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ある兄の話  作者: フーデリッヒ
取り戻せない日常
10/14

更なる悲劇

私が家路に就いた時、カバンの中で電話が鳴った。


「もしもし」


「あ、准将...こんな時間に申し訳ありません...」


「気にするな。用件を。」


「えっと....大変言い難いのですが...」


「それは相手が私だからか?それとも君が誰にも言いたくないという事か?」


「いずれ分かる事ですが...誰から伝えられるかって結構大事なことだと思うんです...」


「構わん。」


「ついさっき...試験飛行中のXSSA-Pが空中分解しまして...」


「ん...?」


聞き覚えのある名前だった。


超音速支援航空機の試験型のプロトタイプだ。


「生存者は確認されていません...」


「誰が乗っていた?」


「.....」


電話の向こうからため息ともとれる声がした。


「遠慮するな。」


「ホーキンス博士と妻です...」


「っ...!」


それは聞いたことのある名前だった。


航空工学の権威である。


私は彼に航空工学を学んだ。


「そうか...それは...」


「博士は分解時にすでに死んでいたとみられていますが、妻の方は溺死です...」


「分かった、もういい。」


「失礼します...」


そうして私は家に帰ると、瑞葵が飛びついてきた。


「お兄ちゃんっ!」


「よしよし...どうした?」


「寂しいけど今日で戻るね!」


「ん、そうか。ちなみにお前の両親とは会ったことがないなぁ...」


「会ってみる?」


私は昔から気になっていたのだ。


「ああ、良ければ。」


「じゃあ明日、えっと...この後駐屯地に行って...」


少し話を聞いたが、わけがわからなかった。


駐屯地からヘリコプターで移動して太平洋へ行くとの事だった。


ちゃんとIDも持っていた。


嫌な予感しかしなかった。


「ちなみに、仕事は何をしてるんだ?」


「ん~...」


どうも分からないらしい。


「でも...そうか...」


しかし何故太平洋なのだろうか。


そんなことを思いながら、0時を越した。


彼女とともに駐屯地へ向かった。


彼女はIDを見せ、とても不思議がられながらもヘリコプターへ乗り込んだ。


私も続いて乗って、目的地まで向かった。


その際、副操縦士に何気なく聞いた。


「どこへ向かっている?」


「どこってお前!」


そう言って後ろを向いたその顔は見覚えがあった。


「じゅ...准将!?」


「お前ってお前...」


「すみませんっ!」


「集中しろ!」


操縦士が注意する。


副操縦士は渋々と前を向いたが、結局私は目的地の詳細を聞けなかった。


しかし到着した場所は、明らかに我が議会のものだった。


そこでそこにいた一人に話を聞いた。


「何を待っている?」


「准将じゃないですか、XSSA-Pですよ。」


「な....にっ.....!?」


一瞬恐ろしく強い鼓動が私の視界を揺らした。


「どうかしましたかっ!?」


「お兄ちゃん!?」


私はふらつきながら2歩、3歩と力なく退く。


「嘘だ...何を言ってるんだ...!」


疑問が確信に変わった瞬間だった。


そう、肝心の彼らになぜか情報が行ってなかったのだ。


「准将!落ちます!」


慌てて一人が私を引っ張る。


海にこそ落ちなかったものの、体勢を立て直せなかった私は引っ張られた方向へ傾き、膝をつく。


「お兄ちゃん!どうしたのっ!?」


「そうか...間違いだったんだな...」


私はそこで1つの仮説を立てた。


きっと墜落の報告は誤報だったんだ。


違う航空機が落ちたんだ。


地上待機している班に連絡が行ってないのはそのためだ。


「准将...とりあえずお座りになって...」


「いや、大丈夫だ...」


「特殊兵器試験隊より電報です!」


「何だ!」


一人がその場を去ってゆく。


少し離れたところで話をし、またこちらへ戻ってくる。


「准将、少し。」


呼ばれて今度は私が向かう。


「何だ...」


「XSSA-Pのことですが...」


「.....」


「ボギーからの攻撃に対し対抗した形跡はありましたが、ベイルアウトはしていませんでした。」


「そうか...」


「友軍は当該空域にはいませんでした。」


「何故...護衛機は!」


「直前に帰投してます。」


「...ご苦労。解散。」


この単純な一言ですら搾り出すのが大変だった。


「はっ!」


ぞろぞろと退却を始める地上班。


「お兄ちゃん...?」


心配そうな顔をして瑞葵が近づいてくる。


「ああ、あの...」


「何でみんな帰っちゃうの...?」


「あのな、瑞葵...」


頭に手をおいて目を見る。


「....」


決意の眼差しだった。


「もう...帰ってこないよ...」


「っ...!」


「帰ってこないんだ...」


「何...言ってるの...?」


「お前の父さんと母さんは...」


「死んだ....の......?」


「ああ。」


「そんな......」


彼女は泣いていた。


叫ぶこともなく、暴れることもなく、ただただ涙を流していた。


彼女はそのまま無言でいた。


「....家に帰せ。」


「准将は...」


「私がいると邪魔だ。駐屯地で降ろしてやれ。」


「は、はっ!」


そう言うと彼女を抱きかかえた隊員はチヌークに乗り込み、飛び去っていった。


「...」


「准将...」


「いいんだ。」


それだけ言って、私は博士とその妻の遺体を確認に行った。




翌日。私が家に戻ると、瑞葵は布団を被っていた。


「タチアナ、瑞葵は...」


「昨日、家に戻ってからずっとこう。」


なにがあったの?と続けて言いたそうな感じだった。


「ちょっと...いいか...?」


瑞葵の方へ向かう。


そしてゆっくりと手を伸ばし、彼女の頭に置く。


当然反応はなかった。


「やめなよ、シュタイナー君。」


そう、後ろから肩に手を置かれた。


それからしばらく、彼女は布団から出なかった。




「俺は...何もできないのか...」


「違うよ。」


「何が違うんだよ...」


「君は悪くない。」


「何もできないのが悪いことじゃないって言うのか!」


「落ち着いてよ。シュタイナー君。」


「俺は....無力すぎる...」


「人間なんてそんなものだよ。」


「.....」


「人間は神には勝てない...運命には抗えない...」


「お前は...そう思うか。」


「そうして、こうなってる。」


「俺は...それを曲げてでも...」


「もう、守れない。」


「何で...」


「彼女はもう死んだ...」


「いや...俺の心の中で生きてる...!」


「それはね、”記憶”って言うの。」


彼女の突きつけた現実はあまりに厳しかった。


だがそれは現実じゃない。


一般論でしかない。


私は妹がいつでも私のそばにいてくれるこの瞬間を...現実だと思っている。


「シュタイナー君は...この子を守れるのかな?」


「当たり前だ。」


自信なんてなかった。


根拠なんてなかった。


でも、そう信じることがきっと運命を作るんだと、私は信じている。


「お兄ちゃん...」



そして彼女が口を開いた。

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