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王家を蝕む罪

アルセルド大神官視点


現王には三人の王子がいる。


第一王子ヴェルトラム──亡き正妃クローシェリアの子。

第二王子ルシヴァン──“現”王妃ドリアーナの子。

第三王子ダリオン──側室ミランダの子。


このうち、次期国王として最もふさわしいのは、誰が見ても第一王子ヴェルトラムだった。

慎重で聡明。政略結婚の意義も理解し、婚約者とも良好な関係を築いている。

今回の“愛し子騒動”の中でも、王子としての責務を果たそうと奔走していた。


なにより、前王妃クローシェリアは賢明であった。

幼い頃から愛情と厳しさを持ってヴェルトラムを育て、彼の周囲を有能な師や忠実な護衛で固めた。


――その結果、第一王子は誰もが認める「次の王」に育ちあがったのだ。

……にもかかわらず、現王はいまだに第一王子を正式な世継ぎとして指名していない。


理由はただ一つ。

現王妃ドリアーナの“希望”に配慮したからだ。女に甘い言葉を囁かれると、王は迷わず信じてしまう。

その結果、第二王子ルシヴァンは「自分こそが王になる」と真剣に信じ込み、傲慢さは増すばかり。

そして今回の惨劇へとつながった。


私は、うなだれる王へ鋭い視線を向けた。


「婚約者を蔑ろにした時点で、本来なら継承権を剥奪して然るべきなのだ。

王族の婚姻は国を守るための“契約”なのだぞ。


それを“再教育”などという生温い処分で済ませた……それが、この有り様だ!」


沈黙が重く落ちたあと、王はようやく搾り出すように言う。


「……この責任はいかようにも……この身にかえましても……」


だが、責任問題はもう個人の範囲では済まされない。


第二王子ルシヴァンがミハル様を閉じ込めていた部屋には、意識を曖昧にする香が焚かれていた。

そして王子自身は——その香を無効化する薬を事前に飲んでいた。


つまり、自分だけ正常で、彼女を思うままにしようとしたという事だ。


考えるだけで虫唾が走る。

しかもその標的は “女神の愛し子”。

これは「普通の犯罪」ではない。

神殿への攻撃であり、女神への反逆に等しい。


普通の人同士の犯罪であれば裁くは国の法。

国同士であっても神殿は口を出すことはしない。

しかし、愛し子がかかわるのであれば、裁くは神殿になる。


「 あの二人が行ったのは普通の犯罪ではない。 神敵行為だ。 第二王子と王妃の取り調べは王宮ではさせぬ。 場合によっては…… 行為が国ぐるみだと判断されれば、この国自体の“破門”もあり得る。

両名を神殿へ護送せよ。わしが直々に取り調べる」


王はただ項垂れるしかなかった。


* * *


ドリアーナは、小国エルラントの王女。

彼女がカシェリオスへ嫁いだ当初、王にはすでに正妃がおり、第一王子も生まれていた。


王族である自分が王族へ嫁ぐ。


ーー当然、正妃となると疑って無かった彼女は側室の立場となり、当初は激しく荒れたという。


だが、ある時期を境に落ち着き、正妃とも良好な関係を築いた。


その“変化”の時期は、エルラントから新しい側仕えが来た時期と一致する。


「……何らかの機会をうかがっていたか。あるいは別の理由があったか……」

私は低く呟いた。


拘束の際、王妃の宮から逃げ出そうとした数人を捕らえたが――

その多くが 王妃の故国とは違う訛り を持っていた。

ヴァルディア南部の訛り。


エルラント王国とヴァルディア王国は森林を挟んだ隣国同士。距離も近い。

住民の行き来もあるため、訛りを持つ者がいるのは不思議でもないが、嫁いだ自国の王女の周りを王女の周囲を、別国出身者ばかりで固めるなど、異常だ。


拘束された際、王妃の腹心の侍女が突然、


「すべて私がやりました!」


と名乗り出た。


「愚か者……そんな言い訳が通じると思っているのか」


大神官が吐息と共に言い捨てる。


ーー神託も、第二王子がミハル様を閉じ込めていた室内の会話も” 一部の者にだけ ” に伝えられていた。


ミハル様を意のままにしようとしていた第二王子の言葉。

あの虫唾が走る内容の会話はホールの “ 断罪出来る権限を持つ者たち ” だけに伝えられていたのである。


王妃側は室内での会話内容を知らぬ。ゆえに 身代わりを立てることができると踏んだのだろう。


「 女神は…… そのような浅ましい考えを、事前に潰されたのだろう 」


私の呟きに、周囲も頷く。

そしてその会話を我らに聞かせたということは。


「 己らの不始末は、己らで解決せよ…… そういうことだな 」

そう呟くと、周囲も重々しく頷いた。


とはいえ、ルシヴァンは隠す気などないように最初から 「 母上が、母上が 」 と喚いていた。

今まで何をしても、母の名を出せばもみ消せると信じてきたのだろう。


ドリアーナもまた——拘束されながらなお叫んでいた。


「わたくしは嫁いできたとはいえ、エルラントの王族です!

このような扱いはありえません! 陛下を……陛下をお呼びくださいませ!」


「まだ王にすがれば逃げられると思っているのか」


私は冷たく告げた。


「……女に、そう思わせてしまった現王の罪は……重い」


逃げようとしていた王妃の従者の部屋からは、正体不明の薬が見つかった。

毒味でも検出されず、単体では害もない。

しかし、用途が分からぬ薬品などあり得ない。


「……クローシェリア様が毎日口にしていた物を再調査せよ。

ドリアーナ妃が管理している物があれば、それらも徹底的に調べよ」


宰相の失踪。

王妃と第二王子の蛮行。

王の秘密漏洩。

そして——亡き正妃クローシェリアの死。これらに王妃や宰相が関わっている可能性は、もはや否定できない。


「……これほどの我欲と罪が隠されていたとは……」


闇に沈んでいた罪が、次々と姿を表していく。


その日の取り調べを終え、自室へ戻った私はふと視線を向けた。

部屋の片隅の箱——その中には、白い薄布がきれいに収められている。


クレイアスの命を守った白い薄布。


エリエゼルのときは、彼女に関する物はすべて消えていた。

だが今回は“残っている”。


これが残って居るという事は、エリエゼルの時とは違う。これらは何らかの啓示なのではないか。


「……まだ、見落としている事がある……?」


腕を組み、瞼を閉じる。

これまでの出来事を一つずつ紐解きながら、私は静かに考え続けた。



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