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いらない子と思われていた令嬢は  作者: 青空一夏


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21 自分も頑張りたいビクトリア 

 ♦♢ビクトリア(アグネス)視点



「お兄様! どうしてオリバー様をまたスペイニ王国に行かせるのですか?」


 私は不満げに眉をひそめ、お兄様に訴えた。私はオリバーを案じる気持ちでいっぱいになっている。


「オリバーが自ら望んだことだ。ビクトリア(アグネス)は、彼の決意を尊重しなければいけないよ」


「酷いです。オリバー様は命がけでスペイニ国王とその部下達を捕らえてきたのですよ。それなのに、またあの荒廃した土地に行かせるなんて……」


「その働きに対する報酬はすでに与えたよ。ビクトリア(アグネス)に毒をかけようとした者たちの命を助けたことを忘れているのかい? 皇女に害を与えた者は、本来なら極刑に処せられるべきなんだ。だから、彼がビクトリア(アグネス)()()()()()()を得るには、さらなる試練に立ち向かう必要がある」


 お兄様の冷静な言葉に、私は口を閉ざし、心の中に複雑な感情が渦巻いた。その言い分は理解できるけれど、それでも心がざわつくのを抑えられない。今のオリバー様が、どれほど自分に愛と忠誠を誓っているか、私は誰よりもわかっている。それなのに、オリバー様が再び過酷な任務に赴かなければならないことを、ただ見守るしかできないことが、私には悔しくてたまらなかった。


 その足で、私は王宮の敷地にある騎士団の訓練場へと向かった。石畳の道を歩きながら、自分にできることは何かと必死に考える。


 訓練場では、オリバー様が騎士たちと剣を交えていた。額には汗が浮かび、真剣な表情が彼の覚悟を物語っていた。


「どうしました? 顔色が悪いですよ」


 オリバー様は私の不安そうな顔を見て、剣を収めると穏やかに微笑みながら、こちらに駆け寄ってくる。


「オリバー様が、またスペイニ国に向かうと聞きました。お兄様は酷いです……」


 私の声は少し震えていた。オリバー様が危険な地へ再び向かうことに耐えられない。どれだけの覚悟を抱いているか、私にはよくわかる。だからこそ、彼の無事を祈るしかできない自分がもどかしくて仕方ない。


「それだけ、アレクサンダー陛下から信用されているということです。僕はとても光栄に思っています。それに、なによりこの任務を達成すれば、ずっとビクトリア(アグネス)様の隣にいることができる。僕にはなによりのご褒美です」


 オリバー様は迷いのない眼差しで、きっぱりと答えた。さらに私に向かって言葉を紡ぐ。


「待っていてください。僕はビクトリア(アグネス)様のためなら、なんでもできる。だから、信じていてください。あなたのもとに元気な姿で、きっと戻ることを誓いますよ」


 その言葉は、私の胸に深く刻まれた。オリバー様の信念と決意が痛いほど伝わってくる。ならば、自分にもできることがあるはずだ、と私は心を強くした。


 ――そうよ! 私もこの手で、オリバー様のためにできることをするのよ。オリバー様の手助けがしたいの。スペイニ国民のためにも、なにができるか考えなくては!


 私は心に決めると、まずはスペイニ国王の悪政で虐げられていた人々――特に子供や女性たちを、ローマムア帝国へ招く計画を立てた。ただ保護するだけでは意味がない。彼らが自分の足で生きていけるようにすることが、いずれオリバー様が立て直そうとしている国の力になる。そう考えたからだ。


 そんなわけで、私は皇女宮の一角に設けられた教室で、スペイニ国から来た子供たちに技術を教えることになった。広い室内には布や裁縫道具が並び、見慣れない光景に、子供たちは落ち着かない様子で視線を泳がせていた。


 私自身、フリートウッド王国では男爵令嬢として、決して恵まれた環境で育ったわけではない。心の拠り所を求めて、一人で裁縫や刺繍を覚えた日々がある。だからこそ、針を持つ手の不安や、失敗する怖さも、よく分かっていた。


「まずは、この布で簡単な袋を作りましょう」


 そう声をかけると、一人の少女が恐る恐る手を挙げた。

「失敗しても……いいの?」


「もちろんよ。失敗しても誰も怒ったりしないわ」


 そう答えて、少女の手元を見守る。縫い目は歪み、糸も絡まっていたけれど、途中で投げ出さなかった。その袋が形になった瞬間、少女の目が、はっと見開かれた。


「……これ、売れるかな?」


 その一言に、私は思わず微笑んだ。

「ええ。きちんと作れたら、きっとね」


 教えていたのは裁縫だけではない。薬師を招いて薬草の見分け方や簡単な薬の作り方を学ばせ、園芸についてはアルバートが基礎から教えた。どれも、生きていくために必要な知識ばかりだ。


 子供たちは次第に自分から質問をするようになり、教室には笑い声が増えていった。ただ守られる存在だった彼らが、「できること」を増やしていく。その変化を、私は確かに感じていた。


 そして帰国の日が近づく頃には、子供たちは胸を張って帝国を後にしていった。この子たちが持ち帰るのは、技術だけではない。生きていけるという実感だ。


 それはきっと、オリバー様が再建しようとしている国を、内側から支える力になる。

 ――だから私は、これでいいのだと思った。

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