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お披露目と肖像画

 ◇◇ 美春みはる ◇◇


美春みはるがお手降り練習を始めてから数日後……


( ……まじか、これ…… )


神殿の高い位置にあるバルコニーの前で、美春は立ち尽くしていた。

窓の向こうに広がるのは、無数の人々。

ざっと見ただけでも、広場は人の海で埋め尽くされている。

見渡す限り人人人・・・・・・


ここに立つまでの事を、美春は思い出していた。


◇◇


 今朝は目覚めるとすぐに一口サイズのサンドイッチが用意されていた。

 それを食べて果実水をのむと、すぐに風呂に放り込まれ、香りのよいオイルで全身を揉み込まれた。


 「 ……ちょ、まって、それ以上揉まれるとなんか出る。 お腹揉まれるとさっき食べたサンドイッチが口から……! 」


 幸い、お腹周りは短時間で済んだ。


( よかった、せっかくお風呂に入ったのに、また入り直しする羽目になるところだった…… )


 全身をこれでもか! と揉み込まれ、今の私は良い感じに漬け込まれている浅漬けきゅうりの気持ちになっている。


 ( いや、オイルで揉みこまれたから、マリネ…… ?)


 そして着せられた衣装は、清廉さと荘厳さを兼ね備えた特別仕様でいつもの清楚寄りの衣装よりもキラキラ度が2倍にはなっている。

 袖や裾がふわりと広がり、光を反射して揺れるたびに輝く。


 サイズがぴったりだ。

 そして一人では着脱ができない作りだった。


 ( なんでこれ一人で脱ぎ着できない構造なんだろう…?

もしかして「自分で脱げない」ことが高貴さの証明だったりする文化なのかな? )


 髪を複雑に編み込まれ、化粧を施され、太陽の装飾が施された冠を戴かされる。

 そして侍女に誘導されてきたのは大きな窓があるバルコニーの前。


 そこで立ち尽くす羽目になった。


 そのバルコニーの前で、侍女から「 豪華なスティッククリーナースタンドもどき 」にセットされていた装飾たっぷりの豪華な杖を手渡され、にっこりと微笑まれる。


 お手降り練習の時にも使ったあの杖だ。

 窓の横に控えていた着飾った侍従たちが無言で並び、ゆっくりと窓を押し開けた。


 『『 うぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーー!!! 』』

 『『 きゃぁぁぁぁぁぁぁーーー!!! 』』


 爆発するような物凄い大歓声だ……

 鼓膜が変になりそう……

 神殿の壁まで震えている気がする……


 アルセルドさんが威厳のある杖を手に、先にバルコニーへ歩み出る。

 その時、鐘の音が厳かに鳴り響き、ざわめいていた群衆が一斉に息をのんだように静まり返った。


 『 敬虔なる信徒よ。 神の恩恵に触れるもの達よ。

ここに愛し子様がお姿を現されるーーーー 』


 おじいちゃん神官が演説を始めた。声が遠くまで広がっていく。魔術的な何かなんだろうか。


 『 我らが信仰と祈りに女神さまが応えてくだされたーーー

ーーーーーと天の慈悲はここに顕現しーーー 』


 『『 おぉぉぉぉぉぉぉ!! 』』


 演説になにかすごい内容が含まれているらしい。

 途中で大絶叫が沸き起こる。


 ( 何を言ってるのかわからないけど、なんかすごい事言ってるっぽい……? )


 『『 愛し子様ーーー!! 』』

 『『 神の祝福をーーー!! 』』


 まだ大絶叫が起きた。


 そんなことを思っていたら、演説が終わったらしい。


 侍女が手を取りゆっくりと歩くように誘導される


 ( や、やばい、ほんとに出たくない…… )


 怖気づく私をよそに、アルセルドさんは笑みを浮かべて手招きする。


 ちらっと見ただけでも、とんでもない人数だ、その上あの熱狂的な歓声。

 見えるところ全部に人がいる。


 ほんとどうしよう、と思いながらも誘導されてそのまま出てしまった。


 『『 愛し子様ーーー!!! 』』

 『『 おおぉぉぉ……! 』』


 揺れるほどの大歓声。


 祈りを捧げる者。 涙を流す者。 子を掲げ祝福を求める者。

 幾千もの視線が私に突き刺さる。


 バルコニーの手すりの横、装飾で群衆からは見えない所に身をかがめている侍女が手を振るゼスチャーをする。

 「 練習しただろ、さあやれ 」 という空耳が聞こえてくるような無言の圧。


 ( ……今やるのか、練習したアレ…… )


 杖を立てて、深呼吸。

 練習通りに、ゆっくりと…… ぎこちなく手を振った。


 『『 うぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーー!!! 』』


 歓声が一気に跳ね上がり、思わず体がビクッっとしてしまった。



 私はひたすら手を振り続ける。 ひたすら振る。 まだまだ振る……


 ーー結構長い。


 ( これ、いつまで?! ねぇ、いつまでやればいいの?! )


 ちらちらと侍女をみても「 下がって良いよ 」の合図はまだ出ない。


 ほんとに長い。 笑顔らしきものを顔に貼り付け続けるうちに、なんか顔がぴくぴくしてきた。


 腕が疲れての高さが下がってくると、バルコニーの装飾に隠れている侍女が

 「 もっと高く! 」と言う様な動作をしてくるけど……。


 ( でもね、二の腕がプルプルしてるんだよ! 顔もぴくぴくしてるのが自分でも分かるんだよ! )


 明日は絶対、腕も顔も筋肉痛だと思う。


 しばらくすると、大きな鐘の音が響き渡った。

 と同時に、侍女が扉を指さした。


 「 ーー帰って良し! の合図だっ! 」


 急いで中に入りたい気持ちを抑えながら、しずしずとした足取りで、扉の内側に引っ込んだのだった。


 部屋に入った美春は椅子に崩れ落ちる様に座りこんだ。

 すぐに侍女たちが冷たい果実水を運んできてくれて、一気に飲み干すとホッと息を吐く。


 「 ……つ、つかれたぁ…… 」


 外ではまだ、アルセルドさんの演説の声が聞こえてきている。

 群衆のざわめきも絶えない。


 侍女が小さいなビスケットのようなお菓子とお茶を運んできてくれた。

 一口齧っていると、控えめにノックの音がする。


 侍女が扉を開けると、数人の見知らぬ人たちが入ってきて膝をついて挨拶をした。

 侍女が彼らに何らかの説明をし、その言葉を、彼らは真剣に聞いていいる。

 そして侍女がこちらを振り返り、笑顔で座り方を直すよう指示してきた。

 すこし斜めに、といった姿勢。


 「 こうかな? 」


 指示に従って腰をずらすと、すぐに服の裾を整えてくれる。


 ( これって、写真撮るときみたい…… )


 美春は成人式の時に写真館で写真を撮ってもらった時の事を思い出した。

 早朝から予約をした美容院で着付けしてもらって、地元の成人式に出たっけ。

 あの時も、係の人が着物の裾を丁寧に直してくれた。 何枚かはおばあちゃんと並んで写真を撮った。


 ( もしかして、写真を撮るの? カメラがあるのかな? )


 しかし運び込まれてきたのは、木製のイーゼルと真っ白なキャンバス。

 先ほど傅いて挨拶していた人たちが、今度は一斉に筆を走らせ始めた。


 ( この人たち、画家だったんだ )


 イーゼルは元の世界に有ったものとよく似ている。

 職業に必要な道具って、どの世界でも似てくるのかな? と考えながら画家を見ると……


 ( ……目が怖い )


 こちらを食い入るように見ながら一心不乱に筆を走らせていた。

 やがて侍女の声がかかり、ようやく筆を止めた。


 ( 終わった……! )


 と思ったら、今度は杖を渡される。

 にこにこと笑顔の侍女が天井の端を指さした。


 「 ん~と…… そこに杖を突き刺さすの? 」


 やろうとしたら、慌てて全力で止められた。

 どうやら杖をもって斜め上を見上げろ、という指示だったらしい。


 ( 言葉が通じないのって、こういう時にほんと不便…… )


 指示通りにすると、再び画家たちは筆を走らせ始めた。


 ( ……終わってなかった…… )


 その後もさらに衣装を変えてもう一度。

 お披露目と絵のモデルを終えて、一日が終わったころにはぐったりしていた。


 その後、侍女たちの丁寧なマッサージが気持ちよくて寝てしまった。


  ーー 数日後 ーー


 一枚の大きな絵が美春の部屋に届けられた。

 そこに描かれていたのは、神々しいほどの気品をまとい、慈愛に満ちた笑みを浮かべる女性。


 私にそっくりだけど……。

 でも二割増し、いや三割増しで美人の「 誰か 」。


 「 ……これ誰? 」


 服装はあの日のドレスと同じ。

 顔も似てる。

 でも、こんな気品あふれるそっくりさんなんて知らない。


 もちろん自分に気品(そんなもの)なんてない。


 ( すごいな、画家の技術! 加工アプリいらずじゃん! )




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