ProLogos
『この世界は現実だ。ただし、現実のカタチをしていない』
「ときに、少年。クッソウ――なんて聞いたことはあるかい?」
シンクを叩く水音。積み重なった皿を洗う手を止めたのは、そんな言葉だった。
クッソウ。突然投げ込まれた奇妙な響きに、漢字と意味を与えるべく考える。
考えて、頭に浮かんだのは、どうにも剣吞な単語一つだった。
「屈葬……ですか?たしか大昔の葬式ですよね。日本史かなにかの教科書で見たような」
単語が掻き立てるイメージはひどく曖昧だったが、およそリビングで飛び出すような代物でないことはわかる。もっとも、人のカタチをした「非日常」を前に、そんな常識をかざす意味があるとも思えなかったが。
一拍おいて、問いの主は答える。ソファーに鎮座する姿はスフィンクスのようにも見えた。
「謎好き」ということで言えば、たしかに遠からずかもしれない。
「ご名答。屈葬――死体の手足をたたんで葬る、単純で明快な死者への餞さ」
そう言って。
稀代の名探偵は、少年のように笑った。
読んでいただきありがとうございます。
次回以降、あとがきにはサブタイトルや作中表現の簡単な説明を載せたいと思います。
本編の理解に影響を及ぼすことはないと思いますが、興味のある方にはご一読いただけると幸いです。




