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♦♢オリバー視点
僕は再び城に戻ると、皇室の精鋭部隊とともに地下を徹底的に捜索した。スペイニ国王の言葉通り、地下には大量の金塊とともに若い女性たちが閉じ込められていた。彼女たちは皆怯えた表情を浮かべ、腕や足には痣が残っている。
「こ、これは……酷いな。スペイニ国王にやられたのか?」
黙って頷く女性たちの中に、特に衰弱した様子の女性が一人いた。
「その子はラクエルよ。妹のことをいつも心配していて、スペイニ国王に何度も帰らせてくれって頼むものだから、よく殴られていたわ。あの男は女を殴るのが趣味なのよ」
「妹の名前は?」
「マドリンよ。両親が亡くなって、自分が母親代わりに育ててきたって。親戚もいないから、きっとひとりぼっちで困っているに違いないわ。もしかしたら、もう餓死しているかも……」
「それなら、大丈夫だ。今はローマムア帝国にいる」
僕の声に、ラクエルは目を大きく見開いた。
「……マドリンは……生きてるんですね?」
「あぁ、生きてるよ。話せば長くなるが、絶対に君の妹を守ってみせる。だから、元気になろうな」
ラクエルは安心したようにホッと息を吐いた。彼女の地獄の日々は終わったのだ。
翌朝、スペイニ国王を放置した広場に向かった。そこには、多くの民から怒りの鉄拳を浴びせられ、顔を倍に腫らせて転がっているスペイニ国王たちの姿があった。鼻の骨は折れ前歯はすっかり欠けていて、もはや誰だかわからないほどだ。
「みんな、これでも手加減したんです。王たちはローマムア帝国に連行するんでしょう? だとしたら、アレクサンダー皇帝が、きっと相応の罰を与えてくださる。おいらたちは、そう思ったんです」
「そうだよ。俺たちを散々苦しめた奴らです。簡単に殺したらもったいない。充分に反省してもらいたいです。アレクサンダー皇帝は冷血皇帝と噂されるほどだ。きっと、納得できる刑を執行してくれますよね」
広場にいた民たちが、僕に期待するような眼差しを向けた。僕は深く頷き、スペイニ国王に向かって吐き捨てるように告げた。
「ここで死ねなかったことを、お前たちはきっと後悔するだろう。おそらく、お前たちは死を願うほどの罰を受けることになる。アレクサンダー皇帝は、敵はとことん叩き潰す容赦のない方だ。民には慈悲深い賢皇帝だがな……お前とは真逆だよ」
♦♢アルバート視点
「両親が亡くなってから、私の姉は必死になって私を育ててくれたわ。だって、スペイニ国は本当に貧しいから、私たちは姉妹で支え合って生きてきたのよ。なのに、ローマムア帝国の騎士がやって来て、姉をさらって行ったの。ローマムア帝国は本当に最低よ」
僕の手伝いをしながら、マドリンは同じ言葉を繰り返していた。彼女を任されてからだいぶ経つが、いつもこの調子だ。
その頃、僕は自身の働きぶりを庭師長に認められ、皇宮専用の庭資材や肥料などを受け取りに、指定された工房や資材店に行く用事も任されていた。そこで、僕はマドリンも一緒に連れて行くことにした。荷馬車を運転しながら隣にいるマドリンに話しかける。
「この街を見てごらん。石畳で整備され、街角には美しい噴水があって、広場は賑やかで活気に溢れているだろう? 市場には新鮮な食材も揃っていて、人々はそれぞれに余裕のある暮らしを楽しんでいるんだ。こんな国で、わざわざ他国を略奪する者なんていないんだよ」
その言葉に、マドリンはハッと気づいたように、あたりを見回した。彼女はずっと何かを考え込んでいるように、黙っていた。
ひと仕事終えた頃、僕達は皇女宮のサロンに呼ばれた。皇女様はたまに紅茶とお菓子を振る舞い、話を聞いてくださる。今日もそんな流れで紅茶を飲んでいると、マドリンが突然僕に質問を始めた。
「帝国の下級騎士たちも貧しいのでしょう? スペイニ国の騎士たちはみんな貧しくて、食べていくのがやっとだったわ」
マドリンの頭の中では、さきほどの会話が、ずっと繰り返されているようだった。
「スペイニ国のことは詳しく知らないけど、僕がいたフリートウッド王国の下級騎士たちは、暮らしには困っていなかったな。このローマムア帝国ではもっと良いはずさ。それにここでは、騎士たちの住居は国が安く貸し出しているらしいよ。皇帝陛下はとても慈悲深い方だと、皆が口々に言っているよ。実際、僕たちが仕事をしている時も、気さくに声をかけてくださるだろう?」
「それが本当なら、私の姉さんを連れ去ったのは誰なの? おかしいじゃない」
皇女様は僕達の会話を静かに聞きながら、優しい口調でマドリンに話しかけた。
「もうじき真実がわかるはずよ。オリバー様がこちらに向かっているという知らせがきました。ローマムア帝国騎士のふりをしていた男たちとスペイニ国王も一緒らしいわ。それに、マドリンのお姉さんもいるのですって。ラクエルという名前で間違いない?」
「はい、ラクエルは姉さんの名前です!」
マドリンはとても嬉しそうだ。僕は思わず頬を緩めたのだった。
――数日後。皇宮に、オリバーたちの帰還を告げる荘厳な角笛が高らかに響き渡った。




