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♦♢♦♢ビクトリア視点
「オリバー様! お帰りなさいませ!」
思わず声が弾んだ。無事に帰還したオリバー様の姿を見た瞬間、胸に溜め込んでいた不安が一気にほどける。私は歩み寄り、その手を両手で強く握った。
「ご無事で、本当に良かった……。どれほど心配したか」
「大丈夫ですよ」
オリバー様は、いつもの穏やかな笑みを浮かべる。
「アレクサンダー陛下が優秀な部下を貸してくださったおかげで、無事に戻れました」
「では、彼らが今回の事件の……?」
視線を向けると、拘束されたスペイニ国王と、その部下たちが連れて来られている。
「お兄様は、謁見の間で会う、とおっしゃっていました」
私は精鋭部隊の面々に向き直り、そう告げると、深く頭を下げる。
「皆様、本当にありがとうございました。オリバー様をお守りくださり、心より感謝します」
その言葉に、その人たちは驚いたように目を見開き、深く一礼した。
その背後には、怯えた表情の女性たちが身を寄せ合うように立っていた。事情を聞き、胸が痛む。
「ようこそ、ローマムア帝国へ」
私は優しく声をかける。
(怖がらせたくないし、安心してほしい)
「辛かったでしょう。でも、これからは、私があなたたちを守ります」
その瞬間、彼女たちは堰を切ったように涙を流し、私の前にひざまずいた。
その中に姉の姿を見つけたマドリンは、彼女の腕に飛び込んだ。
「姉さん、良かった。姉さんを連れ去ったのは、ローマムア帝国の騎士じゃなかったのね……あぁ、だったら、私はとんでもないことをしちゃった。皇女様に毒をかけるお手伝いをしてしまったの……」
「なんてことを……私を攫ったのはスペイニ国王だったのよ。城の地下に閉じ込められていたわ。でも、どうして皇女様に毒を?」
「大人たちが、皇帝が皇女様を宝物のように大切にしているから、それを失えば自分たちの苦しみがわかるだろうって……」
それを聞いたラクエルは私に、マドリンの代わりに罰を受けたい、と申し出た。
「心配しないで。私はマドリンを許します。スペイニ国の民たちは、みんな被害者ですもの」
「だったら、余たちのことも許してくれるよう、アレクサンダーに頼んでくれんか? ぐへっ……」
次の瞬間、鈍い音が響いた。オリバー様の拳が、スペイニ国王の横腹に叩き込まれていた。
「皇女殿下に無礼を働くな! お前のような腐れ外道が話しかけていいお方ではない!」
オリバー様の声は、氷のように冷たい。国王は顔を歪めながらも、気味の悪い笑みを浮かべ、私を見た。
「美しい……さすが皇女様だ。夢の中だけでも、あんたを……」
私は思わず後ずさった。
オリバー様に支えられていると、お兄様が護衛騎士を多数従えて、私を案じるように急ぎ足で現れた。
「オリバー、でかしたぞ。ビクトリアは皇女宮に戻っていなさい。スペイニ国王の側にいては、目と耳が汚れる!」
♦♢アレクサンダー視点
私は謁見の間で、オリバーや精鋭部隊からスペイニ国王の今までの悪行の報告を受けていた。妹に関する会話に及ぶと、私は固く握りしめた拳をワナワナと震わせた。
――私の妹を拉致しようとしただと? 許さん! 断じて、許さん。
我が国の騎士を騙り、自国の民たちを迫害したことの罪も重いが、さきほどの「夢のなかだけでもあんたを……」の発言も、到底許せるものではない。
「お前たちは迷うことなく極刑だ。清々しいほどの悪人だからな。刑を行う場はローマムア帝国のコロッセウムとする。猛獣との戦いは見世物としても人気があるのだよ。スペイニ国民も招待しよう。お前らの最期を、皆楽しみにしているだろうからな」
「猛獣と戦う? 嘘だろう? 余は人と剣を交えたこともないんだぞ。無理だ、とても戦えない」
「ふむ、ローマムア帝国の騎士団でしばらくしごかれろ。少しはライオン相手に戦えるかもしれないぞ」
スペイニ国王はへなへなと床に座り込んだ。
「頼むから、もっと軽い刑にしてくれ! ライオンと戦うなんて……無理だろ? やっぱり、お前は冷血皇帝だ……」
(なんとでも呼べ。民を守り国を栄えさせるのが私の勤めだ。自分の評判など、どうでも良いのだよ)
「戦うのはライオンだけじゃないぞ。熊や虎、最近ではカンガルーだな。自らが招いたことさ。諦めるんだな」
スペイニ国王はすでにズタボロにされていた。オリバーに聞けば、連行する前に民達から暴行を受けたと言う。
(まぁ、自業自得だな)
※カンガルーと戦うシーンは、完結後の番外編でお楽しみください。




