、その機体に触れるな。機内のどこかにある40桁の番号だけを教えてくれればいい。座席に座っていろ。」
それはメイン・ディスプレーの横にあった小さなディスプレーにあったので、直ぐに分かった。
「了解した、こちらよりそいつの制御を試みる。座席にしっかり座っていろ。」
「待て、私はパイロットじゃないっ!」
「知っているさ、フーデリッヒ准将。」
「タチアナ...?」
「そうだ、悪いか?」
「私はテストパイロットなどではない!降りるぞ。」
席を立とうとすると、それを拒むようにハッチが閉まる。
「なっ...!」
「アイハブコントロール。」
「くそっ...降ろせ!」
「悪いが少し黙っていてほしい。通信終了。」
「あっ...」
切られた。仕方がないので血糊のついた座席に座る。
確かに、目視で見るもののようだ。本当にこんな設計でいいのか...?という疑問が出てくる。恐らく間に合わせだろう。
機体が揺れる。ゆっくりと立ち上がって、後ろを向いて歩き出した。
正面ゲートへ向かっている。仕方がないので戦況を適応させる。
「地上待機している全装甲車は車列を組んで私の後に続け。距離100を保持しろ。随伴兵を含めた歩兵は合図と同時に地下より突入だ。穴に潜って待機。」
「それでは混雑します。」
ジョールヌイ中尉の声。
「ならば元より突入予定だった隊のみ待機だ。指揮はスコット軍曹に。」
「我々は基地側面、背面よりそれぞれ突入します。」
どこかの小隊の者が言った。
「許可する。合図を待て。」
「各隊、基地を包囲するように配置、合図と共に突入だ。」
『了解!』
指示をしているうちに車列が完成している。扉までの距離、およそ1200。
「空挺師団、降下用意だ。対空兵器はすぐに沈黙させる。」
『了解。』
「タチアナ。」
「何だ。」
「こいつの操作は隣に移して、戦況の整理と指示を頼む。」
「...了解。」
一瞬だけ機体が前のめりになる。が、すぐに立て直す。
「もういいだろう。よし、主砲発射用意。標的、正面ゲート!」
「主砲照準。目標、正面ゲート。」
「私に当てるなよ。まだだぞ...」
緊張が走る。距離500。
「全部隊、侵攻開始だ!」
戦車砲が火を吐き、正面ゲートが破壊される。
煙の中から幾千の射線が見える。
「展開しろ!怯むな、突入だ!」
巨人は薙ぎ払うように機関砲を発射する。
恐ろしい火力だ。座席までその振動が伝わってくる。
「先行します!」
後方から4台の戦車が追い抜いてゆく。
煙が晴れてみると、敵の勢力はあまり無いように見えた。
「対空兵器の破壊を優先しろ。」
『了解!』
基地の至る所で爆発が起こる。
「こちらC-2、A地区の対空兵器は全て沈黙!」
「こっちもだ、B-1、D地区の機械は制圧した。」
「B地区も殲滅を確認、C地区はどうなっている!」
「こちらC地区、ここに対空兵器はない。」
「その情報は信用するに値するな?」
「信用できないなら見に来ればいい!」
小隊どうしでの通信が騒がしい。
「こちらフーデリッヒ、私はこれより地下へ入る。突入した部隊はどうなった。」
「こちらA-1、現在何も発見できていません。ブロック3。」
「了解した。ブロック1より侵攻を開始する。手の空いた小隊は私に続け。」
「こちら103、空挺降下を開始する。」
「了解、対空兵器はもうない。安心して来い。」
「情報部だ、フーデリッヒ准将、そいつのメイン・ディスプレーに地下基地の設備の位置情報を送信する。」
「了解した、助かるよ。タチアナ。」
「任務に集中しろ。」
「はいはいっと...」
地上に兵士はほとんどなく、ここが研究施設であることを思い出す。
「地下に入る。離れるなよ。」
地下への入り口についた時、ほぼ全ての小隊が付随する形になっていた。
「こちらA-1、ブロック2。合流する。」
「了解、まっすぐ進め。ブロック1に入った。」
しばらく何もない通路を進む。
「A-1、2ブロックと1ブロックを接続する通路は封鎖されている。対爆扉だ。」
「フーデリッヒ了解。」
「別の道を探す、情報を持ってないか?」
「詳細な現在位置がほしい。」
「こちら...ん、待った、背後から何か...」
「対応しろ、我々も可能な限り早急に到着する。」
「あれは..待てっ、勝てるはずがない、開けろ、開けてくれ!!」
「何だ、どうした!」
「うわああああぁっ!!」
機関砲の音と共に、通信が切れる。
「くそっ...対爆扉はあちらから開けられるはずだ...」
「こちら情報部。全ゲート開放する。」
「一足遅い...ああ、よろしく。」
警報が鳴る。
「そうだ、前方、ブロック2に入るなら気をつけろ。巨人が4体いる。」
「4体...待てよ、彼らは進んでいるか?」
「ああ、後ろ向きにな。」
「こちらとの距離は。」
「400。次の通路を曲がれば目視で確認できるはずだ。」
「...対爆扉と彼らの距離は。」
「いい作戦だ、准将。」
「いいから教えろ、タチアナ。」
「150程度だ。」
「...了解した。」
私は巨人のハッチを開ける。
「おい!D-5!」
身を乗り出して後ろに向けて叫ぶ。D-5はバギーだ。
「何でしょうか!」
無線機から声。
「私にそれを貸せ!」
「は?!」
「貸せと言っている!飛び乗るから、前につけろ!」
「了解。」
走っていた歩兵が左に寄り、右側をバギーが走ってくる。
「准将!」
「動かすなよ...!」
バギーに飛び移る。後部座席の者を蹴ってしまいそうになったが、なんとか避けた。
「何をするおつもりで?」
「ハンドルを渡せ、降りろ。止めていい。」
「はい!?」
「降りろ!」
前席に移り、運転手と代わる。ブレーキを踏み込んで、停止。
「ご武運を。」
「ありがとう。」
敬礼をして、私は無線機を手にする。
「全隊、侵攻やめ。撤退だ。撤退しろ。」
「撤退...?!」
「繰り返す、全隊撤退。戦車を一台だけ残して行け。」
『了解。』
「D-1、残れ。」
「は、どうすれば。」
「この先の曲がり角から200の位置で待機。主砲発射用意はしておけ。」
「了解。」
バギーのアクセルを踏み込む。
「タチアナ、目標とゲートの距離!」
「230。」
「角からゲートの距離!」
「300。」
「分かった。頼んだぞ。」
角を曲がる。巨大な影があった。
「頼むぞ...こっちを向け...!」
ハンドルを固定して、アクセルを思いっきり踏み込む。
300、280、250、200、120...
車から飛び降りる。
「くあっ...!」
衝撃が全身を襲う。骨でも折ったかと思うほどだった。
バギーは最早止まらない。4体のうち、中央寄りの一体の右足に当たって大炎上した。
「ふふ...見たか...!」
痛む身体をなだめ、ゆっくりと立ち上がる。
と、残り3体の巨人が振り返る。
「D-1、全速力で走って主砲を撃て!右側だ!」
「了解!」
巨人の腕が持ち上げられる。
「間に合え...!」
私は走り出す。
正面に左側から戦車が現れ、主砲を一発だけ発射してそのまま右側へと走り去る。
命中したか、どうか。
それを確認することもなく、私はひたすらに走った。
後少しで通路だ...!
警報が鳴る。
対爆扉が閉まる音だ。
角まで後少し、後少し...!
しかし、何かが私の胸のあたりから飛び出す。
「っ...!?」
同時に、飛沫がそれに追従するように勢い良く噴きだした。
急激な寒気に襲われる。
後少しで...届くのに...
足が地面に取られて、私は地面に倒れる。
一切、音はなかった。
戦闘は終わったのか?そう思った直後、私の意識はそこにはなかった。




