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群がる者たち

 その日、神殿に満ちた光は王都周辺の街や村からも目撃されていた。


 あまりの神々しさに、ひれ伏して祈りを捧げる者もいれば、ただ驚きの声を上げる者もいる。

 中には、よからぬ企みを胸に秘める者さえいた。

 そして、この光を目にした者で、”聖姫エリエゼル”の伝承を思い出さぬ者はほとんどいなかった。


 「ーー大神官様、光についてご説明をとーーーより連絡がーー」


 「ーー大神官様、小国群の祭司長から魔道具連絡がーーー」

 

 「ーー公爵領の祭司より、光の件でお伺いしたいとーーー」


 連日、神殿の謁見室には貴族や高官が押し寄せていた。

また他の国にある神殿からも問い合わせが途切れる間もなく届いている。



「 大神官殿、ご説明を! 」


 この日も、宰相が入室するなり、声を荒げて詰め寄ってきた。

 大神官アルセルドは椅子に深く腰を下ろし、手元の茶器を静かに置くと、まるで心底不思議そうに首をかしげた。


 「 はて……何の説明かの? 」


(ミハル様の降臨時より、手の者に調べさせたが……思った以上に広範囲に光が広がっておった。)


 光は想像以上に遠くまで届ていた。当時の出来事を知る者は必ずや愛し子と結びつけることであろう。

  だが、だからといって素直に教えてやる義理はない。


 宰相は机に手を叩きつけるようにして言い放つ。


 「あの光です! あれは愛し子に関するものではありませんか!」


 大神官は口元だけで薄く笑い、わざとらしく宰相の頭を見やった。


 「 はて? あの光とは……? おお、宰相殿の頭部のことか? 

……気の毒じゃが、カツラの作成は神殿の管轄外でな。 他を当たられよ」


 「 ……っ、のらりくらりと! いつまでも誤魔化せると思うな! 」


 宰相の額には怒りの血管が浮き出ていた。


 「ほう…… 汝はいつから神殿に命令できる立場になった?  神殿は女神の家、そして愛し子の家じゃ。 神殿に命令できるのは、唯一、女神のみぞ」


 侍従に目配せして、追い出す様に部屋から出した。


 大神官は茶をひとくち含みながら、内心で呟く。


ーーこの宰相家も愚かになったものだ。


 権力を持ちすぎた家は腐敗する。 神罰の時代は他よりまだ ()()だったが……

今や神殿を恫喝するほどに傲慢になったか。


 美春みはるが降臨してから20日目の早朝。

 その日も朝から喧騒が途切れることなく、入れ替わり立ち替わりやってくる貴族たちの中で、ついに国王自らが神殿に足を運んできた。


 「これはこれは陛下。 このような早朝から神への祈りとは、まことに結構なことですな」


大神官は皮肉ともとれる笑みを浮かべて迎える。 


 「大神官アルセルド殿、いつまでも沈黙は許されませぬ。 あの光は聖姫エリエゼルの導きの時と同じ光だと、当時を知る者が証言しております。 愛し子に関わる事態であるのは明らか。 王宮への報告を願いたい」


 「 ほう…… 誰が許さぬと……? 申してみよ 」


 「 ……っ、申し訳ありません。 言葉が過ぎました。 し、しかしーー 」


 「 ふむ、欲しいのは報告だったかの? ……では報告してやろう。 愛し子様が降臨された。 神殿にて心安らかにお過ごしじゃ。 周囲を騒がせるでない。 ほれ、報告は以上。 お帰りはあちらじゃ 」


 王の顔に焦りが浮かぶ。


「 前回の愛し子様は王家の姫でありました。 ならば愛し子様は、国で保護するべきでございましょう。 ぜひ王宮にお迎えしーー 」


 大神官の瞳が冷たく光る。


 「 王よ。 愛し子様に関する事は神殿の管轄じゃ。 女神の神殿は何もこの国だけにあるわけではない。 神殿は世界中に存在し、どの国も女神を祀っている。

なのになぜこの国に媚びねばならぬ? この国が愛し子様にした仕打ちを忘れたか? 再び同じ過ちを繰り返すつもりか? 

 ……今度は()()()()()では済まぬかもしれぬぞ 」


 王家では、王位についている者やその後継には必ず「真実の歴史」が伝えられていた。


 エリエゼルの母への仕打ち、本人への仕打ち、そして王家による歴史の改ざん。それによる4年に及ぶ”神罰”。


 時の宰相家など限られた家系にも、一部は伝えられている。

 当然、先日ここで神殿を恫喝した宰相が知っていてもおかしくないはずだ。


 「 ……だからこそ、エリエゼル様のような悲劇が二度と起きぬよう、王家でお迎えし、国を挙げてお守りすると申しているのです!」


 王は一歩前へ踏み出し、必死に食い下がる。


 「 だまれ小童(こわっぱ)。 口だけは達者になったものよ。

だが実際はどうじゃ? 愛し子を囲い込み、自由を奪い、王家に都合の良い婚姻を結ばせる腹積もりじゃろう。


 この数日の動きを、わしが把握していないとでも思うか?

 ……おぬし、息子たちの婚約を保留にしたな? ――愛し子様がどの息子を気に入っても結婚できるように、じゃろうな? 


 特に二番目の息子は婚約者もおらぬのだったな? 学園で性質の悪い女に入れあげた挙句、婚約は解消であったな?  今は肩身が狭い思いをしているであろう? あの短絡思考の若者が愛し子様を妻とできれば一気に挽回できると思ってもおかしくはない 」


 「 そ、それは…… たしかに気に入っていただけるなら光栄ではありますが、私は愛し子様のためにーー 」


 「 愛し子様のため、か。 よく言うものじゃ。 この早朝から押しかけるのは、愛し子様に朝から己の接客せよと言っておるのと同じじゃぞ。 陛下はいつから神より偉くなられたのやら 」


 王はなおも言葉を続けようとする。


 「……では、せめて顔見せだけでもーー」


 「 いずれ、そういう機会もあるやもしれぬな。

 ……王よ、よく聞け。 愛し子の住む地は、愛し子が決めるのじゃ。

愛し子が別の国を希望すれば、希望した国の神殿に愛し子は移る。 愛し子が伴侶を決めれば、その身分は問わぬ。 国の力関係は愛し子には関係ないと知れ 」


 大神官はそう言い、従者に目配せして王を退室させた。 静寂が戻ると、大神官は一息ついて呟く。


 「 ……やれやれ、騒がしいことじゃ…… 」


 大神官はゆっくり目をつぶった。


 ……光を見た者は、当然、愛し子の降臨と結びつける……これは当然であるが、愛し子が 「 女性である 」 事が外に漏れるのが想定より早かった。


 「 ……神殿内の ” 掃除 ” も必要かもしれぬな…… 」


 大神官は静かに呟いた。


書き貯めがなくなってきたので、更新ペースが落ちます。

次の話より、週二回の更新になりますので、よろしくお願いします。


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