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【閑話・後編】愛し子の侍女


神殿の外は、あの日より多くの人が詰めかけていた。

民衆は神殿からの清浄な光に女神さまの慈悲を感じ、祈りにやってくる人も増えていた。


広間で毎日行われる説教では広間に入りきらない人々のために門が開け放たれていた。


連日、大神官様への面会申し込みがあり、詳しい様子を知りたい貴族たちから上位神官様方への面会申し込みも後を絶たなかった。


「すごい人の数ね…。毎日こんなに押し寄せるなんて…」


「女神さまの愛し子が降臨されたのだから当然よ。けれど…これでは愛し子様も落ち着かないわね。」


外回りの神官たちはその人だかりの整理に苦慮していた。


他国からの使者も来ており、王都近くの宿泊施設は常に満室の状態だった。


ーーその頃、神殿の奥ではーー


ミハル様は自分を指さし、ミューラとセミルに一生懸命に伝えてくださった。


「ミハル!ミ・ハ・ル!」


「あ、お名前……!私たちも!」


セミルが自分の頬に指をプニっとさしながら名乗った、」

「セミルと申します! セ・ミ・ル!」


ミューラが両手の指で自分の顔を指さし続けた

「ミューラです。みゅ・う・ら」


ミハル様が二人を順番に指さして

「セミル、ミューラ」

とお呼びくださるようになった。


その声を聞いた瞬間、二人は感激で胸が熱くなった。


ーー愛し子さまが降臨されて二か月後。

いよいよ神殿でのお顔見せが行われる事がきまり、そしてその更に一か月後に、王宮にの顔見せが行われることが決まった。

その旨の詳細が大神官様自らの言葉で伝えられた。


「顔見せの後、落ちついた頃を見計らって、愛し子様をヴァンデル領の神殿へお送りする。ここでは群がるものが多すぎるゆえ、愛し子様は外出すら叶わぬ。

愛し子付きの者で、ヴァンデル領まで付いていけない事情がある者は先に申し出よ」


説明を受け二人は話し合った。


「ヴァンドル領かぁ……、確かお魚がおいしい地方だよね。私は当然行くわ!」


「ミューラったら食い意地はりすぎよ。でもここより穏やかにお過ごしいただけるのでしょうね。私も行くわ!」


ヴァンデル領は隣国と境界を面していたが、神殿はより南側に位置しており、侯爵家と公爵家の領に近いところにある。

そこなら愛し子様も心穏やかにお過ごしいただけるだろ言うという配慮であった。


普段はミハル様を遠巻きで聖騎士たちが警護し、お傍には護身術の心得がある侍女が控えていた。

セミルとミューラも、心得としての護身術を鍛えてきた自負があった。


王宮での顔見世では聖騎士はおそばに行けない。

一応、大神官様の侍従に扮した聖騎士が2人補佐に回ることにはなったが、王宮内で武力を必要とする出来事等あろうはずがない。

侍女二人がおそばに侍りお守りするという方針であった。


「私たちが、必ずお守りします!」

「愛し子様のおそばから離れません!」


その様に誓いを立てて臨んだ、王宮での顔見せ。


だが化粧直しのため、ミハル様が個室に入られてすぐ。

近衛兵の制服を着た者たちが突然現れ、二人を羽交い絞めにし口をふさがれた。


「……っ!」(は、はなせ!)


必死に抵抗したが、人目のないところまで引きずられていく。


セミルは頭部を殴られて気を失った。


(……セミル!!)


ミューラは咄嗟に拳を避けてしまったため、気を失うことが ”できなかった” そしてならず者の顔を見てしまった……


顔を見られた者は無言でナイフを出し、鋭い刃物が彼女の首を切り裂いた。


ーー数十分後気を失ったセミルは廊下の陰で発見された。


「おい、大丈夫か? ……おまえセミル、愛し子様はどうされた?!ミューラは愛し子様と一緒か?!」


普段、愛し子様の護衛をしている聖騎士の一人が自分を起こし、必死に問いかける。


「……っ、わ、分からないの……殴られて……気が付いたら……」


しかし、近くにミューラの姿は見当たらず、近くには大量の血痕が残されていた。


「……そんな……ミハル様……ミューラ……」


セミルは、愛し子様も友人であり同僚であるミューラも守れなかった自分を責めて憔悴していた。


ーー翌日


「う、うわぁぁぁっ!ひ、人が……!人が埋まってる!だ、だれかーー!」


城の一角で厨房の下働きをしている者が悲鳴を上げた。


城の朝の残飯やゴミを捨てる場所。

悲鳴を聞いて人が集まって人々が見たものはゴミに半分埋もれた血まみれの女性。


「……っ、し、死んでるのか…?!」


「うぅ……」


「お、おい、生きてるぞ?!大丈夫か?! おい、早く引っ張り出せ!」


集まってきた人々にゴミの中から救出されたのはミューラだった。


ミューラは生きていた。ミューラの持つ ”加護” が彼女をぎりぎりのところで守っていたのだ。


やがて意識を取り戻したミューラは、役人にすべてを語った。


「近衛の制服を着ていました。私とセミルを拘束して、セミルは殴られて、私は……切られて……」



ミューラの首にはまだ、うっすらと傷痕が残っていた。ミューラは加護によりケガのほとんどは翌日までには傷痕も残らない。

であるのにもかかわらず傷痕が残っていた。それほどまでに深い傷だったのだ。



「ミューラ……っ!本当に……生きててくれて……!」


泣きながら抱き着くセミル。ミューラも目に涙を浮かべながら答えた。


「ごめんねセミル。心配かけて……」


二人が再開できたのは愛し子様が消えてから15日目の事だった。


その日、大神官アルセルドの執務室に二人は呼ばれた。



「二人とも…怪我はもう良いのか?」


穏やかな声に、二人は涙をこらえながら謝罪の言葉を発した


「申し訳ありません……愛し子様を守れずに……」


「事の詳細は聞いてるかね?」


アルセルドは問う。


「愛し子様が……いなくなられたことだけは……」


とセミル


「それ以上の事は……なにも……」


ミューラも答える。


大神官はゆっくりと頷き穏やかな口調で話し始めた

「そうか……。 愛し子様は、愛し子様のお国へ帰られたようだ。 危険な目に遭い、女神さまによって保護されておられるのだろう」


二人は息をのんだ


さらに信じがたい事実が告げられた。


「犯行は……王族の者によるものだ」


「…っ?!」


「王族が…?そんな……」


ミューラもセミルも驚きで言葉が続かなかった。


「愛し子様がお帰りになった後に、ヴァンドル辺境伯が神託を賜った。

女神さまは ”己のやるべきことをやれ” と告げられたそうだ。

絆は途切れぬ、ともな。

お前たちもまた、傷が癒え次第、己に足りない物を磨くのだ」


大神官の言葉に、恐る恐るセミルが口を開いた


「私たちは罪に問われないのですか……、神殿を出されるとか……破門とか……」


ミューラも口を開く


「愛し子様を守れなかったのに……?」


大神官は優しく二人を見つめ、穏やかな口調で諭すように言った


「愛し子ミハル様は、我欲に塗れた者を見抜かれる。

そのミハル様が、お前たち二人を自らの傍に置かれたのだ。

ミハル様が戻られた際に、再びお仕えする為にも精進するが良い」


ーーその瞬間二人は悟ったーー


自分たちの生涯の主は、女神の愛し子ミハル様なのだと。


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