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レースのカーテンと、姿隠しの魔道具

◇◇◇美春みはるside◇◇◇


「ん~……いい天気!これ絶対すぐ乾くわ」


美春みはるは庭側の掃き出し窓のカーテンを外して、両手で抱え洗濯機に放り込んだ。


「厚手のとレース、分けた方が良いのかな? ま、いっか。まとめて洗っちゃえ」


(今日は香り付けのビーズも入れちゃおうかな)


ほのかに薫るこの花の香のビーズは美春みはるのお気に入りであった。

毎回の洗濯に使うのはちょっと贅沢な感じがする。


(……でもカーテンから良い香りがするのは絶対に気分が上がるはず!)


洗剤をいれて、スタートボタンを押す。いつもの通りに洗濯が始まった。


「よし。あとは終わるまでコーヒーでも飲んでゆっくりしよっと」


いつもの様に低いモーターの音をさせながら洗濯機は回っていた……が20分が過ぎたころだった。


ーーードンっーーー


「……っ!」


突然、洗濯機から聞こえた音に驚いてコーヒーカップをひっくり返してしまった。


「……っ!……あ、やばっ床にこぼれた」

でも……まさか、洗濯機のあの音…また……?


一呼吸おいて、恐る恐る洗濯機に近づいた。


「いやいや、さすがに二度もあるわけ……」

無い、と断言ができないまま美春が洗濯機の前まで来た時


「……え? 中が見えない……なんで?」


(洗濯機の蓋のプラスチック、透明なのに、なんで中が見えないの……?)


「そういえば……前の時もこんな感じだったような気がする……」

(これ、開けて大丈夫なのかな……うん…いや、でも、カーテン心配だし……)


覚悟を決めて、ゆっくりと洗濯機の蓋を開ける。

そこにいたのは……


「あーーーっ!?またいた!」


洗濯槽の向こう側の光景は三か月前のあの光景と、とても似ていた。


(なんでまた洗濯機に変な光景が映ってるの……?)


「……倒れてる人がいる。……ってことはまた襲われたの?この人たち」


どこか高貴な雰囲気のイケメンと、それを取り囲む護衛らしき男達がいる。

そしてその周囲には、盗賊の様な恰好をした男たちが倒れている。


「ちょと、まって……」

一度、目を背けてから、深呼吸する。


「いや、それはいい。よくはないけど、いったん置いとこう」

再び視線を洗濯槽に向けよく見ると、護衛とおぼしき人間が、白い布をかぶった人間を地面に抑え込んでいた。


「……」


よく目を凝らす。


「あれって……、あの白い布、今洗ってたレースのカーテンにめっちゃ似てるんだけど……!?」

美春みはるはしばらく唖然とし、一度洗濯機の蓋をそっと閉めて、もう一度深呼吸。


「いやぁ、今の無し! 洗濯物カーテンは普通にあるはずだしっ!」

自分に言い聞かせる様にして、もう一度ゆっくりと蓋を開ける。

だが、そこに謎の風景はまだ映っていた。


「……」


異常事態も二度目になると最初ほどの衝撃はなかった。


「とりあえず、下着じゃなくてよかった、じゃなくて、いやカーテンでもダメだけど、カーテンが異世界に行っちゃうのもダメだけど」


前よりはよほど冷静である。人は慣れる生き物なのだ。

しかも前に見た時とは映ってる場所が違う気がする。

もっと木々が生い茂っていたような……


でもどうしても理解できない事がある。


「っていうか、なんでカーテン被ってる人がいるの……?」



◇◇◇クレイアスside◇◇◇



ーーー美春みはるが洗濯機を開ける少し前ーーー



クレイアス達は帰路に就くために王都を出発していた。


王都での義務ーー第三王子の婚約式ーーを滞りなく終えた一行は、警戒しながらも帰る事が出来る事に安堵しながら馬を進める。

一行は馬車での移動も考えたが、速度と機動性を重視し、騎乗での移動を選択していた。

早朝に出発し、小休止をはさみながら帰りの道をひた走る。


帰路の途中にある旧知の貴族の館に泊まりながらの旅路であった。


「夕刻までには次の町へつくだろう。

急ぐ必要は無い。皆つかれている。途中で馬を休ませるぞ。」


「了解しました」


副官でもある側近のノアリスの返事にクレイアスが頷いた。

部隊は次の休憩地として小さな水源へと馬を向けた。


ーーーしかし。


「避けろ!!」


異常に気が付いた斥候からの声が響いた瞬間、

岩陰から矢が放たれ、同時に岩場や茂みから複数の盗賊風の男たちが飛び出してきた。



「…賊か?!」


「相手は少数だ、我らの敵ではない!」


クレイアスの部隊は精鋭ぞろい。即座に応戦し、敵を制圧していく。


「一人も逃がすな!」


瞬く間に、盗賊風の男たちは地に伏せられていた。

襲撃者は15人。そのうち3人を取り押さえ、12人は討ち取った。


「……手ごたえが無さ過ぎるな……」


もし隣国の刺客でれば、この様なお粗末な襲撃のはずがない。

今までの襲撃を考えても手ごたえが無さ過ぎた。


(……今回は本当にただの盗賊であったのか……?)


しかし盗賊が自分たちの様な、軽装とは言え武装をしている人間を襲うだろうか。


「被害状況を報告せよ」


「はっ、軽症者はいますが、馬での移動に支障はありません。」


妙な違和感を抱きながらも、襲撃者を制圧した安堵が勝っていた。

制圧した男たちを拘束し終え、馬に何人かを括り付けると、クレイアスは部下たちに号令をかける。


「各自、騎乗し移動ーーー」


”移動を開始せよ”と言いかけたその時だった。



ーーードンっーーー

ーーーパシャッーーー


「……っ!」


異音と共に、頭上から水と白く塗れた布が、ひらりと舞い降りてきた。

それは誰もいないはずのクレイアスの斜め後ろに落ちた。

だが地に落ちるはずの布が有り得ない形…まるで人の姿の様に盛り上がっている。


「……伏兵か!?」


「捕らえろ!」


クレイアスが気が付いたときにはすでに護衛達が動いていた。護衛がとびかかり、暴れる男を白い布のごと抑え込む。

手足の自由を奪ったのち、その男が身に着けている装飾の類を一つ残らず取り外していく。


その際、男が手にしていた剣には、猛毒が塗られていることが確認された。

護衛たちは決して刃先に触れぬよう慎重にそれを奪い取った。


その中の一つ。古びた腕輪が魔力を帯びていた。


「まさか……魔道具か……?」


刺客はとらえられ、自害を防ぐために口に詰め物をされ転がされている。


「拘束しました。このまま次の町まで運びます」


「よくやった」


クレイアスがゆっくりと歩みより、身動きできない様に拘束された刺客を見下ろす。


「なるほどな。先ほどの襲撃は囮だったか。」


低く静かに言葉を続ける。


「少人数の粗末な集団での襲撃。このような街道では不自然であった。あれは注意を引くための囮。本命は貴様だったか」


刺客が身に着けていた”姿隠しの魔道具”と思われる物。こんな物がまさか実在していたとは……


……聞いたことがある。

これは神代に有ったと言われる魔道具の一つだ。

70年以上前に滅びた国、ケルメナの ”国宝” として記録されていたものだと。

その後消失したと言われていたが、実在するかどうか疑問視されていたものでもあった……

まさか刺客が所持していようは……!


……いや、同じものではないかもしれない。それでも貴重な物であるのは間違いないだろう。


そのような貴重な物を使ってまでクレイアスの命を奪おうとしている敵……おそらく隣国……ダルカニアであろうが……。


滅びた国の国宝が隣国に渡っている可能性・・・・・・

そこに、一つの仮説が芽生える。


ーーーダルカニアはケルメナの滅亡に関与していたのではないか?


ダルカニア王家の我欲にまみれた様は、その国の民を苦しめ、周辺諸国にも多大な被害を与えてきた。

度々国境を越え、隙あらば我が国の領土を奪いに来る。


北に位置するダルカニアは、厳しい寒冷な気候のため、作物の実りが他国に比べ少ない。

本来であれば、他国が行っているように寒冷地でも育つ植物の研究や農法の開発に取り組むべきだろう。

しかし、彼らはその努力を怠り、なければ奪えばよいという考えをそのまま行動に移してきた。


クレイアスが父の後を継いだ後も、幾度となく領土に侵入してきてもいる。


クレイアスはこみあげる怒りままに、無意識に拳を強く握りめていた。



しかし、魔道具を使って忍び寄っていた刺客を見つけられたのは、まさに奇跡としか言いようが無かった。


(空から舞い降りたあの布は……意思を持つかの様に刺客の頭上へ舞い降り、刺客へ巻きついた。)


その布が舞い降りる瞬間、クレイアスの鼻腔をくすぐったのは、布と共に降ってきた水のかすかな香りだった。

甘く芳しい(かぐわしい)ーーーまるで女神の苑で咲き誇る花々を思わせる様な香気こうき


「布だけではない、水もまた祝福であったか……」


そして、懐に手を当てる。

そこには以前、同じように天から舞い降りた、赤い布が丁寧にたたまれていた。


……また、助けられた……。


「やはりこれは啓示なのだろう……」


(女神は何も隠さぬ清らかな存在……ならばあの布もそのような意味があるのだろう。)


「ならば、女神よ……同じく赤い布の持ち主も清き魂の持ち主なのでしょう……」


彼は、懐に大切にしまっていた布を取り出す。それは以前奇襲から自分を救った ”赤い布” ・・・。

……異世界に行ってしまった……勝負下着のみはるのぱんつの方だった。


クレイアスは赤いみはるのぱんつを恭しく額にあて、女神への感謝の祈りを捧げた


「女神よ…この命、再びあなた様に救われました。感謝を……」


周囲の護衛たちは、神聖な祈りの光景を静かに見守っていた。

……手に持っている物が何なのかは……考えてはいけない。


神聖な祈りの中で、クレイアスの顔には確かな敬意が浮かんでいた。



ーーー異世界の洗濯機の前で、一人の女が絶叫を上げている事など、知る由も無かったーーー



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