【閑話】闇に潜むもの~消失~
ある商人風の男が馬を駆って東のフェルガント公爵領へ向かっていた。
その地を治める公爵は、前王妃クローシェリア妃の実父であり、第一王子の最も強い後ろ盾でもある。
ーー数日後ーー
「くそ! ついてねぇな!」
「ははっ! 悪いな!俺の勝ちだ!」
賑わいを見せる酒場にその姿は有った。
木製のテーブルを囲み、数人の男たちが賭けを行っている。
勝ち誇った笑い声に交じって、悔しそうに酒をあおる者。
その ”賭けに負けた者” 中にあの商人風の男の姿があった。
王都から離れた宿場町。
夕暮れの通りを、とある男が上機嫌で歩いていた。
男の手には、昨夜の賭けで商人風の男から手に入れた首飾りが握られている。
豪奢な宝飾品ではない。
だが、妙に目を離せない。
不思議な魅力を持つ首飾りだった。
「ついてるな……へへっ、」
男は鼻歌交じりに、首飾りをもって上機嫌で宿へ戻っていった。
ーー翌朝ーー
仕事仲間が男を訪ねて宿を訪れた。
だが、部屋には男の姿はなかった。
昨夜まで寝ていたはずのベッドの上には、例の首飾りだけがぽつんと残されていいた。
「首飾り?あいつ、こんな趣味あったっけ?」
仲間は怪訝そうな表情を浮かべつつ、手を伸ばしてそれを拾い上げた。
その瞬間、胸の奥を激しい衝動が駆け抜ける。
ーー欲しい。
ーーこれは、俺の物だ。
「……まあ、いないんだから、少しくらい借りても構わないだろう」
そう呟き、仲間は首飾りを懐へ収めた。
仲間の男には、同居している恋人がいた。
その夜、首飾りを見た恋人の女は、自分への贈り物だと思った。
「……嬉しい。ありがとう」
女は首飾りを首にかけて眠りについた。
ーー翌朝ーー
家の中から、人の姿が消えていた。
男も女も……まるで、最初から存在していなかったかのように……
不審に思った家族がその家を訪ねた。
家財はそのまま残っており、しかし、二人の姿はどこにもなかった。
ふと、足元をみると、そこには床に転がる、あの妙に心を惹かれる首飾りが落ちていた。
―――人が消えていく―――




