白き祈りと交差する世界
ちょっと短いので、明日も一話投降。
第一王子ヴェルトラムに、エリエゼルの真実が告げられた。
本来であれば、それは父王の口から、後継者たる息子へと伝えられるべきものである。
しかし…… 王はいまだ、その場しのぎの言い訳をする癖を捨てきれていなかった。
仮に今の王の口から語られたとしても、真実が歪められる危うさは拭えない。
宰相が姿を消した後も、王は自らが抜け道を宰相に漏らしていた事実を語らなかった。
その捜索を提案する事すらせず、指摘されるまで沈黙していた。
それこそが、何よりの証左である。
事は「 愛し子 」 にまつわる真実である。
今の王にそれを託すことは出来ない。
そう判断したアルセルドは、自ら王子に真実を告げたのであった。
* * *
王と第一王子が去った後、大神官がゆっくりと口を開いた。
「 ……クレイアスよ、よいか? 」
「 大叔父上…… 」
クレアスが姿勢を正す。
「 クレイアスよ。 そなたの手にはまだ”導きの布”はあるか? 」
ーー 導きの布 ーー
赤い布はそう呼ばれていた。
「 はい、今も大切に持っております…… 」
大神官は深くうなずいた。
「 やはり残されておるか。エリエゼルの時とは異なり、今回は ” 導きの布 ” も ”祝福の布 ” も残されている。 ……偶然とは思えぬ 」
「 ……女神の御意思、でしょうか。 」
クレイアスの声には迷いと確信が入り混じっていた。
「 ふむ、そう考えるのが自然であろう 」
アルセルドは一度言葉を切り、続ける。
「 クレイアスよ。 女神の像へ祈りを捧げて見ぬか? 」
「 女神の像に、ですか? 」
「 そうだ 」
大神官は何かを確信している様に強くうなずいた。
「 これまでも幾度も祈りは捧げてきたであろう。 だが、聖堂の女神像の前で ” 導きの布 ” と ” 祝福の布 ” の両方を携えて祈った事は無かろう」
「 ……確かに 」
クレイアスは頷いた。
「 ならば試すが良い。
白き祝福の布と、赤き導きの布。
その二つを携え、女神の御前に立てば……、女神の真意に一歩近づけるやもしれぬ。」
クレイアスは真剣な眼差しで大神官を見つめる。
「 分かりました。 大叔父上……
女神のお心に近づけるよう、祈りを捧げます 」
* * *
ーー 翌朝
正装したクレイアスは、大神官に付き従われて聖堂の奥へと進んでいた。
厳かな空気に包まれた女神像の前に立つと、胸の奥に敬意があふれて来る。
両手には、
” 白き祝福の布 ”、
そして”赤き導きの布 ”。
「 ……女神よ 」
深く息を吐き、静かに目を閉じる。
祈りの言葉が心からあふれ出した。
( どうか、どうか御心をお示しください )
しばらくするとーー
「 ?! 」
まばゆい光が視界を覆い、クレイアスは思わず息をのんだ。
気が付けば、彼は白一色の空間に立っていた。
「 ここは……? 」
◇◇ 美春視点 ◇◇
美春が元の世界に戻ってきたとき、異世界で過ごした時間と同じだけ、こちらでも時間が流れていた。
向こうで三か月。
こちらも三か月。
スマホの電池はとっくに切れ、
おつまみは賞味期限切れ。
皿の上のかじりかけチーズはカピカピの謎物質へと進化していた。
「 ……現実って、残酷 」
私はフリフリピカピカの 「 聖女セット 」 をなんとか脱いで、普段着に着替えて、ため息をつく。
そして謎の物質と化したチーズなどを処分した。
脱いだドレスをハンガーにかけながら、ふと思う。
「 これ…… 洗えるのかなぁ 」
ふりふりで、きらきらしていて、素材も分からない。
洗濯表示マークのタグなんて当然ついていない。
悩んだ末、衣類用の除菌消臭スプレーをかけて、とりあえずハンガーにつるしておいた。
ーー 和室に聖女ドレス。
違和感が仕事しすぎている。
あれから洗濯機は何事もなく普通に動いていた。
異音も無く、静かに洗濯を終える。
途中で中を覗いてみても、洗濯後に隅々まで確認しても、洗濯槽はつやつやのステンレスのまま。
異世界が映ることもない。
あの出来事の後、私はもう一つの方のおまじないを思い出していた。
” 嫌なところをスッキリさせるおまじない ”
『美春、嫌な所に手をかざしてこう言うんだよ。
” ¤Ω∮≒ψ∽✠Ѫ⟁‼ ” !
これでスッキリするからね』
おまじないを教えてくれた時のおばあちゃんの声がよみがえる。
考えてみれば、お家に帰れるおまじない「 Ω∮Ѧ∽✧∰ψϞ✠⟁≒ 」 も、
嫌な所をスッキリさせるおまじない「 ¤Ω∮≒ψ∽✠Ѫ⟁‼ 」 も、
どちらも日本語じゃない。
音も、文字も、まるっきり別の言語。
私は納戸の奥から、古いアルバムを探し出した。
そこに写っていたのは、若い頃のおばあちゃんと曾祖父母。
写真の裏を見る。
「 これ、向こうの文字……? 」
写真の裏に日本語ではない文字のようなものが書いてある
その中に一つだけ見覚えがある。
” エリエゼル ”
ーーあちらで何度も目にした誰かの名前。聞けばそれを指さして 「 エリエゼル 」 と答えてくれた。
神殿で大きな肖像画を見た時にもその下の札に書いてあったのと同じ文字。
「 やっぱり、おばあちゃんの本当の名前は…… エリエゼル 」
胸の奥で確信の様な思いが芽生える。
どういう経緯か分からない。
だけど、おばあちゃんはあちらの世界から日本に来て、” 遠藤絵里 ” として生きてきたんだ。
おばあちゃんにいったい、何があったんだろう……
* * *
その夜。
私は何となく、異世界のキラキラ聖女セットの腕輪を持って布団に入った。枕元に置いている祖母のお守りと見比べてみる。
特に同じようなデザインでもない。
材質も違う。
でも、きっとこのお守りもあの世界の物なのだろうと思う。
分からないことが多すぎて、胸の奥にじわじわと不安が広がる。
布団でゴロゴロしながら考えていたが、気づけば私は、そのまま眠りに落ちていた。




