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赤い布と赤い夕焼け

短めに付き3話投稿

「イケメンって、どの角度でもイケメンなんだなぁ……」


 美春みはるは現実逃避しながら、異世界のイケメン貴族クエイアスをぼんやりと眺めていた。


立ち姿、横顔も、斜め上から見た顔も……イケメン。

イケメン動いてる、イケメン喋ってる、マジイケメンすごい。


 ーー脳内では「イケメン」しか再生されてないーー



 その時だった。イケメンが懐から”何か”を取り出す。


 美春みはるは、その何かを見た瞬間ーー固まった。


 「……………え?」


 それは……赤い布。


 見覚えある、めちゃくちゃある。見覚えしかない。


 「え…えええ!? ちょっと、うそ……!? それ、私の……私のやつ!?」


 三か月ほど前、洗濯機から旅立っていった赤い勝負下着のぱんつの方。


 (うわっマジでって、え?え?ちょ……っ!)


 そして……、イケメンが静かにそのぱんつをーーー額にあてた。


 「ちょ、え、いや待って!? 待って!? なんで額!? どうして!?」


 神妙な顔で目を閉じ、静かに祈るイケメン。

 その光景は、一つの宗教画の様な神聖で荘厳な雰囲気ですらある。


 ……手に持っているものが ”赤いみはるのぱんつ” じゃなければだが……


 「ちょっ、それ下着! それパンツ! なんでそんなに真剣に!? ねえお願いだからやめてよぉぉぉ!!」


 ーードンッ!!


 羞恥のあまりたたきつける様に蓋を閉めた。


 「……もう、……もう、本当になんなのよぉぉぉぉ!!!」



 ーー美春みはるの絶叫は、むなしく洗濯機の前で響くだけだったーー





 しばらくして、美春みはるはまた洗濯機の前に立っていた。


 ……もう一度、もう一度だけ、レースのカーテンはきっとあるはず……


 蓋の透明な部分から見えるのは厚手のカーテンの柄だけだった。


 美春みはるはゆっくりと洗濯機の蓋を開けた。そこに あったのは洗濯が終わった厚手のカーテンだけであった。


 洗濯機の中身を全部出したが、厚手のカーテンにレースの  カーテンが絡まって隠れているという事も無かった。


 「……レースのカーテン、買いに行こうかなぁ……」


 ……だって、なくなっちゃったから……


 (ついでに酎ハイ買ってこようかなぁ。もう飲んじゃったし……うん。そうそう。そうしよう……)


 美春みはるはふらふらと洗濯機から離れて行った。



◇◇◇



 翌日、美春みはるはショッピングモールに来ていた。


 レースのカーテンと缶チューハを買うために。


 「つまみと、あとお菓子と。あ、これも買っとこ」


 気が付けばカゴはだいぶ重くなっていた。


 今日はおばあちゃんのお墓参りもしたかったんだけど、思ったより時間がかかってしまった。


 時計を見ると、もう夕方6時。


 「……うーん、今日はもう間に合わないか。お墓参りは明日にしようかな」


 明日にすれば朝から行けるし。


 ……おばあちゃんに聞いてほしい話も、増えちゃったし……


 レジを済ませて、荷物を両手に抱えて家路につく。外に出ると、日が赤く、ゆっくりと沈んでいくところだった。


 「わぁ……今日の夕日きれい…」


 雲に反射する赤い縁取りさえ綺麗で、おばあちゃんと見た夕日を思い出した。

 おばあちゃんがいたころ、よく一緒に縁側でこんな夕日を見たなぁ……


 「そういえば……」


 美春みはるは、バックの上からそっと手を添えた。


 ーーお守りーー


 いつも持ち歩いてる、小さな木彫りの花のお守り。あの日、おばあちゃんがくれた、大切な物。


 「あの時も、夕日がきれいだったっけ」


 あの日の事を思い出す。


 おばあちゃんが美春みはるの手を取って、小さなお守りを握らせてくれた。


 『みぃちゃん、もしもね、帰れなくなった時があったらね、このお守りを持って****って言うんだよ』

 『そしたら絶対に、”美春みはるのお家”に帰れるからね』


 優しくて、安心できる声。

おばちゃんの手はいつも暖かくて幸せな気持ちになった。


 「なんて言ってたっけ、あの言葉……」


おばあちゃんが何度も繰り返し教えてくれた、お家に帰るおまじない。


大切な言葉のはずなのに、どうしても思い出せない。


「おばあちゃん、なんて言ってたっけ……」


木彫りのお花がちょっと暖かくなってる気がした。


「明日、お墓参りに絶対行くからね。いっぱい聞いてほしい事があるんだから」


夕焼けの中で、優しい風が吹いていた。



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