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【ヴァルディアの王弟と密談の王子】

カストル

ヴァルディア王国の王弟。

元ドリアーナの婚約者。

 

 ここはヴァルディア王国の歓楽街の奥にある屋敷の一室。


 金を積めば密会も密談も叶う、影の社交場である。逢瀬に使われる事が多い場所ではあるが、今回はもう一つの目的で使われていた。

 ヴァルディアの王弟カストルは、目の前に座る青みがかかった銀髪の青年を緊張した面持ちで見つめていた。


「 こうしてお会いするのは初めてですね、王弟カストル殿 」


 柔らかな笑みを浮かべながら、その青年は軽快に口を開いた。


「 ちらこそ、お会いでき光栄です。 オルデリク殿下 」


「 いやいや、形式ばった挨拶は不要ですよ。 ここには未来を語りに来たのですから 」


 ぱっと手を広げ、明るい声で言い放つ青年、ダルカニア第三王子オルデリク。 その快活さがかえって不気味に映る。


「 ……未来? 」


「 はい! カストル殿。 あなたに――カシェリオスの王になっていただきたい! 」


「 ……何の冗談かな。私はヴァルディアの王弟。 隣国の王位など継げぬ 」


 カストルは相手の目を探るように低く言った。


「 正確には“実質的な王”ですね! 」


 オルデリクはにこりと笑う。


「 カシェリオス王が消えた後、あなたが同盟国の義務として力を貸すと言って、ドリアーナ様の傍に行けばよいのでは?


 ……ルシヴァン王子が王位に就く。 そうなればあの王子、頭が軽いところがある。 誘導は簡単でしょう?


 一時的にドリアーナ妃に王位について頂いても良いでしょう。 もしドリアーナ様と結婚出来れば王配として力を振るう事も可能では?

 結婚せずとも、傍に行きドリアーナ様の相談役として地位を築く事も出来るでしょう。

 一応、後はルシヴァン王子に継がせれば、王位の乗っ取りとは言われないでしょうし。


 王亡きあと、王子が後を継ぐまでの空白期間は王妃が王の代理ですよね。

 普通はその空白を作らないために、存命中に息子に王位を継がせるわけですけど。

 息子に継がせる前に不慮の事故とかもあり得ますしね! 」


「 ……第一王子が健在だ。 第二王子であるルシヴァン殿下が継ぐ道理はない 」


「 いやいや、それは王がルシヴァン王子を世継ぎに指名すれば済む話です。

 ドリアーナ様ならやれる。

 そもそもそのためにエルラントから側室に押し込んだのでしょう? 

 見事王妃になった。 なら次は、息子を後継者にすればいいだけ! 」


「 そんなに容易い話ではない 」


 カストルの声には怒気がにじむ。


「 おや、どうしてそんなに怒るんです? ドリアーナ様を利用するのは、最初からあなた方がやっていることではありませんか 」


 オルデリクは、快活に笑った。


「 後戻りはできないでしょう? いくら王が愚鈍とはいえ、そろそろカシェリオスだって気が付くのではないかな? 」


「 目的は何だ 」


( この男はどこまで知っている……? )


 カストルは相手に不気味さにある種の恐怖を覚えつつも、気圧されぬように自身を保とうとしていた


「 最初から言ってますよ! あなたにカシェリオスを任せ、私はダルカニアを。 お互い国を継ぎ、同盟を結ぶ。 これ以上わかりやすい未来はないでしょう? 」


「 ならば、あなたが王になった後、我が国やカシェリオスと同盟を結べば済む話だ 」


「 それがね、どうにも我が国は食糧が足りなくて 」


 オルデリクは肩をすくめる様なしぐさをする。


「 だからヴァンドル領を分けて欲しいんですよ。 今のカシェリオスに頼んでも絶対くれない。 でもあなたが“実質の王”なら話は違うでしょ? 」


「 だが、第一王子がいる限り、第二王子が後継に選ばれることはない。 それに私とドリアーナの結婚など、公爵家が黙ってはいない 」


「 そこですよ! 」


 オルデリクはテーブルを指で軽く叩き、愉快そうに笑った。


「 公爵領が一つ無くなれば、ずいぶん静かになりますよね? そのような隙が出来れば我が兄や姉も必ず狙う。

 おそらく姉の方だと思うんですけどね?まあ、間違いなくヴァンドル領へ侵攻するでしょう。

 そして辺境伯が”敵”を討ち取る。

 でもほら、ヴァンドル領主は国境の防衛戦で疲弊し王都の事に気を遣う余裕なんて無くなる。


 公爵領で災害が起これば鎮静化の為に国軍も動かすでしょうね?

 指揮官は誰になるかな?

 お飾りとはいえ、王族の誰か、ですよね?

 王位を確実にする為にも第一王子が出るのではないかな?


 騎士や兵士とはいえ、辺境や魔境近くの者たちとは違い、王都で普段戦いから距離を置いている者たちが未曽有の災厄に対応できるかな?

 その混乱に紛れて…… 第一王子殿下が ” 事故 ” で命を落とす可能性もありますよね。


 そうなればあなた方の出番です! 」


「 ……公爵領が無くなる? 災厄? いったい何を企んでいる 」


「 おっと、それ以上は “ 契約 ” してから。 タダで秘密をばらすほど私は善人じゃありませんから 」


 オルデリクは朗らかに笑う。


「 ……公爵領で何事かが有ったとしても、ダルカニアがヴァンドル領に攻め入るとは限らん。


 仮にオルデリク殿の言う通りになったとしても、ヴァンドル領を手に入れたダルカニアが、それを足掛かりにカシェリオスへ侵攻せぬ保証はあるのか 」


「 もちろん! 同盟国となるなら魔術契約を交わしましょう。

 ヴァルディアもそうしているでしょう? 

  “ 同盟国には攻めない ”

 でも“同盟国を助けるために軍を動かす”のは大義名分になる。 素敵な仕組みじゃないですか!


 カシェリオスに何事かあれば、間違いなく兄か姉のどちらかは攻め込みますって。 特に姉は希少な魔道具を消費してまで失敗してますからね!

 もう後がない 」


( 希少な魔道具? 何を仕掛けるつもりなのだ。この男は。だが…… この男はドリアーナの事をつかんでいる )


「 ……兄にも相談せねば、ここでは即答できぬ 」


「 ええ、もちろん! 良い返事をお待ちしていますよ 」


 軽やかに立ち上がり、オルデリクは従者を引き連れて去っていった。

 残されたカストルは、深い息を吐き、机に置いた手を震わせた。


 ーー彼女(ドリアーナ)を利用することに怒りを覚えながらも、それを言う資格が自分にはないことを理解していた。

 利用しているのは、他ならぬ自分たちなのだから。

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