消えた宰相
なんとかかんとか復帰いたしましたので、書かせていただきます。
よろしくお願いします。
闘病中、投稿できなかった分を一応二話連続で。
その後は月曜日の週一投稿に戻ります。
◇◇アルセルド視点◇◇
「 ランセリウス宰相は、まだ見つからぬか! 」
アルセルドの怒号が謁見の間に響き渡る。
「 ただいま捜索中にございます! 」
城内を駆け巡る聖騎士たちが声を張り上げるが、ーー宰相ゼファルド・ランセリウスの姿は、どこにもない。
愛し子にまつわる件は公にできないため、城は表向き
「王妃が倒れたため、毒の可能性も含め捜査中」
という苦しい説明で、出入りを全面封鎖している最中だった。
だが、その城から宰相である ゼファルド・ランセリウス が姿をくらました。
この状況で消えるなど尋常ではない。
「 自分を疑え 」と言っているようなものだ。
ドリアーナ妃と第二王子ルシヴァンの身柄はすでに確保。
特にルシヴァンは、クレイアスが激怒のあまり殴り殺しかねない雰囲気だったため、急ぎ押さえた。通路は封鎖。
外には聖騎士を常駐。
ーーならば、どうやって宰相は姿を消した?
普通ならば逃げ道などないはずだ。
ーー普通ならば、だが。
アルセルドはゆっくり、王へと顔を向けた。
「……王よ。まさかとは思うが……
王族しか知らぬはずの通路を宰相に教えてはおらぬだろうな?」
ピクリと王の肩が跳ねた。
「 どこを教えた……? 」
怒気をにじませた問いに、王は項垂れながら答える。
「 二か所…… 」
「 どこと、どこだ 」
「 ” 王家の道 ” と ” 月の道 ” です…… 」
「そこか……」
アルセルドは天をあおぎ、もう怒りを通り越した無力感に包まれた。
城には有事のための避難路が複数ある。
王族の中でも後継者しか知らぬもの、王族全員が知るもの、側近にのみ教えられるもの。
昔は、王族の婚約者がこの道を知った後に婚約が破談となれば、毒杯を賜るほどの秘事であった。
それほどまでに秘密性が高いものなのだ。
にもかかわらず、王が宰相に教えていたのは、王族全員が知るべき通路と、他国から嫁いできた王妃には決して教えられぬ通路、その二か所だった。
「 ……この、馬鹿者が! 何のための避難路か! 王家の血筋を守るための通路を、王族以外に伝えて何とする! 」
秘密の道を外部に知らせることは、刺客の侵入路を用意するも同然。
一度漏れた道は塞ぐほかない。
「 む、昔…… 城を抜け出す際に、まだ宰相ではなかったゼファルドに…… 」
「 ……貴様は……! 王族の命を守る道を、遊び半分で使い、さらに他者に漏らしていたというのか! 」
アルセルドの怒号は、もはや雷鳴そのものだった。
「理解しているのか? 貴様の行いは、王家を、国を、そして貴様自身の妻子を危険に晒す行為だ!」
震える王を睨みつけ、アルセルドは命じる。
「そなたが教えた二つの道を、徹底的に捜索させよ。
捜索完了後は完全に封鎖だ。刺客が通れる道など二度と残すな」
王は小さく頷くしかなかった。
* * *
現王ーー甥は性根が悪いわけでは無いが、素直で、凡庸で、流されやすい。
幼い頃から耳障りの良い言葉、美しい顔立ちに心を奪われやすい質だった。
これは幼いころから何度も指摘してきている。
真面目な師の忠告も聞かず、
甘言をささやく女や、都合の良いことしか言わぬ貴族の子弟ばかり近くに置きたがった。
それでも若い頃の彼は、諭せば反省した。
努力もした。
私はそこに希望を見出し、彼が困難に陥った時は親身に相談に乗り、正しき道に導こうとした。
彼もまた、師や私に相談し正しき道を模索しようとしていた時期もあった。
甥の「素直さ」は、裏を返せば
“もっとも操られやすい資質”もあった。。
他に王位を告げる兄弟がいれば良かったのだが、甥には側室腹の姉と妹しかいなかった。
親戚筋に勤勉で能力がある者はいたが、嫡出の王子がいるのに他を押せば内乱の芽になりかねない。
能力が無かろうがこの甥しか跡継ぎはいなかった。
本人とっても、それは辛いことであっただろう。
能力が足りずとも、周りが支えれば国は回るーー
そう兄(前王)は考えていた。
そのため兄……
前王は、公爵家の才女クローシェリアと婚約させた。
彼女こそ、王を支える力を持っていた。
執務に追われ、子と向き合う事の無かった前王である兄と、貴族の義務として王妃になり我が子に関心の無かった王妃の子。
寂しさからか甥は城を抜け出したり、学園で女生徒にちょっかいをかけたり、素行の悪いものを引き入れたりと王族として眉を顰める様な行動をすることも有った。
兄や当時婚約者であったクローシェリア様から相談を受け、甥に「 暇なら神殿に来るように 」と誘い、何かと相談を受けるようになった。
親の愛情に飢えていた甥は私に良く懐き、足繫く神殿に通ってくるようになり、いろいろと世話を焼くようになった。
そのうち甥は奇行に走らなくなり、クローシェリア様を娶り、王となった。
だが、彼女は病に倒れた。
不自然なほど突然に。
私はクローシェリア様の死の原因を疑っていた。
本当に病死であったのか?
だれかに仕組まれたのではないか?
証拠はない。
だが、疑念は拭えなかった。
その頃ちょうど、
・クレイアスの両親が不審死
・大神殿で不正発覚
・王宮に怪しい使用人が増え始める
ーーという不穏が重なった。
クローシェリア妃が病没された折、私はクレイアスを守るために、辺境に身を置いていた。
当時、王妃の座が空白のままでは、他国に付け込まれる隙となるとの声が上がっていた。
ゆえに、新たな王妃を決めるべきであると。
……だが
「 ……あの女は許してはならなかった 」
私は王に進言していた。 あの女には裏がある。 決して王妃に据えてはならぬ、と。
むやみに権力を与えてはならぬと。
あの女が嫁いてきた頃から王宮内、そして国内が微妙に変化を見せ始めたのだ。
クローシェリア様が存命の頃は彼女がしっかりと周りを掌握していた。
しかし賢妃亡きあと、身元の怪しい者も王宮使用人にいる事が確認されていた。
誰かが引き入れているのは確実なのだ。
しかし、当時の王はその女に夢中であった。
王は警告を無視し、浅はかにも彼女を王妃に据えた。
宰相もそれを支持した。
あまりにも安易であり、浅慮な行動だった。
だが怪しいとは思いながらも、”大神官”としての、権力をもって介入することはできない。
国同士の争いや駆け引き。
それに神殿は手出しをしないからだ。
私にできる事は、忠告しかなかった。
この王は国家を揺るがす火種を、自ら招いた。
横を見ると、王は肩を落としていた。
「……愚か者が……」
その呟きは、重く、冷たく、誰よりも深い失望に満ちていた。




