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ある兄の話  作者: フーデリッヒ
新たな始まり
12/14

死の教訓

「准将、議長が直々に会いたいと言っています。」


「そうか。よかった。」


「予定日は明日、予定時刻は...」


正直、どうでもよかった。


人の命を救えない。そんな私がにくかった。


私は、もう現実とは戦いたくない。


十分戦った。現実とも、幻想とも。


だから、もう休みたい。少し休ませてくれ。そんな事すら考えていた。


「...聞いてますか!」


話をしていたロシア人将校が威圧する。


こいつも大事な人を失ったことがあるのかな。


ふと思う。


「もしも~し!」


手を顔の前で上下される。


ちかちかして気持ちが悪い。


しかし、こいつ、昨日は何を食べたのだろうか。


もしかして女房はいるのか。生きてるか?


生きてる人間と結婚するのは大変だろうなぁ...


「もういいです。私は確かに伝達しましたからね!」


「待て。」


機嫌悪そうにして背を向けた将校の腕をつかむ。


「まだ何か?」


挑発的な態度を取られた。当たり前か。


「伝達できてない。伝達っていうのは相手に伝わって初めて伝達になる。今のではひとりごとだ。」


軽く舌打ちしたのが聞こえた気がしたが、聞こえなかったことにしておく。


2度目(私にとっては初めて)の説明を終え、疲れきった様子でこちらの出を伺う。


「...以上です。ご質問は。」


「完璧な説明だ。」


「ありがとうございます。では私はこれで...」


「ん。ご苦労だった。悪かったな。」


「謝られることなんてありませんよ。」


そう言い捨て、さっさと去って行ってしまった。


要するに、私は壮大な計画に参加させられる。それだけだった。


ブリーフィングへの招集だ。


家に帰ると、タチアナが無言の歓迎。


しかし私はそれを回避できなかった。


次の作戦について考えながら扉を開けたもので、回避できなかった。


「どうした?」


「人を殴ってどうしたはないだろどうしたは。」


「普段は避ける。だから本気で空振りしてる。」


「そうか。」


「だが今日は避けない。避けないのが悪い。」


「ああ。」


「...どうした、悩みか。」


珍しく気遣ってくれているのだろうが、鬱陶しかった。


「いや。」


「そうか。」


「ああ。」


「そう。」


「いいからそこをどいてくれ...」


「話すまでどかない。」


「分かった、ならどかなくてもいい。」


「...?」


一瞬考えるその隙に割って家に入る。


「あっ...!」


「どくなよ?」


「どくも何も無い。」


そう言うと彼女は振り返って私の後を歩く。


家に入ると寂しかった。


「おかえり、とでも言おうか?」


「素直におかえりという言葉で私を迎えてくれ。」


「つまらない。」


「というかお前、機械に戻ったのか?」


そう、出会った時と一緒だった。


「機械ではない。」


「はいはい。そうですか。」


コンピュータの前に腰掛け、電源を入れる。


「おかえりなさい。」


「シミュレートをしたい。シミュレータ起動。」


「了解。」


「部隊の編成と、敵情報をインプットする。基本作戦を練ってくれ。」


「了解、少々かかります。」


ナタリアは従順だ。さすがコンピュータ。


「構わん。」


『ナタリア、コーヒー』


「タチアナ、お前の声には反応しないぞ。」


「かしこまりました。」


「えっ」


何故こいつがタチアナの声に反応したのか。しかしコーヒーを淹れる機能など備わっていない。一体何をするつもりなのか、ナタリア。


「....」


「........」


沈黙が場を制した。


「配置完了しました。シミュレートを開始します。」


何もなかった。


私は結局その後シミュレータを見て、微調整をして、作戦計画書としてそのまま提出した。


ふと時計を見る。


22時も半分を過ぎようとしていた。


「...タチアナ。寝なくていいのか。」


「言われなくても寝る。それよりご飯を。」


「はいはい...作るよ。」


重い腰を上げて私は料理を作る。


喧騒で既に瑞葵の事は忘れていた。


が、その晩。


ふと目を開けると、私は家の真ん中に立っていた。


後ろから呼ぶ声がする。


「お兄ちゃん」


いつもの屋上ではない。何故だ?何故家の中なのだ?


「何だ。」


私の声がする。


しかしおかしい、私は一言も発していない。


「何かして遊ぼうよ~!」


「悪いな、仕事が忙しいんだ、後で。」


「うぅ~...はい...。」


恐る恐る振り返ると、私と瑞葵がいた。


瑞葵は書類をまじまじと見ていた。


私はというと、液晶画面とにらめっこだ。


壁一枚挟んで、タチアナがテレビを見ている。


懐かしい光景だった。


感情が込み上げてきて、熱い水滴となって頬を通って滴る。


あたりまえがあたりまえだった時。


妹のときもそうだった。


人間は後悔する生き物だ。


今この瞬間が人生で最も幸せかもしれない。


あたりまえを失って初めて、それが幸せだったと気づく。


人生なんてそれの繰り返しだ。


過去を振り返って、「ああ、あの頃は」。


それの繰り返し。


今この瞬間は辛いかもしれない。


だけど、ちょっとの幸せで、その辛さが報われたと思える。


だからきっと皆、死んでから思い返してみて、「私の人生、幸せだったな」って思うんだ。


その時、私は決めた。


辛い、苦しい、そう思っている時間をなくそう。


そして、例え刹那ほどの時間でも使って、少しでもいいから進もう。


そして、本当に、幸せだったと思える人生を歩めるように。


瑞葵はそれを教えてくれた。


瑞葵だけじゃない。当然妹もだ。


私は幸せ者だった。


そして、朝日に乱暴に起こされる。


...寝ていた。


寝息がする。見ると、すぐ横でタチアナが寝ていた。


きっとこの子と一緒に過ごせて、私も今幸せなのだろう。そう思った。


そして、軽く額に口付けをし、再びコンピュータとにらめっこをした。


そこには現実があった。


私はすぐに北へ狩り出される。


身支度をして、もう一度すっかり寝入っているタチアナを見る。


「...行ってきます。」


私が言うべきは、それだけであった。

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