12 ここは地獄・皇女を庇うオリバー
モーガン男爵視点
そして、私は再び足を滑らせ……、命綱が今にも切れそうなところを監督官に引き上げられていた。おかしなことに前回と同じように地上に降ろされて、再度いちから屋根に登らされる。
(よく考えたら、せっかく屋根に引き上げてくれたんだから、そのまま修理作業を続けさせればいいじゃないか。なんでわざわざ一度地上まで降りる必要があるんだ?)
私はそこで悟った。これは明らかに自分に対する罰の一環であり、死ぬほどの恐怖を何度も味わわせるためなのだと。
(あぁ、それならいっそ、ひと思いに処刑されていたほうがマシだった)
私はそう心の中でつぶやいたのだった。
オリバー視点
ローマムア帝国では、双子は不吉な存在だった――ここに来てから、オリバーは何度となくそう聞かされていた。生まれれば隠され、存在を知られぬまま育てられる。それが、この国では長らく当たり前だったらしい。だが、ここ数年で事情は変わったという。市場の商人も、宿の主人も、口を揃えてこう言うのだ。
「今は違う。双子は繁栄を呼ぶんだ」と。
預言者や占星術師がそう言い始め、それを皇帝が積極的に後押しした――そんな話を、オリバーは耳にした。冷血皇帝と噂される皇帝アレクサンダーも、実際は民に優しいらしい。双子を隠していた家族が公に名乗り出ても咎められず、補償まで出るという話も聞いた。
やがて「皇帝には、双子の妹がいる」という事実が発表されたらしい。皇女は異国で育てられたが、このたびローマムア帝国へと帰還したという。これにより、民は大いに驚きつつも歓喜した。双子が幸福と繁栄の象徴とされる今の風潮により、「皇帝の双子の妹」という存在が国にさらなる栄華をもたらす吉兆として歓迎されたのだ。
街には、皇女の肖像が描かれた記念皿やペンダントが並べられていた。僕は記念皿をしげしげと眺めながら、皇女の顔に見覚えがあるような気がして心をざわつかせていた。
「どうだい? ローマムア帝国の皇女様は美しいだろう。今日は皇女様の誕生日だから、街中がこうして賑わってるんだ。まもなく、大通りを皇女様の馬車が通る。街全体で祝うパレードさ」
通りには祭りの飾りが所々に掲げられ、人々は色とりどりの衣装を身にまとい、楽しげに笑い合っていた。屋台からは甘い香りが漂い、街全体が一体となって皇女の誕生日を祝っている。
「本当に華やかだな。皇女様は今までどちらの国にいらっしゃったんだ?」
「それは明かされてないよ。皇女様も親元を離れ、お寂しかったに違いない」
僕は店主の話に頷きつつも、皿に描かれた皇女の肖像から目が離せなかった。その表情、柔らかな瞳の輝き、全てが僕の心を掻き乱す。その容姿は、亡くなったと思っていた僕の知る女性と瓜二つだったのだ。
「まさか……アグネス?」
動揺を隠せず、胸が高鳴るのを感じた。記念皿の中の皇女は微笑みを浮かべ、今にも語りかけてきそうだった。
ふと、アグネスの遺体が見つからなかったことを思い出す。
(アグネスは生きているのか? それとも、これは他人の空似か? 僕は……彼女に会わなきゃならない)
心の中でそう呟き、パレードが行われるという大通りに向かった。そこは皇女の誕生日を祝う人々で溢れている。人々の歓声が響く中、ちょうど豪華な馬車がゆっくりと進み、皇女が穏やかな微笑みを浮かべながら手を振る様子が見えた。その姿は気品に満ち、どこか神秘的な雰囲気さえ漂わせていた。
僕は遠くからその馬車を見つめ、胸が高鳴るのを感じていた。記念皿で見た姿と同じ、いや、それ以上に生き生きとした彼女がそこにいた。しかしその時、群衆の中で不審な動きをする集団が目に入る。スペイニ国で見かけた男たちが、小さな少女に何かを手渡し、馬車の進行方向に急かしているように見えたのだ。
「しまった……あれは、過激派の連中だ。まずいぞ、早く止めなければ」
人波をかき分け、急いで皇女の馬車へと向かって駆け出した。しかし、時すでに遅く、花束を抱えた少女が皇女の馬車の前で叫び、馬を止めさせた。
「皇女さまぁーー、お誕生日おめでとうございます! 花束を受け取ってください」
少女が震える声で花束を差し出すと、皇女は優しい眼差しで彼女に微笑みかけ、手を伸ばして受け取ろうとする。
その瞬間、少女の背後にいた男たちが袖口から小瓶を取り出し、素早く開封すると、怪しげな液体を皇女のいる馬車に向かって投げつけようとした。
「やめろっ!」
全速力で飛び出し、間一髪のところで皇女の前に立ちはだかった。液体が飛び散り、僕の腕と肩にかかる。
「くっ…!」




