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オカルティック・アンダーワールド:ベート  作者: アキラカ
1.裏世界怪異譚

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第6話 羽

 松下は警察官の有明と共にフロアを進み始めてから1時間以上が過ぎようとしていた。


 先ほど襲来にあった不気味なの棒人間のような未知の存在とはあれ以降遭遇してはいないが、それでも今日一日中飲まず食わずの松下の体力はすで限界にきていた。



「おい・・。何かさっきから同じところをぐるぐると回っていないか?」


 松下は我慢の限界に達し、虚ろな顔で有明に抗議する。

 しかし有明は床に待ち構える見えない落とし穴を警戒しつつ壁に手を添えながら先を進み、一瞬だけ後ろの松下を見るとすぐに前方へ目を戻し、無駄話をしたくないのかそのまま無視をした。


「おいって!」


 思わず大きい声で叫ぶ松下に対して有明はうんざりした様子で、


「・・あんたには分からないだろうが、今俺がやっている事こそ外に出られる唯一の方法なんだ。だからお前は黙ってついてくればそれでいい」


「はぁ?・・・全然意味がわからなねぇな。大体俺は今日一日飲まず食わずでもう体力も限界なんだ。なぁ、せめてあとどれくらい歩けばいいのかだけ教えろよ」


「それは自業自得だろ。それに何度も言うが、お前には言っても分からないだろうから言う気もない」


 有明はきっぱりとそう言うと、以降は再び黙り込んでしまった。


「はぁ~・・・。くそが」



 松下は更に頭がクラクラして思考回路も低下していたが、それでも前を歩く有明が白い壁と突き出た柱を撫でるようにして触れ、角を曲がっている様子をみるうちに


『もしかして、ああやって壁を伝う事で何かを探っていたりするのか?』


 とその行動を不思議に感じ始めていたその時。



「!!」


 有明は突然足をとめ、壁に触れた手でそのまま目の前の柱を数回コツコツと叩いた。


「あった」


「は?」


 有明はやっと何かを見つけたようでその柱をもう一度コツコツと叩くと、その柱に耳を付ける。

 そしてその柱の音を確認すると懐から一丁の拳銃を取り出した。


「な!?」


 松下もその行動に驚いていると、有明は拳銃を構えその柱に銃口を向けた。


「ちょ、何してるんだよ。柱に向かってそんなもんぶっ放したら、奴がまた襲ってくるだろ?」


「ああ、絶対に来る。しかし、俺達はその前にこの柱から下の階へ下りる」


「はぁ?下りるってどうやってだよ、どうみたってただの柱だぞ?」


「いいから黙って離れていろ」


 有明はそう言うともう一度柱にちゃんと当たる様に銃口を確認し構え直した。


「ったくふざけんなよな・・」


 松下は仕方なく急いで有明から離れる。

 と、有明はその柱に向けて連続して発砲した。


 パンパンパン!!!


 二等辺三角形を描く様に三発の銃弾が柱に向かって放たれ、身を護る為に耳を防いでいた松下がその当たった部分を確認すると、柱の表面に大きな空洞が口を開けているのを目撃した。


「・・・どいういう事だよ」


 その様子に驚愕していると、通路の奥から急にブォオン!!という怪音と共に例の棒人間が再び奇声をあげ、まるで怒り狂っているかのように急接近しようとしていた。


「ギィャァァアアアアアア!!!」


「何をしている!!早く来い!」


 そう言われて柱の方を見ると、有明は空いた空洞に片足を突っ込み、その中へと飛び込もうとしているではないか。


「何なんだよ全く!!」


 松下はもはや全ての意味が分からなかったが、迫って来る棒人間から逃れる為にも急いで柱に開いた穴の中へと飛び込んだ。


 が。


「うぁああああああ!!」


 飛び込んだ先は見た通りの穴になっており、そのまま重力に逆らう事も出来ずに落下したかと思うと急に床へと叩きつけられた。


「っが!!」


 体を強く打ちつけたが、幸い下の床も上階と同じような湿ったベージュ色の絨毯が敷き詰められており、想像以上のダメージはなかった。


「く・・・そ・・・いててて・・」


 そう言いながら体を起こすと目の前には先に飛び込んだ有明が涼しい顔をして立ちはだかっており、その様子を見るだけで松下は更にムカついてきた。

 そして文句の一つでも言ってやろうと息を飲み込んだその時、



「松下さん!!」


 背後から聞き覚えのある声がして振り返った。



「さ・・三枝さん?史?」


 二人の姿を見るや否や松下は思わず見た事もない程の安堵の表情になり、下手すれば泣き出しそうにも見えた。



「松下さん!無事だったんですね!良かった・・」


 笑顔で近づく寿々がその時の松下には本物の天使のように見えた・・・。

「三枝さん・・もしかして俺を助けに・・・」

 が、それはほんの一瞬だけだった。


 次の瞬間、ゴッ!!という鈍い音と共に、松下の左頬目掛けて寿々の拳が勢いよく振り下ろされた。


「ぐっぉ!!っっいてぇええ!!」


 松下は殴られた頬を押さえ涙目で視線を戻すと、先ほどまで目の前にいた天使のような微笑みに見えた寿々が物凄い剣幕で松下を睨みつけている。


「松下さん・・何で俺の言う事を聞かなかったんですか。あれだけここへは来るなって言いましたよね・・?」


「な・・何で殴られなきゃなんすか!!」


「丸さんが心配して俺に相談してきたんですよ。でも俺が松下さんを助けに行くって言ったら、史はあんたを絶対に殴るって聞かなかったから、仕方なく俺が変わりに殴ってやってるんです。わかりますか?あんた史に殴られたらどうなっていたかくらい容易に想像つくだろう!」


 普段の寿々からはとても想像がつかないその形相に、松下だけでなく史までややドン引きしている。

 しかし三枝寿々という男は人間相手だと、とてもその見た目からは想像できない程強気な性分をしていたりするのだ。


「・・寿々さん。それくらいでもういいですよ・・。あ~・・殴り慣れていないのに本気で殴るから手を怪我しているじゃないですか」


 あれだけ松下にムカつていた史も、この哀れな状況を見て少しばかり同情したのか・・。

 いや、松下の事なんかよりもただ寿々の赤く腫れた手の方が気になっただけだろう。

 とりあえずは胸の内もすっきりとしたので、止めるより他なかっただけだ。


「いってぇぇ・・」


 寿々もようやく自分のか細い右手がジンジンと痛みだしてきたので、涙目になって右手を摩った。



 その一部始終を何をしているのかと、呆れているように眺めていた有明が横から声をかけてきた。



「はぁ・・・いい加減もういいか?っていうか、何でお前達二人も中に入って来てしまっているんだ・・」


 有明は頭が痛いとばかりに手で額を覆った。


「何でじゃないでしょ。あんたが中へ入った途端にこのビルから波動が発せられ、周りにいた警備員は全員形代に戻ってしまったし、辺り一帯から漆黒の煙が襲ってきて中に逃げるより他なかったでんですよ。しかも入口からは見た事もない棒人間のような未知の存在が侵入してくるし。ちゃんと説明して欲しいのはこっちなんですよね?」


 史は額を押さえる有明に向けて文句を言った。

 有明は仕方なさそうに天井を見上げながらため息をつくと。


「とりあえず・・・あと1階下に下りないと脱出できないから歩きながら話すぞ」


 そう言って有明は壁伝いに先頭に立って歩き始めた。






「まず、ここの空間の発生原因は全部省く。というか何でここにこんな亜空間が発生しているのかはまだ()()も調査中だ。ただここはどうも、現実の世界の裏に存在する所謂バックルームと呼ばれるそういう空間なのだろう。というあくまでも推測しかできていない。実際本当にここがフェイク動画で言われているような裏世界なのかすらも証拠はない。次に、あの黒い棒人間のような奴だが。アレもまだ不確定な存在だ。まぁ現実世界では見られないような生き物であるのは間違いないが。フェイク動画やそれに着想を得たゲームの中にも似たようなモンスターが登場する。なので我々も一先ずはそれにならって〝エンティティ〟と呼んでいる」


「エンティティ・・・」


 寿々は名前からして不気味すぎる、と1階でチラッとだけ見たその存在を思い出し身震いがした。

 以前は霊的存在全てに恐怖を感じていたが、霊との交信の仕方を学んでからは余程話の通じないタイプでない限りはそこまで恐怖を感じる事はなくなった。

 しかしだ。

 この世には霊とはまた違った未知なる現象や存在がある事を目の当りにし、改めて寿々は恐怖を感じ始めていた。

 例え自分が()()()()の存在に近いとしてもだ。



「じゃ何であんたはここからの脱出方法を知っているんだ?」


 有明のすぐ後ろを歩く松下が質問すると。


「・・・俺はお前が言っていた機動隊不審死事件の唯一の生き残りだからだ」


「!」


 その返答を聞いて3人は一瞬黙り込んだ。


「・・なるほどね」


 松下もようやく納得がいったようで独り言のように小さく呟いた。




 その後10分くらい歩いたところで有明は、床に引かれた油性マジックで書かれた黒い線を見て足を止めた。


「ん?・・これは?」


 不審そうに振り返る。


「それは俺が書いた見えない穴の手前に引いた線です」


「・・・それは助かるが・・。何でここに穴があるってわかったんだ?」


 有明が不思議そうに寿々に聞くと、


「あー・・・慎重に進んで、何となく危険そうだなぁ・・って思ったら、こう手を付くと穴があったので、それで」


 寿々の説明は下手くそだったが、実際それ以上の事は本当に何もしていないのでそう説明するより他なかった。


「・・・それにしてもよく見つけられましたね。普通は分からないものですよ・・ん?」


 有明は更にその場所から左に折れた通路の先にも同じようにして横線が引かれているのをみて。


「・・・三枝さん、って言いましたか確か」


「はい?」


「あなた・・・もしかして、何かそういう超能力的なのをお持ちなんですか?」


「は?いやぁ~。まさか~」


 寿々は自分の事について上手い説明は出来ないと思い、そこは適当にごまかす事にした。

 その寿々の様子を有明は意味深めいた表情で見つめていたが、ひとまずはそこではそれ以上追求する事はなかった。


 再び前を向くと有明は、壁沿いに手を当てながら上の階で探していたように何かを探っているようだった。


「なぁ、上の階でもそうだったが。あんたそうやって何を探しているんだ?」


 松下が気になってそう質問すると、


「この空間に無数に存在する柱の中には、現実世界に存在している廃ビルの柱が隠されている。しかしその柱はこの裏世界においては()の意味を持ち、仮想的存在に変わっているんだ。だからこそその仮想空間を壊す事によって現実世界へと近づく事ができる。更に実在する柱へと近づくと僅かにだが壁伝いに微細な振動を感じることができる。そして何故かその柱へと続く通路だけは落とし穴も存在しない」


「ちょっと・・言っている意味が分からないが。・・まぁつまり現実世界とは逆の事をすれば元の世界に戻れるわけか。・・にしても一人だけ生き残ったあんたは何でそんな事が分かったんだ?」


「・・・・」

 松下の深まる疑問に、有明はその手には乗らないと言いたそうにちらりと目をやるが。


「これ以上は守秘義務にあたる。お前ら一般人は知らない方がいい」


 その後4人はほとんど会話もなく30分ほど慎重にフロアを進んだところで再び有明はその足を止めた。

 そして再び柱をコツコツと叩く。


「よし、ここだな」


 そう言って再び脇のホルスターから拳銃を取りだした。


「は?・・拳銃?」


 寿々もその動作に驚いて目を丸くするが、


「さっきもああやって拳銃を撃つことによって、柱に時空の歪みみたいな穴を開けて、それで俺達はこのフロアに下りてこれたんすよ。まあ近づくと危ねぇから離れた方がいいですよ」


 松下にそう言われて、寿々と史も大人しく後ろに下がった。

 すると拳銃を構えた有明はそのまま狙いを定めて、銃弾を3発撃ち込んだ。



 パン!パン!パンッ!!


 反射的に耳と片目を塞いでいた寿々がその柱に目をやると、松下の証言通りにウネウネと蠢く穴がぽっかりと開いていた。


「凄い・・・」


 思わずそう呟くと、


「今の音でエンティティが来ますから早く下りますよ!ここは少し高いので着地の衝撃に気をつけてください」


 と有明が叫ぶと先にその穴に飛び込んでいった。

 続けて松下が少しだけ躊躇うように慎重に足を入れる。


「少し高いだぁ?さっきより高いのかよ・・」


「松下さん、ぐずぐずしてないで早く飛び降りてくださいよ!」


 史が松下に切れ気味に言う。


「うるせぇ!お前らと違って俺は超一般人なんだから、怖ぇものは怖いんだよ!!」


「団地の2階から飛び降りれたでしょ!早く行ってください」


 史の言い方もどうかと思うが、そうこうしているうちにも時空の歪みの穴はちょっとずつ閉じようとしていた。

 そして二人がすったもんだしているうちに、


「史!!あれ!」


 通路の遥か奥の方から「ギィアアアアアアアア!!」と不快な金属音のような絶叫と共にあの棒人間、エンティティが物凄い速さで近づいてきていた。


「やべぇ!」


 松下はその姿をチラ見した途端に意を決し穴の中へと落ちていった。

 それを確認した史は寿々に向けて手を伸ばす。


「寿々さん、早く!」

「ああ!」


 寿々が史に手を伸ばしたその瞬間、エンティティがまるで切り裂くような波動を発射してきた。


「!!」

「寿々さん!!」


 史はその波動に向けて無意識に手をパシィン!!と叩き合わせると円盤状の浄化の波動〝祓〟をアンダースローで投げつけた。


 お互いの波動がぶつかり合った瞬間にまるで固い金属同士が擦れあったのではないかと思う程の高音が辺りに響き渡る。

「!?」


 身構えていた寿々はその音に聴力を奪われ、辺りの音が全く聞こえなくなった。

 耳を押さえながら必死で目を開けると、すぐ目の前にあのエンティティが物凄い速さで近づきながらアンバランスな大きい頭部をパックリと裂き、そのまま寿々の頭を丸吞みしようととしてきた。


「あ・・」


 自分の発したその言葉すらよく聞こえなかったが、脇から史が寿々を抱えると身を挺して覆い被さるようにに抱きしめた。


 寿々はその様子を何故か冷静に捉えらえいた。

 そして本能的に思った事は


『俺が守らなきゃ・・』


 という感情だった。



 次の瞬間、寿々の背中が神々しく七色に光ったかと思うと、かぶりついたエンティティの頭部から火花が上がった。


「?」


 そして史が塞いでいた目を開けて目にしたのは、寿々の羽が鋼鉄のベールのようにして二人を守っている光景だった。



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