更なる悲劇
私が家路に就いた時、カバンの中で電話が鳴った。
「もしもし」
「あ、准将...こんな時間に申し訳ありません...」
「気にするな。用件を。」
「えっと....大変言い難いのですが...」
「それは相手が私だからか?それとも君が誰にも言いたくないという事か?」
「いずれ分かる事ですが...誰から伝えられるかって結構大事なことだと思うんです...」
「構わん。」
「ついさっき...試験飛行中のXSSA-Pが空中分解しまして...」
「ん...?」
聞き覚えのある名前だった。
超音速支援航空機の試験型のプロトタイプだ。
「生存者は確認されていません...」
「誰が乗っていた?」
「.....」
電話の向こうからため息ともとれる声がした。
「遠慮するな。」
「ホーキンス博士と妻です...」
「っ...!」
それは聞いたことのある名前だった。
航空工学の権威である。
私は彼に航空工学を学んだ。
「そうか...それは...」
「博士は分解時にすでに死んでいたとみられていますが、妻の方は溺死です...」
「分かった、もういい。」
「失礼します...」
そうして私は家に帰ると、瑞葵が飛びついてきた。
「お兄ちゃんっ!」
「よしよし...どうした?」
「寂しいけど今日で戻るね!」
「ん、そうか。ちなみにお前の両親とは会ったことがないなぁ...」
「会ってみる?」
私は昔から気になっていたのだ。
「ああ、良ければ。」
「じゃあ明日、えっと...この後駐屯地に行って...」
少し話を聞いたが、わけがわからなかった。
駐屯地からヘリコプターで移動して太平洋へ行くとの事だった。
ちゃんとIDも持っていた。
嫌な予感しかしなかった。
「ちなみに、仕事は何をしてるんだ?」
「ん~...」
どうも分からないらしい。
「でも...そうか...」
しかし何故太平洋なのだろうか。
そんなことを思いながら、0時を越した。
彼女とともに駐屯地へ向かった。
彼女はIDを見せ、とても不思議がられながらもヘリコプターへ乗り込んだ。
私も続いて乗って、目的地まで向かった。
その際、副操縦士に何気なく聞いた。
「どこへ向かっている?」
「どこってお前!」
そう言って後ろを向いたその顔は見覚えがあった。
「じゅ...准将!?」
「お前ってお前...」
「すみませんっ!」
「集中しろ!」
操縦士が注意する。
副操縦士は渋々と前を向いたが、結局私は目的地の詳細を聞けなかった。
しかし到着した場所は、明らかに我が議会のものだった。
そこでそこにいた一人に話を聞いた。
「何を待っている?」
「准将じゃないですか、XSSA-Pですよ。」
「な....にっ.....!?」
一瞬恐ろしく強い鼓動が私の視界を揺らした。
「どうかしましたかっ!?」
「お兄ちゃん!?」
私はふらつきながら2歩、3歩と力なく退く。
「嘘だ...何を言ってるんだ...!」
疑問が確信に変わった瞬間だった。
そう、肝心の彼らになぜか情報が行ってなかったのだ。
「准将!落ちます!」
慌てて一人が私を引っ張る。
海にこそ落ちなかったものの、体勢を立て直せなかった私は引っ張られた方向へ傾き、膝をつく。
「お兄ちゃん!どうしたのっ!?」
「そうか...間違いだったんだな...」
私はそこで1つの仮説を立てた。
きっと墜落の報告は誤報だったんだ。
違う航空機が落ちたんだ。
地上待機している班に連絡が行ってないのはそのためだ。
「准将...とりあえずお座りになって...」
「いや、大丈夫だ...」
「特殊兵器試験隊より電報です!」
「何だ!」
一人がその場を去ってゆく。
少し離れたところで話をし、またこちらへ戻ってくる。
「准将、少し。」
呼ばれて今度は私が向かう。
「何だ...」
「XSSA-Pのことですが...」
「.....」
「ボギーからの攻撃に対し対抗した形跡はありましたが、ベイルアウトはしていませんでした。」
「そうか...」
「友軍は当該空域にはいませんでした。」
「何故...護衛機は!」
「直前に帰投してます。」
「...ご苦労。解散。」
この単純な一言ですら搾り出すのが大変だった。
「はっ!」
ぞろぞろと退却を始める地上班。
「お兄ちゃん...?」
心配そうな顔をして瑞葵が近づいてくる。
「ああ、あの...」
「何でみんな帰っちゃうの...?」
「あのな、瑞葵...」
頭に手をおいて目を見る。
「....」
決意の眼差しだった。
「もう...帰ってこないよ...」
「っ...!」
「帰ってこないんだ...」
「何...言ってるの...?」
「お前の父さんと母さんは...」
「死んだ....の......?」
「ああ。」
「そんな......」
彼女は泣いていた。
叫ぶこともなく、暴れることもなく、ただただ涙を流していた。
彼女はそのまま無言でいた。
「....家に帰せ。」
「准将は...」
「私がいると邪魔だ。駐屯地で降ろしてやれ。」
「は、はっ!」
そう言うと彼女を抱きかかえた隊員はチヌークに乗り込み、飛び去っていった。
「...」
「准将...」
「いいんだ。」
それだけ言って、私は博士とその妻の遺体を確認に行った。
翌日。私が家に戻ると、瑞葵は布団を被っていた。
「タチアナ、瑞葵は...」
「昨日、家に戻ってからずっとこう。」
なにがあったの?と続けて言いたそうな感じだった。
「ちょっと...いいか...?」
瑞葵の方へ向かう。
そしてゆっくりと手を伸ばし、彼女の頭に置く。
当然反応はなかった。
「やめなよ、シュタイナー君。」
そう、後ろから肩に手を置かれた。
それからしばらく、彼女は布団から出なかった。
「俺は...何もできないのか...」
「違うよ。」
「何が違うんだよ...」
「君は悪くない。」
「何もできないのが悪いことじゃないって言うのか!」
「落ち着いてよ。シュタイナー君。」
「俺は....無力すぎる...」
「人間なんてそんなものだよ。」
「.....」
「人間は神には勝てない...運命には抗えない...」
「お前は...そう思うか。」
「そうして、こうなってる。」
「俺は...それを曲げてでも...」
「もう、守れない。」
「何で...」
「彼女はもう死んだ...」
「いや...俺の心の中で生きてる...!」
「それはね、”記憶”って言うの。」
彼女の突きつけた現実はあまりに厳しかった。
だがそれは現実じゃない。
一般論でしかない。
私は妹がいつでも私のそばにいてくれるこの瞬間を...現実だと思っている。
「シュタイナー君は...この子を守れるのかな?」
「当たり前だ。」
自信なんてなかった。
根拠なんてなかった。
でも、そう信じることがきっと運命を作るんだと、私は信じている。
「お兄ちゃん...」
そして彼女が口を開いた。




