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いらない子と思われていた令嬢は  作者: 青空一夏


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5/10

5 家族の時間を取り戻そう 

 帝都は活気に満ちあふれ、石畳の広い大通りには豪奢な馬車が行き交い、仕立屋や宝石商の店舗が連なり、重厚な木製の看板が通りに並ぶ。

 広場では噴水が涼やかな音を響かせ、貴族や富裕層が優雅に散策している姿が目立つ。市場の方からは美味しそうな香りが漂い、露天商の声が絶え間なく響いている。そこでは、商人たちが商品を競って通りに並べていた。街は洗練された文化と繁栄が融合し、どこを見ても活気と華やかさに満ちていた。


 

 帝都の高級仕立屋に足を踏み入れると、目の前には絢爛豪華な見本ドレスがずらりと並び、その美しさに一瞬息を呑んだ。柔らかな布地が光を受けて優雅に輝き、繊細な刺繍がまるで生きているかのように見える。その場の雰囲気に圧倒される中、ふと横を見ると、お母様とお兄様が私を温かく見守っていた。彼らの存在が、この特別な瞬間をさらに輝かせる。


 職人たちは真剣な眼差しで私を見つめ、丁寧に体の寸法を測りながら、私に最もふさわしいデザインを考え始める。今までの生活では想像もできなかったような、敬意に満ちた口調と態度で話しかけられ、まるで夢の中にいるかのようだった。


「まずは30着ほど作っていただきましょうね。どんな色もデザインも、ビクトリア(アグネス)には似合うと思うわ」

 お母様はにっこりと微笑む。私が迷っていると、お母様はたくさんの高価な生地を並べさせ、似合いそうなデザインを次々と選んだ。


 30着って……まるで王女様みたい。そう思った瞬間、自分が皇女様だということを思い出す。このような贅沢はなかなか慣れそうにない。


 次に訪れたのは、宝石商の店。ガラスケースの中には、まばゆいほどの宝石が並び、私は目を輝かせながら見入った。

 「どれでも好きなものを選びなさい」

 そう促され、虹色の光を放つオパールのペンダントを手に取った。


「他に欲しいものはないかい?  ルビーでもサファイアでも、ダイヤでも好きなものを選べばいい」

 お兄様の声に、私は驚いて顔を上げた。その眼差しは穏やかでありながらも、私の欲望を全て叶えようという決意が込められていた。


「お兄様ったら。私はそんなに宝石はいらないです。このオパールだけで充分だわ」


「いや、これは単なる贅沢じゃない。皇女としての務めだ」

 お兄様は真剣な表情で言葉を続けた。

「ローマムア帝国が最強であり、繁栄していることを示すのは重要なことだよ。諸外国に与える印象も、我が国の未来に関わる。だからこれは見栄などではない。必要なことなんだ。これから、ビクトリア(アグネス)は公の場にたくさん顔をだすことになるからね」


 そう言うと、お兄様は一瞬の迷いもなく宝石商に向かい、私の頭を撫でながらおっしゃった。

「こちらからあちらまで、すべてのショーケースにある品を皇宮に届けてくれ」

 私は呆気にとられてしまう。


ビクトリア(アグネス)は心配しなくていい。皇女様にはこれぐらいの宝石は必要さ。なんといっても、私の双子の妹だ。今まで辛い時間を過ごしたぶん、これからはこの兄が守ってやる」 


 昼食には三人でレストランへ向かった。豪華な料理が並ぶテーブルに座りながらも、私は料理そのものよりも、お兄様やお母様が自分に優しく話しかけてくれることが何よりも嬉しい。


「どうだい?  美味しいかい?」

 お兄様はそう尋ねながら、私のお皿にどんどん料理を盛り付けた。こんなに食べられないです、と文句を言えば、残したら自分が食べると笑った。

 

「そうよ。残してもいいから、好きな物を好きなだけ召し上がれ」

 お母様は私の髪を愛おしげに撫でた。その温かい眼差しに私の目が潤む。


「はい、お母様。ですが、私はお母様とお兄様に優しく話しかけられるだけで胸がいっぱいで……とてもたくさんの量は食べられません」


 その瞬間、お母様は感情に押し流されるように、私をそっと抱きしめた。長い間、娘を失った喪失感に耐えてきた母親が、やっと取り戻した大切な存在を、二度と手放すまいとするかのように。


 「生まれた時からずっとあなたの側にいて、見守りたかった……」

 涙を浮かべたお母様の言葉が震えながら響く。私もまた、お母様の温もりを感じながらその体をしっかりと抱き返したのだった。


 お兄様はそんな私たちを見守りながら、誓いの言葉を口にした。

 「失われた時間は決して取り戻せないが、これからはこの家族が一つになり、誰よりも幸せでいられるように守り続けるよ」と。


 私たちは今、過去の失われた時間を埋めるように、ゆっくりと家族の絆を取り戻していた。


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