凶風と兆し
切った腕からあの暴風がヴァエルに打たれた。ここからじゃ間に合わない─
「…」
その時、僕は見た。ほんの一瞬だったけど、ヴァエルのクリスタルが、義手が、義眼が、髪色が黒く濁った。さっきまでじゃ考えられないほど素早く、魔法を使った。そして、風を防いだ。
気にはなるけど、あいつの強さは信頼している。目の前で見てきたから知っている。だけど、この風は僕以外が当たればまず間違いなく死ぬ。こいつは、ここで殺さないといけない。
「はぁ!」
─────
何が起きた……?確かに風は目の前に迫ってきていて…。ワタシが防いだのか……?何も分からない。
「痛っ…」
全身に痛みが走る。風に当たっ…いや、外傷は無い。 そして魔法の放出が安定しない。ここまで強くなってきて、いざとなった時は木偶の坊だと……。ふざけるなよ。ワタシは何のために強さを求めたんだ、生きるためだろ?動けよ。動けよ、この体ぁ!
「らぁっ!」
─────
たまたまだったのか、それがアイツの運命だったのかは分からない。だが、ブレイの斬撃と、ヴァエルの魔法が同時にアイツの首を切り裂いた。
魔力が抜けていく。アイツは動かなくなった。
「あ……」
ワタシの体からも力が抜けていく。視界が黒く染まっていく……
「おい!大丈─」
─────
「──こいつの願いがそうさせたのかぁ?いや…」
「何の…こと?」
「お、起きたみてぇだな。早速で悪ぃが、ちょっと話を聞きたくてな。あぁ、お前をここまで運んできたのはブレイだから後で礼しとけよ」
「分かった、話って?」
「吸魔族に魔力を与えられた…あー、名前なんつったかな。まぁいいや、そいつの話も聞きたいんだが、それよりだ。お前、戦ってる時になんか変なこと起きなかったか?」
「反応できないほど速く、目の前に迫ってきてたはずの風を防げたり、そこから体に痛みが走って魔法の放出が上手くいかなかったりした……とか」
「その時、お前何か思ったりしたか?いやこれも説明すんのむずいんだけどな…なんか無いか?」
「……いつも、生きたいとは思ってる。でもその時は死にたくない。って思った、かも」
「なるほど、同じような意味でもそれだと心の持ちようが違うわな。死にたくないは正か負かで言うと、負寄りだろ。で、こっからなんだが。負の感情っつーのは、時に正の感情よりも強い力を発揮させることがある」
「はぁ」
「それでほんの一瞬限界を超えれたって感じだろ。たぶんだけどな」
「たぶん?」
「実際、現場見てねぇからあんま分かんねぇんだよな。ただまぁ、ブレイとお前の証言を合わせるとそうなる。んで、その状態には名前があってな」
歴史に名を残す魔法使いは、皆それへと至っていたと言う。その名は、魔力高循環状態。常人ではありえない速さで魔力が全身を駆け巡り、最高効率、最高速度で魔法を行使できるようになる。魔力出力は努力で伸ばせないが、見かけ上は出力が上がったように見えるほど速く放出できる。
「お前にはそれに至る才能があったっていう話だな。だが、お前のそれは不安定も不安定、超不安定だ。本来の魔力高循環状態は、痛みも無く、安定している。そして何より、自身の魔力の色が髪色なんかに現れる」
「でも、ワタシは黒く濁ったって…」
「黒く濁った詳細は分かんねぇが、それが正しい状態では無いということ、それに至らせたのが負の感情であるということなんかが関係してるとは思う。んで、痛みについてだが無理矢理、循環速度を上げたせいで全身ぶっ壊しながら魔法を使ったんだろう。その後の魔法の放出がおぼつかなかったのはそのせいだな」
「なるほど」
「こればっかりは感覚を覚えてゆっくり確実に覚えていくしかねぇ。人によって全く違うからな。お前の言い分じゃ覚えてねぇだろうが、一度出来たんだ。焦るなよ」
この世界では魔力が血液の代わりなので、魔力高循環状態は全身の血管、血液を知覚して、血液の流れを爆速にするようなもの。調整を間違えると血管が切れます。ヴァエルはそうなってました。ヴァエルは魔族なのでセーフですが、普通の人間がこれやると結構ヤバいです。




