表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/49

【閑話】エルラント王国の事情

 ある夜、

 エルラントの王はグラスに揺れるワインを見つめながら、20年前の出来事を思い返していた。


 山脈を越えた先にある大国ダルカニア

 かの国は小国を食らいながら肥大してきた国だ。

 幸い、我が国とダルカニアの距離は遠く、間には大国カシェリオスがある。


 しかし、前カシェリオス王の他界後、その後を継いだ王は若さや経験不足を差し引いても、王の器とは言えぬ人間だった。


 当時のカシェリオスが辛うじて保たれていたのは、王妃や二つの公爵家、二つの辺境伯家、その他の有力貴族の努力によるものだ。


 皮肉なことに、最も国を引きずり落としていたのが王本人であった。

 もしヴァンドル辺境伯家が落ちれば国境は破られ、それは即ち国の敗北につながる。

 今の王では、ヴァンドル辺境伯領が破られた後にダルカニアを退けるには力が足りまい。


 我が国、そしてヴァルディア王国は北にカシェリオス、南に小国群と言う立地にある。


 そしてカシェリオスがダルカニアに敗れれば……

 敗れずとも、弱体化すれば我がエルラントも、隣国ヴァルディアも滅ぶだろう。


 小国群が我らの国に手出しをせぬのは、背後に同盟国カシェリオスがあるからだ。


 ーーあのとき、ヴァルディア王から 「 カシェリオスを事実上乗っ取る策 」 を聞かされた。


 正直、当初は躊躇した。

 百年以上続いた同盟国を裏切るなど、本来ならばあってはならぬことだ。


 だが…… あの日、あの愚王が護衛もつけずに一人で部屋を出てくるのを目にしたとき、私の心は決まった。


 ーー20年前ーー


「 王として教育を受けた者が、本当にこのような杜撰(ずさん)な ” 誘惑の罠(ハニートラップ) ” に引っかかるのか? 信じられぬ……」


 私がそう口にしたとき、ヴァルディア王は冷徹に言い切った。


「 やつならば、間違いなく引っかかる 」


 ヴァルディア王は策を語った。

 カシェリオス王宮に緊急時の駒を潜ませるため、女を送り込み、その侍女や従者として手の者を置くーーそれが国を救う道だと。


 計画に適任の女は少ない。手駒として使え、いざという時に王妃となれる血筋を持つ者など限られている。

 ヴァルディアには候補がいなかった。


 だが、我がエルラントには一人残っていた。

 側室の子であり末の娘…… ドリアーナ。


 私はドリアーナをヴァルディア王の弟に嫁がせるつもりであった。 その為に交流も行っていた。

 おそらく……二人は思いあってもいた。

 だが、国を護るためならば、その未来を変えるしかない。


 私は最後まで望んでいた。

 せめてカシェリオス王がこのような策に掛かる様な愚か者でないと証明してくれるなら、ドリアーナを差し出さずに済むのではないかと。

 だが現実は、想像を超えていた。


 護衛もつけず、来訪者を誰何(すいか)もせず、刺客が待っていれば命を落とす状況に危機感すら抱かぬ王ーー。

 あれでは国を護れるはずがない。 ヴァルディア王は吐き捨てた。


「 前王は防衛を理解していた。 だから王女を辺境伯に嫁がせ中央との結束を固めた。 だが今の王は駄目だ。

 今までの幾度かの国境侵犯においても、ヴァンドル辺境伯領へ援軍を出すことすらしていない。

 ヴァンドル辺境伯が自力で押し返している状態だ。

 本格的なダルカニアの侵攻があれば、辺境伯が落ち、国も滅ぶ。

 もし滅ばずとも、カシェリオスが疲弊すれば小国群のいずれかの国が動くだろう…… 」


 そして策の核心を口にした。


「 ドリアーナ姫が男児を産めば、王妃と第一王子を排除する。

 ドリアーナ姫の子を王とし、外戚として支援する立場で我らの知恵者を送り込む。 ドリアーナ姫は我が弟を信じている。 弟を通じて内部の情報も得られるだろう 」


 私は震える声で言った。


「 し、しかし……国の乗っ取りなど…… 」


 だがヴァルディア王は首を振った。


「 乗っ取りではない。 間違いなくカシェリオス王家の血を引く子を次の王に立てるのだから。

 それに本来同盟国にこのような策を講じたくはないのだ。


 前王ほどでなくとも、せめて ” 国を考えられる王 ” であればよかったのだ。

 だが今の王は、出自も分からぬ者に利権を与え、街に間者が潜んでいても自らの傍にいても気づかぬ。 王以前に一介の貴族としても失格だ。

  ……カシェリオス内部にもあの王の資質を問題視する者は多くこちらの指示で動くものもいる。

 いざとなればそれらを動かす 」


 その言葉に、私は返す言葉を失った。

 百年以上続く同盟、互いに血を分け合った親戚同然の国。


 その国を利用するなど本意ではない。

 だが、あの王に未来を託すことはできぬ。


 ーーこうしてドリアーナはカシェリオスに嫁ぐこととなった。


 そして20年。

 その間に、こちらの考えに賛同するカシェリオスの貴族を少しずつ取り込んだ。


 その当時よりカシェリオス近衛の中隊長の一人がこちらの手駒となっていた。

 宰相は自らこちらに接触をしてきた。

 あれは国の為と言うより自らの私欲の為であろうが……


 ドリアーナが王子を生み、クローシェリア妃の排除には成功した。

 しかしクローシェリア妃の事前の策で第一王子は守られ、立派に成人した。

 辺境伯家は代替わりをしても、若き領主は国境を守り抜き、カシェリオスは今も健在だ。

 こちらの知恵者を送り込むことも、阻まれている。


 そして、かの国には 「 愛し子 」 が降臨した。


 何が正しかったのか……。もう考えるだけ無駄だろう。

 あの日を境に我らは後戻りできなくなった。


 ただ一つ確かなのは、今の王では国を護れぬという事実。

 そして、我らは既に王妃の命を奪っている。

 結局、我々は進むしかないのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ