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ヒドインズ・ファイル  作者: 夕狩
『光の乙女』カティア・フルーテの場合

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仮にこれが戯曲としても―― ディタイト王国での冤罪事件④

 ミハイルと同様に、リリアンはざわつく群衆をものともせず凛として歩いていく。ただし、ざわめきの内容は少々異なっていた。


「おお、リリアン嬢」


「やはり信じ難いな……」


「まあなんて素敵……」


「一体何をなさるんだろう?」


「あの自信、きっと勝算がおありだぞ」


「見てあの首飾りのダイヤモンド。きっと去年話題になったものだわ、羨ましい」


 先が見えない展開に不安は残れど、人々がリリアンに向ける顔はおおむね明るい。その姿の華やかさに断罪と反論の最中ということを忘れ、憧憬の眼差しを向けたり興奮して囁きあう婦人方もいる。その姿は一般的に思い描かれる罪人像とはかけ離れていた。


 父譲りの黒い髪は優雅なシニヨンに結い上げられ、ヘアピンについた小さなダイヤモンドたちが夜空の星々のように煌めいている。ピーコックグリーンのドレスは艶やかな最高級のシルクで作られており、まるで柔らかく豊かな光そのものを纏っているようだ。アクセサリーに使われている宝石はダイヤモンドとアメジスト。彼女の菫色の瞳とよく似た輝きを放っている。


 国内最大級のダイヤモンドを胸に光らせながら王のもとまでやってきたリリアンは、淑やかにカーテシーを行った。


「国王陛下、ならびにお集まりの皆様、ごきげんよう。お騒がせして申し訳ございません」


「よい。光の乙女への加害について、其方の言い分を聞こう」


 その言葉を聞いたリリアンは王の目をまっすぐ見て言った。


「挙げられた罪状、全て身に覚えのないことです。一つずつご説明いたします。まず、光の乙女の私物を取り上げたり壊したりした疑いについて」


 そこで初めて、公爵令嬢は婚約者の方を向いた。


「証拠として出されたそちらのブローチ。ミハイル殿下は先ほど、私がこれを床に叩きつけた上踏み潰したとおっしゃられましたね?」


「ああ。手弱女の力でもそれだけやれば無残に壊せるだろう」


 忌々しげに菫色の目を睨む王太子。グランバルト公爵が、近くにいた侍従に一枚の紙を手渡す。


「そのブローチをはじめ、壊された品物を調査した結果がその書面にまとめてあります。この際です、全て読み上げてください」


 リリアンの指示通り、侍従は会場中に響かせんと声を張って読み上げ始めた。


「……ブローチの状態から、内部から爆発などによって全方向に力が加わり破壊された可能性が高い。また、ブローチの破片から微量の魔力が検出され、リリアン嬢の魔力とは性質が大きく異なることが確認されている……」


「……光の乙女が燃やされた私物だと主張するハンカチには、ダヴィッジ侯爵家の家紋に酷似した狼らしき刺繍の一部が確認出来る。ハンカチの色や素材なども総合すると、ダヴィッジ侯爵家子女であるキャロライン嬢が在学中に紛失したハンカチである可能性が高い。紛失の経緯については不明だが、『友人から贈られた』と光の乙女が証言した三年生の夏の時点では、キャロライン嬢がハンカチを使っているのを複数人が目撃している……」


「取り上げたとされる品物については早々に廃棄したのだと言われると反論が難しいですが、壊された物品に関しては全てに反論が出来ていると思います」


 侍従が読み終わり、今度はリリアンが少し大きな声を出した。そうしないとかき消されるほど、背後の招待客が囁きを交わしだしたのだ。


「工作だ、証拠を捏造してまでリリアン嬢を陥れたのだ」


「きっとハンカチは盗まれたのよ! 光の乙女がなんてこと……」


「王太子も加担して、恐ろしいことになった」


 カティアの頬を汗が伝い、筋が出来る。旗色がこの上なく悪いことにようやく気づいたミハイルが、サッと顔色を変えて叫んだ。


「捏造だ! リリアンの生家の調べなど、信用出来ない! グランバルト家の力なら、いくらでも捏造出来るだろう!」


 リリアンはそっと頭を振る。イヤリングが揺れ、アメジストがキラキラと輝く。


「グランバルト家には矜持がございます。己の利益のために事実を曲げる道など選びません。もちろん、正式な裁判の折にはあらためて第三者に精査していただきましょう。私はただ、真実を明らかにしたいだけなのです」


 アメジストとよく似た色の瞳が二人を捉える。しかしいつもの微笑みはない。


「そもそも、調査には王家の人員にもご協力いただいております」


「な……!」


「私が父と国王夫妻にお願いしました。私なりに努力しているものの殿下の信頼を得られないことが気がかりで、原因を知りたいと。調べた結果見つかった複数の不可解な点についてさらに詳しい調査がなされ、浮き彫りになった事実の裏付けのためにさらに聞き込みや検証が行われ。先ほどの調査結果は、殿下やカティア様の訴えのうち、幾度とない調査で判明した事実と食い違っている箇所を挙げさせていただいただけです」


 ミハイルの体が戦慄く。今宵の断罪劇で味方につけるはずだった両親が、リリアンの求めに応じて自分の身辺を洗わせていた。恐らくその結果を知った上で、ミハイルの言葉を聞いていた。グランバルト公爵が一切もたつかず調査結果を出してきた用意のよさからして、証拠も主張も全てがリリアン側に筒抜けだったのだ。最初から負け戦だった。そして、大変めでたい頭をしている彼にも、敗者が受け取るものがおぼろげながら見えてきていた。

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