冴えない彼女
俺は本が好きだ。
幼い頃から両親に絵本や小説を沢山読まされてきた。その影響だろう。
本に加えて可愛い女の子も好きだ。
大学進学をきっかけに上京してきたのだが、自分の見た目には自信があったので、色んな女の子と遊んできた。今も変わらずだが。
なんの関係性もない2つを中心に俺の世界は回っている。特に刺激もない普通の生活だ。心地はいいが、面白みはない。
「学祭に行こう!」
俺の事を気に入ったのか、最近関わってくるようになった同じ学部の可愛い女の子にそう言われた。
学祭なんて一度も行ったことなんてない。面白みが分からないが女の子と進展があるなら行くしかないだろう。
俺は承諾した。
しかし当日になると人も多く、屋台の匂いもあって酔ってしまった。
女の子に断りを入れ、少し休むことにした。
4年生にもなって学校の敷地を全く知らないが、とりあえず休めそうな場所を探し、晴れた天気と相性の良さそうな芝生のベンチで休むことにした。
心地がいい。気持ちの悪さも少しずつ薄れてきてもうすぐで眠ってしまいそうだ。
「ただいま本を配っています。どなたか立ち読みだけでもしていきませんか。」
情けなく、今にも潰れてしまいそうな声が聞こえてきた。少し耳障りだと感じ、声に目を向けた。
声とお似合いの冴えない女の子が、本を腕いっぱいに抱えて芝生を歩き回っていた。
正直あの見た目には全く興味がない。だが彼女が抱えている本が何故かどうしても気になって仕方がなかった。
重い腰を上げ、彼女に近づいてみることにした。
「あ、あの、もし良ければ本読んでください。」
急に近づいてきた俺に驚きながらも彼女は俺に本を差し出した。
俺は受け取り、どうせ大したものではないだろうと思いながら本を開いた。
驚いた。
本の中で登場する少女の心情が俺に乗り移ってくるような感覚になり、勝手に涙が落ちていた。
こんな繊細な文章、今まで読んだことがあるだろうか。
気付いたら夢中になって読んでしまい、1冊読み終えてしまった。
この本誰が書いたんだ。もしかしてあの冴えない彼女なのか。
誰の作品なのか気になってしまい、先程の彼女に声をかけようとした。
しかしもう彼女の姿はなかったのだ。
あの日から作品と彼女が頭から離れない。
作品はまだしも、冴えない女の子のことをずっと考えてしまっている自分に正直驚いていた。
彼女があの作者なのではないだろうか。
そう頭がずっと言っている。
彼女にもう一度会いたい。ずっとそう考えてしまっていたのだ。
学祭から1ヶ月以上経つがまだ彼女の姿を見ていない。
俺の生活は今まで通りに少しづつ戻ってきたが、彼女は頭の片隅に必ずいた。
授業が午前で終了し、女の子との約束の時間までまだ時間があったので、学校を徘徊していた。
そういえばあの芝生を思い出し、そこで時間を潰すことにした。
相変わらず静かで過ごしやすい場所だ。
あの時ここで彼女と作品に出会ったのだ。もう1ヶ月経つのか。
そう考えながら眠りそうになっていた。
「新作が出ました。どなたか立ち読みだけでもしていきませんか。」
心が震えた。
あの彼女だ。
このタイミングを逃してはいけない。
そう思う前に体が反応し飛び起きた。
目の前に彼女があの時のように本をいっぱい抱えて歩き回っていた。
俺は彼女のそばに小走りで近づく。
「あ、あの、もし良ければ本読んでください。」
あの時と同じセリフと声じゃないか。
なんだか彼女が可愛く見えた。
俺はまた本を受け取り、立ち読みしたい気持ちを抑え、彼女に問いかけた。
「この作者ってもしかして、あなたですか。」
彼女は少し間を空けて頷いた。
この時から俺の生活が刺激的なものに変わったのだった。




